このような状況で、突発的な支出に対する解決策のひとつが高利貸しだ。とはいえ違法なサービスも多く、インドネシア金融サービス庁(OJK)によると、2023年の1年間で2200を超えるオンライン高利貸し業者を操業停止にしたとのことだ。
インドネシア人の友人から筆者が聞いた話だが、彼の知り合いで違法な高利貸しに手を出した人がいた。ほどなく高金利で返済が滞り、「個人情報や写真をネット上にさらす」などの脅迫を受けたそうだ(法律の専門家に相談したところ、違法だったので返済の義務はないとのことだった)。
給与前払いサービスを展開するGajiGesa
OJKは、国民の金融リテラシーを向上させるべく、サイトやアプリなどを通じてお金について学べる機会を提供している。こうした官製の取り組みとは別に、民間企業も労働者を高利貸から守るべく別の形でソリューションを提供。GajiGesaというスタートアップは給与前払いなどのサービスを展開している。GajiGesaは、Vidit Agrawal氏とMartyna Malinowska氏によって2020年に設立された。ふたりは夫婦でもある。Vidit氏は配車アプリUberの上級オペレーションマネージャーや、オンライン決済大手Stripeのアジア太平洋地域事業部長などを務めた人物だ。一方、Martyna氏はJ.P.モルガンやクレジットスコアサービスLenddoEFLなど、金融業界での豊富な経験を持つ。
高利貸しに関して、Vidit氏は次のように指摘している。インドネシアでは、4800万人の労働者が月収700米ドル未満で生活しており、 そのうちの30%は、年利350%にも達する高金利の悪徳業者など、非公式のルートを通じて借金をしているのが現状だ。
顧客満足度90%以上の給与前払いサービス
この事態を打開すべく、GajiGesaは給与の前払い制を導入したい企業向けに事業を展開。このサービスがあれば違法な高利貸に手を出さずに済むため企業側だけでなく従業員にもメリットがある。企業側のメリットは、離職率を下げられること。たしかに、従業員の満足度向上に寄与することは間違いない。具体的には、従業員は働いた分の給料を専用のアプリで確認でき、手続きから最短で2時間以内に前払いを受けることができる。
銀行口座への振り込みはもちろん、電子マネーとして出金することも、電気代や携帯電話料金の支払いに充てることも可能だ。給与を金の投資に回せる点も興味深い。同社は、前払い給与で金の投資ができるサービスは世界初だとしている。
さらにGajiGesaは、給与前払いだけでなく勤怠管理や給与管理、財務管理などさまざまなサービスも提供している。同社が2023年にインドネシア経済金融研究所と共同で行った調査によると、顧客満足度は90%以上だった。幅広い支持を集め、すでに200以上の企業で30万人以上の従業員が利用し、取引件数は100万件を突破。2022年には、シードラウンドで250万米ドルの調達に成功している。
AIも積極活用でサービスの効率と品質維持
GajiGesaは、AIも積極的に活用している。「顧客数を3倍に増やしても、サービスの効率と品質を損なうことなく成長するにはどうすればよいか?」という問いを立て、ひとつの答えとして「AIによるチャットボットの運用」に行き着いた。とはいえ、インドネシア語の略語やスラング、タイプミスなどにも対応できなければ、実用レベルには届かない。そのあたりも考慮に入れてAIに学習させた結果、2ヵ月で目覚ましい成果が見られた。
チャットボットの回答の95%が正しいもので、問い合わせの80%は人間の手を介さず完結したのだ。問い合わせの解決時間も15分から1分へと大幅に短縮。リピーターは平均して2週間に1回の割合でチャットボットを利用しているという。今後は地方語への対応など、さらなる改善も視野に入れている。
日本でも給与前払いサービスは拡大中
給与の前払いサービスは、日本でも拡大しつつある。日本で先駆けとなった株式会社JOBPAYだけを見ても、2017年から2019年にかけて同社のサービスCYURICA利用件数は3.2倍の伸びを示した。20代から30代前半が全利用者の47%を占めているという。人材不足に対応するため、多くの企業が導入を進めており、さらなる拡大が見込まれる。実際に、給与の前払いサービスを手掛ける企業も増えており、「給与前払いサービスおすすめ10選」という記事があるぐらいだ。インドネシアと日本とでは状況の違いもあるものの、GajiGesaの取り組みから学べる部分は大いにあるだろう。
引用元:GajiGesa
(文・里しんご)