経済成長に伴い、資本主義国と同じくベトナムにもキャッシュレス決済の波が訪れている。日本に住む人がPayPayや楽天Pペイで決済しているように、ベトナム市民も「VNPAY」で支払いを済ませるようになった。
このVNPAYは、今やベトナムのキャッシュレス決済を代表するブランドへと成長している。今回は、V-Tech(ベトナム:Vietnam、テクノロジー:Technologyを組み合わせた言葉)を象徴するプラットフォームとして期待が高まるVNPAYについて解説していく。
ベトナムのスーパーアプリ
QRコード決済は、日本を含めたアジア諸国で広く普及している。この決済手段では、利用客がスマホの画面にコードを表示する方法と、店側があらかじめコードを掲載する方法から選択することができる。個人経営のいわゆる「パパママショップ」は、後者を選ぶことが多いだろう。町の雑貨屋や大衆食堂はコードを読み取れるレジを置いていないことが大半だからだ。
そんな中、ベトナムでは独自のPOSシステム(VNPAY-POS)を有するVNPAYがスーパーアプリと化している。VNPAYはタクシーや鉄道の予約、ホテルの手配、航空券の購入も同一アプリで実行することが可能。鉄道事業との連携に関しては、駅にVNPAYの自動券売機を設置するというような取り組みも行っている(参考)。
クレカ対応の事業者向け端末も
VNPAYが提供する事業者向け端末は、クレジットカードの磁気式スライド決済、接触型ICチップ決済、タッチ決済にも対応する。そして、この端末を小規模事業者にも提供している点が最も注目すべき部分だろう。たとえば、ベトナムのホイアンは町全体が世界遺産に登録されている同国の一大観光地。そして、このホイアンはスーツを仕立てるテーラーが多いことでも知られている。注文から何と翌日に完成させてしまい、しかも安価。毎日多くの外国人観光客が押し寄せている。
これらのテーラーは、それぞれの連携があるとはいえ個人経営の店舗である。故に、それまではなかなかキャッシュレス決済対応に手が出しづらかったはずだ。
そのような状況が、VNPAYの浸透により大きく変わろうとしている。
ミーソン遺跡周辺の売店も、フエのゲストハウスも、ハロン湾のチャーター船事業者も、そのあたりの事情は変わらない。VNPAYの事業者向け端末があれば、外国人観光客は普段使っているクレカで買い物をしたり船の運賃を払ったりできる。
キャッシュレス決済の巨人へ
VNPAYの親会社であるVNLIFE Corporationは2021年7月末にシリーズB投資ラウンドで2億5,000万ドルに及ぶ資金を得てから、さらに成長の勢いを増したようだ。Tech in Asiaによると、この資金調達時点でのVNPAY-QR導入店舗はベトナム全土で15万以上、利用者は2,200万人以上だという。
しかし今では35万以上の導入店舗、4,000万人以上の利用者を抱える「キャッシュレス決済の巨人」へと成長した。日本の外務省のデータによると、2022年のベトナムの人口は約9,946万人。単純計算すれば人口の4割ほどの人がVNPAYを利用していることになる。
「個人商店のDX化」を促す
東南アジア諸国の決済アプリの特徴として、「事業者にとっての使い勝手を想定している」ということが挙げられる。町の雑貨店には大きなレジを置けるスペースはなく、会計は専ら紙とペンと電卓で行われることが多かった。決済はもちろん現金のみ。これでは経営の効率化どころではない。また、確定申告の際も煩雑な準備が待っている。それらを効率化するには、「店舗のDX化」以外の手段は限られるのではないか。
ベトナムの今後の経済成長は、VNPAYに牽引される形で達成されるという見方もできそうだ。
参考・引用元:
VNPAY
外務省
(文・澤田 真一)