また、労働市場でもインド人の存在は際立っている。2022年、H-1Bビザ(専門的な技能・知識がある個人が対象)という就労ビザは、全体の実に70%以上がインド人に対して発給された(参考)。
そんなインド人をサポートすべく、2020年に生まれたインド発のフィンテック企業がZolve Innovations, Inc.(以下「Zolve」)だ。
アメリカでの成功に必要な金融サービスを提供
Zolveは「アメリカでの成功に必要な金融サービスを全ての人に提供する」ことをビジョンに掲げる。このビジョンを実現すべく、アメリカのクレジットカード作成や銀行口座の開設、国際送金からローン、保険に至るまで、さまざまなサービスを展開。
クレジットカードや銀行口座は渡米前に申し込めるなど、利便性が高い。なおアプリはApp StoreやGoogle Playでダウンロードできる。渡米予定、または在米のインド人にとっては心強い味方だろう。
実際にZolveは幅広い支持を集めており、ユーザー数は30万人を突破している。2023年には、インドのBW Businessworld社が主催した「Festival of Fintech」にて最優秀賞を受賞(参考)。ソフトバンクも同社の機関投資家リストに名を連ねるなど、注目を集めている。
アメリカでクレジットカードを作る障壁を取り払った
Zolve創業者のRaghunandan氏はZolve設立の背景をLinkedInで語っている。彼は以前、TaxiForSureという配車サービスを立ち上げ、2015年に2億ドルで売却していた。次の動きを模索していた頃、アメリカでインド人の友人たち(実業家や会社役員)と食事を共にする。
彼らが支払いにクレジットカードではなく現金を使ったことに違和感を覚え、理由を尋ねたところ、「アメリカのクレジットスコアがないから」とのことだった。「クレジットスコア」とは、遅延なく支払いを行える能力を数値化したもの。クレジットカードやローンの利用歴がないと取得できない。Raghunandan氏の友人もここがネックになり、裕福であるのにもかかわらずクレジットカードが持てなかったのだ。
さらに調べると、クレジットスコアを提供するTransunionやExperianといった会社がアメリカでもインドでもサービスを展開していることが判明。ただ、インドのスコアがアメリカで使えるといった互換性はなかった。そこでRaghunandan氏は、インドのクレジットスコアを活用してアメリカのクレジットカードを発行するアイディアに行き着いたのだ。
Zolveのクレジットカードは、渡米前でも申し込める。受け取りはアメリカで住所が決まってからだが、カードが使えると知って出発できるわけで、安心感は大きいだろう。
渡米前に銀行口座も開設できる
Zolveでは、渡米前にアメリカの銀行口座も開設できる。ただし入国前の取引は入金に限られ、全ての取引ができるのは入国後だ。それでも、出発前に生活の基盤を一つでも整えられる意義は大きい。Zolveはあくまでフィンテック企業で、銀行ではないが、預金保険は適用される。口座がパートナーの銀行のものだからだ。このため、銀行が破綻した場合でも25万ドルまで補償される。
なお、Zolveは「格安での国際送金」にも対応しているものの、国際送金サービスのWiseよりは高くつく。
調べたところ、1000ドルを送金するのに必要な金額はZolveで85,111ルピー、Wiseで84,844ルピーだった。その差は約0.3%だ。とは言え、送金前に送金額やコストが全て分かり、他社とも比較できる点は評価できる。
ローンや保険も申し込める
Zolveではローンや保険でもインド人のアメリカ生活をサポートしている。ローンは自動車ローンと学費ローンの2種類だ。自動車ローンはLendbuzz社と提携しており、Zolve経由だと割引が受けられる。通常、ローンを組むのに必要な社会保障番号(アメリカのID番号)も必要ない。ディーラーの指定もなく、個人から自動車を買う場合でもローンが組めるため、自由度も高い。
一方、学費ローンは15社以上から一括で見積もりが取れるため、条件に合う保険を探しやすい利点がある。その上、担保なしでも組めるという。冒頭で触れたとおり、インド人留学生はアメリカで確実に存在感を増している。Zolveの学費ローンに救われる留学生も増えていくだろう。
また、海外生活では保険も重要な役割を占める。Zolveでは医療保険、家財保険に加え、ペット保険まで契約可能だ。どの保険についても、社会保障番号は求められないメリットがある。
Zolveは自社でローンや保険を運用しているわけではないが、ワンストップで各種サービスに申し込める利便性は無視できない。
奨学金やビザ取得サポートの提供も
さらにZolveは奨学金を提供するほか、ビザ取得サポートも手掛ける。2024年春学期の入学者が対象の奨学金は、総額25,000ドル。1名につき1,000ドルから2,000ドルが支給される。そこまで大きな金額ではないかもしれない。それでも、例えば時給16ドル(ニューヨーク市などの最低賃金)で働くとして、最大125時間も節約できる計算だ。さらにこの奨学金は、Zolveのサービスを利用していなくても申し込める点で良心的と言える。
またビザ取得についても申請フォーム記入に関して個別にサポートしたり、面接対策(模擬面接)を実施したりと、さまざまな形で支援している。ビザの手続きが初めてなら(おそらく大多数がそうだろう)、この上なく心強いサポートだ。
「アメリカでの成功に必要な金融サービスを全ての人に提供する」というビジョンを実現してきたZolve。サービスを「全ての人」に届けるため、次は世界中にサービスを展開していくのだろうか。今後も目が離せない。
参考・引用元:Zolve
(文・サト)