特に、全糖尿病患者の9割を占めるとされる2型糖尿病は、遺伝的要因に加えて日頃のライフスタイルも関連する生活習慣病である。糖尿病患者は生涯にわたって食事・運動の管理が必要になり、日々の記録作成も求められる。しかし、今ではそれすらも遠隔化・デジタル化されるようになった。
糖尿病大国インドのヘルステック・スタートアップSugar.fitは、糖尿病患者向けのオンライン遠隔診療・体調管理サービスを展開している。患者は自宅にいながらにして専門家の意見を聞くことができるのだ。
糖尿病患者の身体データをデジタル管理
糖尿病患者の毎日の血糖値管理は、専用の機器で測定するだけに留まらない。何日何時に血糖値を測定したのか、その日は何を食べたのか、運動はしたのかなどなど、詳細な記録を必ずつけなければならない。しかも、その記録を定期的に医師や専門家に提出する必要もある。それらの作業をすべてデジタル化すれば、患者の負担は削減されるのではないか?
Sugar.fitは、糖尿病改善のためのプログラムをすべてオンラインで提供するヘルステック企業だ。
患者は上腕に持続血糖モニタリング(CGM)センサーを張り付けるだけ。血糖値が測定されアプリ画面に表示され、即座に医師などの専門家と共有される。
運動量や食事量、体重、血糖値の記録を逐次スマホアプリに反映させ、それをもとに自分自身の身体的データを算出する。これにより、たとえば「今日は何を食べていいのか、何を食べたらダメなのか」をデータとして検証できるのだ。
専門家による診断と血糖値管理のためのマンツーマンコーチングも、オンラインで実施する。その上で、他の糖尿病患者とディスカッションをするためのチャットも用意。患者に孤独を感じさせない工夫も施されている。
また、Sugar.fitの用意するフィットネスビデオは、インド国内のフィットネス専門家によって監修されたもの。プロが作成した運動プログラムで、確実な減量に臨むことができるのだ。
新興国でも2型糖尿病患者が急増
途上国や新興国の人々が「飢餓に苦しんでいる」「栄養不足でやせ細っている」というのは、もはや時代遅れのイメージである。国際糖尿病連合(IDF)が発表した2021年のデータによると、糖尿病患者の4人に3人以上が低・中所得国の居住者だ。今や経済先進国と同様、高カロリーの食事による「市民の肥満」が保健当局を悩ませている。現にSugar.fitは3万人以上のユーザーを抱えている。企業にとっては喜ばしいことではあるが、それだけ2型糖尿病に悩んでいるインド国民が存在するという意味だ。IDFの2021年推計によれば、インドの糖尿病患者数は中国に次いで世界で2番目に多い約7420万となっている。
2型糖尿病は「一生涯の付き合い」だ。それにかかる医療費は決して無視できる額ではなく、上述のように患者に対してはさまざまな負担が発生する。「糖尿病患者の体調管理プログラムのデジタル化」は、質の高い医療サービスを低費用で提供する役割も果たすのだ。
人類を悩ます疾患に立ち向かうテクノロジー
そんなSugar.fitは、2024年3月にB Capital主導のシリーズA投資ラウンドで500万ドルの資金を調達した。2023年10月のMassMutual Ventures主導で実施された出資(1,100万ドル)に続く今回の資金調達は、世界一の人口を抱えるインドの医療問題が国際的に注目されている事実を証明した。
もちろん、2型糖尿病患者の増加で悩んでいるのはインドだけではない。
人類はいまだに飢饉を完全には克服していないだけでなく、同時に「食べ過ぎ・飲み過ぎ」が起因の疾患で大いに苦しめられている。そして、我々人類は「食べられないこと」の経験はあるものの、逆に「食べ過ぎること」にはまだ慣れていない点に注意が必要だ。
21世紀は、「飢え」と「飽食」が同じ線の上に立っている恐ろしい時代でもある。
だからこそ、Sugar.fitのような2型糖尿病患者向けのオンライン医療サービスが各国で頭角を現しているのだ。
参照:Sugar.fit
(文・澤田 真一)