その悩みを解決すべく設立されたのが、イスラエルのWinn.AI社である。2021年末にテルアビブにて創立されたスタートアップ企業だ。営業担当者の抱える雑務を最小化し、販売と顧客対応に集中できる環境をつくることで、組織のパフォーマンス向上と勝率UPをミッションとしている。これは「Winn.AI」の社名の由来にもなっている。
会話をリアルタイム追跡、ワンクリックでCRM更新
Google MeetやZoomなどのセールスツール向けに構築された同社のプラットフォームには、大きく2つの機能がある。まず、リアルタイムでの会話追跡・リマインド機能だ。顧客とのミーティング中に起動させることでWiin.AIが会話をリアルタイムで追跡し、対応したポイントや未提示のポイントについて、営業担当者に知らせる。確認漏れを未然に防ぎ、担当者はキーボードでの入力操作ではなく、目の前の顧客にフォーカスすることができる。
個々の営業担当者の業務が改善されることで営業リーダーにも良い影響をもたらし、営業チーム全体にとって“ウィンウィン”の状況が実現するという。
2つ目の機能は、顧客管理(CRM)に費やす時間を減らせるというもの。Winn.AIの顧客管理機能によって、営業で最も面倒な業務をスキップできるのだ。
AIが見込み顧客の応答を自動的に理解・把握し、たったワンクリックでSalesforceやHubSpotなどの営業支援CRMソフトウェアにインポートする。また、顧客ごとにカスタマイズされたフォローアップメールも送信。今後の商談の機会を効果的に増加させることができそうだ。
加えて、Winn.AIが顧客の記録を常に最新情報にアップデートすることで、より効率的な販売が可能となる。つまり、人間が時間や労力をかけずとも、顧客情報をクリーンな状態に管理・保持してくれるというわけである。
営業マンの困難を目の当たりにしてきた起業家が設立
Winn.AIの共同設立者兼CEOであるEldad Postan-Koren氏は、20年にわたりさまざまなチームを率いてきた経験を持つ人物だ。約5年間のイスラエル国防軍での海軍士官を経験後、コンサルティング会社ScaleME社を設立。糖尿病管理支援企業DreaMed Diabetes社の初代COOでもあった。ベンチャー投資プラットフォームOurCrowdにて多くのスタートアップ企業のビジネス創出に貢献している。さらに、心臓外科医である妻のRoniと共同で女性のリーダーシップ推進のための非営利団体「Shavot」を設立したり、ヘブライ大学学生連合の会長を務めたりした経験ももつ。
同氏は自身のLinkedinアカウントで、長年の経験から営業マンであることの困難さについて理解を示し、「特にB2Bの分野においては、組織がいかに営業担当者をガイドラインやタスク、管理業務で疲弊させているか目の当たりにしてきた」とも述べている。同氏がWinn.AIを設立した理由は、「営業担当者を不必要な仕事から解放し、案件の獲得に集中させるため」だという。
巧みなSNSマーケティング戦術によって存在感を発揮
そんなEldad Postan-Koren氏は、SNSにて巧みなマーケティングキャンペーンを立て続けに推進し、競争の激しいセールステック業界において一目置かれる存在となった。Winn.AIのAI搭載CRMソリューションの発表と同時に、最初のキャンペーンで「#NoTypingCRM」を実行。CRM入力中にトラブルに見舞われた営業担当者がバットや膝でキーボードを破壊するという、インパクトのある動画を公開した。
この印象的な動画によって、同キャンペーンは瞬く間に注目を集めた。製品の機能を紹介するだけでなく、型にはまらないマーケティング戦術を採用するWinn.AIの個性が結果を生んだのだ。
「#NoTypingCRM」の成功を受け、わずか数か月後には「#CelebrateSales」キャンペーンをスタート。さらに、2024年に入ってからは「#AIforSales」キャンペーンをローンチした。これらはいずれも多くのインプレッションを生み出し、Winn.AIにさらなる成功をもたらしている。
SNSマーケティングを巧みに利用することで大きな話題を生み出し、多くのユーザーを惹きつけてきた同社。公式サイトでは現在、同社ソリューションの新機能として「リアルタイム・セールスインサイト」の告知が掲載されている。
2022年には約31億ドルと算定されたAIセールスアシスタント・ソフトウェア市場規模。今後は11.4%のCAGRで成長を続け、2032年には三倍の約93億ドルに到達すると予測されている。競合との差別化が求められるなか、Winn.AIの次なる一手は何だろうか。
参考・引用元:Winn.AI公式サイト
(文・Mika Ito)