音声生成AIツールのなかには、自然なイントネーションを実現するものや、ボイスチェンジャー機能で自分の声を著名人の声に変換するものがあり、誰もが人間の声と遜色ない音声を手軽に作成できるようになった。
しかし、AI音声技術の発展に伴い、AIによるフェイク音声を使った犯罪が国内外で発生している。世界7ヵ国(日本、米国、英国、ドイツ、フランス、インド、オーストラリア)の18歳以上の成人7,054人を対象とした調査では、10%が自身がAI音声詐欺に遭遇、15%が知人が遭遇したと回答した。
こうした“ディープフェイク・ボイス”犯罪への対策が求められるなか、米国に本社を構えるValidsoftは、ディープフェイク・ボイスを検知する認証ソリューションを提供している。
音声ベースの認証ソリューションを展開するValidsoft
2003年に設立されたValidsoftは、音声ベースの認証ソリューションのプロバイダー。合成音声、ディープフェイク、リプレイ攻撃(録音デバイスを使用して他人の音声を再生すること)を検出するテクノロジーにより、詐欺や個人情報の盗難の防止に努めている。ValidsoftのCEOかつ設立者であるPat Carroll氏は、金融と情報技術の分野において25年の実績を持つベテランだ。過去にはGoldman Sachs、J.P. Morgan、Credit Suisseなどの金融グループで上級職を務めたという。
そのほかValidsoftでは音声テクノロジーを専門とする博士や、コンプライアンスや法務の専門家といった錚々たる面々が在籍している。各分野のスペシャリストとの協力により同社は急速な成長を遂げており、現在は本社を置く米国のほか英国、インドでもサービスを展開している。
会話もできる“ディープフェイク・ボイス”とは
PINやパスワードの代わりに、音声や指紋などの“生体認証”が採用されるようになったのは、ここ数年のことであり、まだ十分なセキュリティ技術が追いついていないという。ディープフェイクの中には、人間が識別できないほどのリアルなフェイクが生成されるケースも少なくない。2019年には、WSJでフェイクボイスによる詐欺事件が報告され、波紋を呼んだ。
その事件の内容はこうだ。英国の某エネルギー会社のCEOは、上司であるドイツの親会社のCEOから電話で「緊急に資金をハンガリーの取引先に送金するように」と指示されたという。指示に従い、22万ユーロ(約24万3000ドル)を振り込んだところ、送金を要求した声の主は声ディープフェイク・ボイスによるものだったのだ。
こうしたディープフェイク・ボイスには、膨大な音声データと入念なトレーニング・機械学習を経て、音声を合成する「ボイススキン技術」が使われている。ボイススキン技術は録音とは異なり、本人の声に近い音声でターゲットと会話をすることも可能だという。
Validsoftの音声認証テクノロジー
ディープフェイク・ボイスによる脅威が迫るなか、Validsoftは数学的な根拠・実証方法を用いて、ディープフェイク・ボイス検出や本人確認に役立つ音声認証テクノロジーを導き出した。「Spoof-Proof Voiceprint(なりすまし防止の声紋)」という技術では、ユーザーの音声は地域性(なまり)やリズム・話し方などの特徴を分析・記録し、ディープラーニング(深層学習)の学習方法の1つ「ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)」を介して、声紋を作成する。
DNNとは脳の神経回路を模倣した数理モデル「ニューラルネットワーク」の階層を深くしたもので、より複雑で深い解析が可能だといわれている。
こうして作成された声紋はユーザーの音声IDとして登録される仕組みだ。登録された音声は、ディープフェイク検知システムで解析され、類似性尺度によって合格か不合格かが示されるという。
Validsoftの研究開発責任者によると、ディープフェイク・ボイスと本人の声紋には明らかな傾向の違いがあるとのことだ。
音声認証で、顧客・従業員の本人確認を実行
Validsoftでは、こうしたテクノロジーを活用した音声認証ソリューションをいくつか展開している。たとえば「顧客の身元保証」ソリューションでは、電話やオンラインで企業が顧客と会話する際の、顧客の本人確認に、「従業員の身元保証」ソリューションでは、企業の従業員がリモートで社内情報へアクセスする際の本人確認に、音声認証を提供している。
一般企業だけでなく、コールセンターや金融機関など、本人確認が必要なシーンで活用できそうだ。
高度な生成AIが続々と登場している近年。ディープフェイクのリスクが高まることは避けられないだろう。Validsoftのフェイクボイスを検知する認証テクノロジーは、AIが引き起こす脅威への重要な対策として注目されている。
参考・引用元:Validsoft
(文・Takasugi)