需要の高い職業として心理学者やセラピストの活躍が期待されるなか、米国AIスタートアップのAKAは、AI療法ロールプレイプラットフォーム「Muse Alpha」を4月末に発表した。
同プラットフォームにより、メンタルヘルス専門家を目指す学生のトレーニングと教育に革命を起こす構えだ。
生成AIエンジン「Muse」開発のAKA
AKAは、人間の知力と認知機能を支援または強化することをミッションに掲げる、2009年創業のスタートアップ企業。なお2015年11月には東京に日本法人を設立している。これまで生成AIエンジン「Muse」を開発してスマホアプリ、PepperやMusioなどのソーシャルロボットと統合し、ユーザーの認知能力やコミュニケーションを支援してきた。
同社は2012年にシードラウンド、その後2013年と2016年にシリーズAラウンドで資金調達を実施。直近では、2021年1月にシリーズBラウンドにて資金調達に成功し、総資金調達額は3,260万ドルにのぼる。(出典:Crunchbase)
そんなAKAが今回発表したMuse Alphaは、セラピストを目指す学生にユニークな没入型の体験、そして高度なAIセラピストとの模擬療法セッションを提供するプラットフォーム。学生がカウンセリングのスキルを練習し、患者と接する際の自信を育む環境をつくるという。
AIを活用してメンタルヘルス療法をロールプレイ
Muse Alphaでは、学生がAIセラピストとのロールプレイングに参加し、実際の患者とのやり取りや治療セッションで遭遇する困難な状況をシミュレートすることが可能。これにより、学生が問題解決スキルとコミュニケーションスキルを身につけることを促す。ロールプレイの後は、セッションを分析することで臨床的洞察を得て、患者のニーズに対する理解を深められる。ダッシュボードでは対話から高品質な要約と重要な洞察を生成するほか、時間の経過とともに患者の進捗状況を追跡することができるため、診断や管理計画の作成に役立ちそうだ。
なおMuse Alphaは、カウンセラーや病院に相談する前の認知行動療法(CBT)用の会話エンジンとして設計されており、既存の患者の精神段階と状態を毎日スキャンして監視するのにも適しているという。
実際に「Muse Alpha」のデモを使用してみた
Muse Alphaのデモを使用した様子を紹介する。まずは、自身を患者と仮定して「憂鬱な気分から抜け出せない」という旨を英語でチャット欄に打ち込んでみる。すると、AIセラピストから「あなたはうつ病の感情と本当に闘っているようですね。もう少し掘り下げてもいいですか?この感情はいつからあるのですか?」との返信があった。
「半年前から憂鬱な気分が続いている」と答えると、「気分の変動は確かに難しいもので、特にそれが長期間続く場合はなおさらです。このような気分の変化につながったと思われる、特定のきっかけや出来事がその頃にありましたか?」と返ってきた。その後もまるで本当のセラピーを受けているような、自然な会話が続いた。
次に、自身をセラピストを目指す学生と仮定して「患者がパニックになったとき、どうするべきでしょうか?」と質問してみる。
数秒後、「患者がパニックを起こしているときは、冷静さを保ち、安心感を与えることが大切です。なだめるような口調で話しかけ、患者は安全であり、その状況下では正常な反応であることを思い出させる~」といった長文のアドバイスが送られてきた。
AIを活用したロールプレイを通じてメンタルヘルスに関する情報、カウンセリングの進め方の両方を学べそうだ。
学生や心理学者から好評価を獲得
Muse Alphaはセラピスト、学生、教育者からポジティブなフィードバックを得ている。カウンセリング心理学の大学院生からは「Muse AlphaのAIセラピーロールプレイツールは、現実のセラピーセッションの準備に非常に役立ちました。AIセラピストとのロールプレイングシナリオから得られたフィードバックと洞察は、私の臨床スキルと自信を大幅に高めてくれました」という声があがっている。
また臨床心理学者からは「Muse Alphaは、共感的な応答、一般化、患者の談話から問題のある発言を引き出し、その意味を探り、ソクラテス的質問を継続して、各側面を徐々に処理するというセラピーのようなアプローチを採用しています。よくできています」との評価を獲得している。
今後、Muse Alphaがセラピスト志望者の教育現場、またセラピーの現場でも活用されることに期待したい。
参考元:
Newswire | Press Release
AKA
Muse Alpha
(文・Haruka Isobe)