これは個人経営の小規模もしくは零細規模の店舗で、特に南アジア諸国や東南アジア諸国ではコンビニエンスストアやスーパーマーケットよりも遥かに大きな影響力を持っている。米ドラマ「大草原の小さな家」の舞台ウォルナット・グローブにあるオルソン商店みたいなもの、と表現すればイメージしやすいだろうか。
その土地のコミュニティーの誰しもが頻繁に利用する小売店。そうした店舗を対象にしたB2B流通プラットフォーム「Jumbotail」について、この記事で解説したい。舞台はインドである。
インド国民の生活を支える「キラナストア」
インドの人口は中国を超え、いまや世界一にのぼり詰めた。この国の旺盛な消費を支えているのは、どの地区にも必ず1店舗はある個人経営の売店だ。日用品や日々の食品を買うくらいなら、地元の人々はスーパーマーケットではなくこうした店で済ませる。インドの場合は、こうした商店は「キラナストア(Kirana store)」と呼ばれている。
このキラナストアに商品を配送するサービスを展開しているのがJumbotailだ。
キラナストアには、例外もあるだろうが潤沢な在庫を置けるほどのスペースはないと考えるべきである。需要の大きい商品はすぐに尽きてしまうが、それを補充する作業は、必要量を紙に書いてそれを問屋もしくは市場に持っていき商品があるかどうかを口頭で質問する……という旧態依然とした方式だ。
それをオンライン化すると同時に、間近のJumbotailの倉庫から商品を直送する。これは商品の品質を極力保った状態で店頭に並べる効果ももたらす。
無論、キラナストアの店主の負担軽減にも直結する。商品発注のオンライン化がなければ、店舗の運営に必要な人員数が増えてしまう。非効率な作業のために従業員を雇うわけにもいかず、大抵の場合は店主の子どもに皺寄せが来る。
貧困や児童労働の原因は、実はこうしたことに由来する場合が多いのだ。
ITジャイアンツがキラナストア取り込みを目論むも……
そのうえでJumbotailは独自の融資や、POSシステム「Golden Eye」も用意。キラナストアのDX化を促すサービスを展開している。インドの個人商店は、日本のように大きく立派なレジスターを置いているわけではない。基本的には電卓とメモ用紙で済ませてしまう。が、これは言い換えれば在庫・売上管理機能付きのPOSシステムを普及させる余地が極めて大きいということだ。
ただし、このようなことは外資のIT大手がトップダウン型でやろうとしても一筋縄では行かない。
インドのキラナストアに関してはAmazonやeBay、Googleなどが「個人消費の中核」と見なし、あらゆるアプローチで自陣営に取り込もうとしている。しかし、ITに精通しているとは言えないキラナストアの店主に対してきめ細かなサポートを実施できるという点で、地場系企業であるスタートアップは外資より有利な立ち位置にある。特にインドは地域ごとに母語が違うため、それぞれの地域語のネイティブスピーカーをスタッフとして抱えている必要があるのだ。
アジア各国政府も望む零細商店のDX化
2024年3月、Jumbotailはベンチャーキャピタルから巨額の資金を手にする。シリーズC3投資ラウンドで1,820万ドルの出資を得たのだ。インド政府、というより南アジアや東南アジア各国の中央政府はこうした零細商店のDX化を強く望んでいる。市民に対する商品の供給を担っていると同時に、巨大な雇用を創出しているからだ。言い換えれば、各国政府は外資大手の進出で零細商店が圧迫されるシナリオを何よりも恐れている。
そう憂いている間にも、AmazonやGoogleなどのIT・ECジャイアンツはインドに対して巨額投資を実施している。今後のインド、そしてアジア各国はこの投資攻勢とどう付き合うかが明暗を分けるはずだ。
参考・引用元:Jumbotail
(文・澤田 真一)