「南アのインシュアテックスタートアップは123社」としたTracxnのリストでトップに挙げられているのが、ヨハネスブルグに拠点を置くNakedだ。テクノロジーを活用してアクセスしやすく費用対効果の高い保険商品を提供し、急速な成長を果たした。
Nakedは2016年にAlex Thomson氏、Sumarie Greybe氏、およびErnest North氏によって設立されたインシュアテック企業である。完全デジタルな保険サービスを実現、ユーザーはアプリやウェブサイトを通じて自動車保険、家財保険などの保険商品を購入できる。
国際金融公社(IFC)が主導した2023年のシリーズBラウンドでは1700万ドルの資金を調達、新規市場への拡大と技術革新の継続に投入した。 共同設立者のThomson氏は、この資金調達について「我々が、南アフリカにおける完全デジタル保険サービスのパイオニアであることを証明するもの」と語っている。
同業他社の追随、変革者であり続けることの困難
確かにNakedはデジタルファースト戦略にフォーカスし、南アフリカにおける完全デジタル保険の先駆者的存在となった。従来の保険業界につきものだった煩雑な書類手続きを排除、保険の加入から保険金請求まですべてアプリで行えるようにした。AIがチャットで365日24時間対応、保険金の請求手続きがわずか12秒で完了する様子を同社公式サイトの動画で視聴できる。Redditでは、Nakedアプリについて「使いやすい」「非常に処理が早く問題なく支払われた」といった口コミが確認される。
Naked社の革新性は、契約者と保険会社間の長年の相互不信を解消した点にもある。同社の保険は決まった料金以外に謎の手数料や不明瞭な費用が一切かからない。それが「naked(むき出し・ありのまま)」という社名の由来なのだ。
それはすなわち、従来の保険会社と違ってNakedの収益は請求された保険金の支払額に左右されないことを意味する。加入者からの請求を困難にしたり査定を厳格にする理由もない。企業と消費者がWin-winになれるシステムを構築し、透明性を実現したことが同社の大きな個性だ。
だが市場の競争が激化する中で、「アプリで全手続きを処理可能」、「コールセンターの代わりにAIがチャットで対応」、「コスト削減で実現した低価格商品」といった要素はNakedの専売特許ではなくなりつつある。起業当時は「革新的」だったものが早々に「普通」になってしまったのだ。
競合にない個性は「Naked Difference」と「Naked Causes」
この状況で、今でもNakedの独自事業と呼べる取り組みが「Naked Difference」だ。共同設立者であるGreybe氏は、Naked Differenceのシステムを「加入者からの請求総額が少ない年には、余剰の保険金を当社の利益とするのではなく加入者が選んだ“Cause”に回します」と説明している。恥ずかしながら筆者は、「Cause…原因?意味がわからない」と思ってしまった。しかし、Oxford英英辞典で「cause」を調べると、「an organization or idea that people support or fight for (人が支援する団体/組織や戦ってでも守る思想)」とある。ここでの「cause」は非営利組織や社会貢献団体のことで、Naked Differenceは余剰の保険料を国内の各種活動団体に寄付するシステムだったのだ。
利用者は保険加入時にアプリのプロフィール画面で自分の「cause」を選ぶことができるようになっている。候補となる団体の一覧は「Naked Causes」で確認でき、2024年4月の時点では青少年支援、動物愛護、環境保護などの活動を行う13団体から選択可能だ。
「Naked Difference」関連動画は2年間更新なし?
NakedのYouTubeチャンネルには、Naked保険加入者であり南アフリカで活躍する俳優Simoné Pretorius氏のインタビュー動画が投稿されている。同氏がNaked Causesから選んだのは、捨てられた赤ちゃんを保護して里親を探す団体「Door of Hope」だ。Door of Hopeには日本の「赤ちゃんポスト」と同じ設備があり、何らかの事情があって赤ちゃんを手放さざるを得ない女性たちに危険で不衛生な路上以外の手段を提供する。
Pretorius氏はNaked社について「利益より“人”を優先することで業界を変革していて、好感が持てる企業」だと語っている。同社はこのNaked Differenceについて、保険会社と加入者、それらを取り巻く社会が同じ方向を向き、世界全体をより良い方向へ導く取り組みであるとする。
いい話ではあるのだが、この動画では寄付金額については明らかにされていないし、再生回数も公開から約4年で2000回を超えたところと、やや寂しい数字だ。しかも、Differenceに関する動画は2022年9月以降アップされていない。それ以外のトピックを扱う動画の投稿は頻繁で大量なだけに、優先順位が低いのだろうか。
南アの保険市場はまだまだ未開拓で今後も二桁の成長率が見込まれるが、同時に競争は激化する一方だ。「Naked Difference」を大きな個性とする同社も、競合との差別化を図るうえで更なる工夫が求められる段階にきているのかもしれない。変革者たるNakedの今後に注目したい。
引用元:Naked
文・Gocha
アメリカ在住、エンジニア兼コンサルタント。アメリカ生活に関わることやその他記事に対する所感などをブログ・YouTubeで公開中。