しかし、これが農産物ではなく海産物だった場合はさまざまな課題が発生する。海産物である以上は加工しない限り常温保存ができず、輸送も保管も低温設備が必要になるからだ。“各地に冷凍倉庫を設けなければならない”ともいえる。
そんな中、インドネシアのPT. Rantai Pasok Teknologiというスタートアップが、低温輸送・保管に対応する「FishLog」というサービスを展開している。
海産物の流通を手掛けるサービス
インドネシアは世界最大の島嶼国家で、海洋資源に恵まれている。しかし、水揚げした海産物を流通させる仕組みが整っているとはいえず、そのために海産物が腐ってしまうこともあるという。
2024年2月にプレシリーズA投資ラウンドでの資金調達を終えたPT. Rantai Pasok Teknologiが提供するFishLogは、海産物の国内流通と国外輸出を手掛けるB2Bサプライチェーンプラットフォーム。国内に複数の冷凍倉庫を所有し、確実な冷蔵・冷凍保管を可能にする仕組みを整えている。
水揚げした海産物の追跡、品質を保った状態での小売店納入を可能にする他、インドネシア金融庁公認の金融機関と現場の漁師との橋渡し役も担っている。融資の相談ができるプラットフォームを設けている点も、新興国のアグリテックスタートアップの特徴だ。
人材育成にも力を入れる
PT. Rantai Pasok Teknologiは2023年12月にインドネシア財務省と国連開発計画から10万ドルの助成金を得ている。
この資金は漁師向けの金融教育やマングローブの植林に活用されているとのことだが、実際にFishLogの公式サイトを見てみると水産分野の技師や管理士を育成するFishLogアカデミーという教育プログラムを実施していることが確認できる。優秀な若者を一次産業に呼び込む効果が期待できそうだ。
インドネシアの水産分野は発展の余地は非常に大きい。だが、だからといって高度人材がその分野に入って来るかというのはまた別の話である。産業に携わる企業が能動的に人材育成を行う必要があるだろう。
漁師を束縛する「仲買人問題」
FishLogは国外にも拠点を有している。これはインドネシアからの海産物を輸出するためのものだ。2023年はアメリカに6万kg、つまり60tの海産物輸出を行った。
インドネシアの漁業従事者から見れば、自分たちの水揚げした海産物がシームレスに国外輸出され、また正当な報酬もシームレスに受け取れるということだ。悪質な仲買人が割り込む余地はない。
現地メディアKompas.idが、衝撃的なサブスクリプション記事を2023年11月7日に配信している。タイトルは「Nelayan Miskin Bersandar pada Tengkulak」、日本語に訳すと「貧しい漁師は仲買人に依存している」となる。
マルクやパプアの漁師たちは、漁船や道具をそろえるための費用を仲買人に借りているため、収穫物の不当な売値を押し付けられても文句がいえない状況だという。それだけでなく、仲買人を命の恩人のように考えている漁師もいるそうだ。
そのような仲買人を水産分野から排除すると考えるなら、単に「効率のよいサプライチェーン」を提供するだけではすぐに行き詰ってしまうだろう。金融や人材育成など、現場の漁師の生活基盤を下支えする部分を地道に構築することが公平な経済発展の近道である。
FishLogの今後の躍進に注目していきたい。
参考・引用元:
Fishlog
Kompas.id
(文・澤田 真一)