クラウドキッチンはコストや効率性の観点で店舗・顧客双方にメリットが多い。デリバリー注文に特化した厨房施設のみで成り立ち、レストランの実店舗を持たないことから、店主は場所に縛られず開業できる。不動産や人件費のコストを抑えられるため、利益率も比較的高い。顧客はアプリなどから手軽に食事を注文してデリバリーにて受け取ることができ、店舗は複数のメニューを1つのキッチンで対応できることから大幅に提供コストを抑えられる。
技術大国にしてグルメ文化も盛んなインドでは、このクラウドキッチンビジネスが好調だ。2019年に400億ドルだった市場規模は今年中に20億ドルに達すると予測されている(フードデリバリー市場全体では2025年までに130億ドルに到達とのこと)。ライフスタイルや食習慣の変化、ネットやスマホの普及と最先端テクノロジーの導入など複数の要因から、インドの飲食業界を変革しつつ牽引していくと見られる。
インド独自の文化を背景に若年層中心に浸透
インドには、映画『めぐり逢わせのお弁当』で描かれた「ダッバーワーラー」(お弁当配達人)という宅配サービスが昔から存在する。ステンレス製で数段重ねのダッバー(弁当箱)を家庭からオフィスに配達するシステムだ(空になった弁当箱は配達人が家庭に届ける)。国土が広大なインドでは地域ごとに食文化が異なるうえに宗教上の制限も多いため、インド人は好き嫌いに関係なく「食べられないもの」が多い。母親や妻など、自分の家族の手作り料理しか食べられない、かつインド料理は暖かいほうが美味しいというニーズからダッバーワーラーが誕生したそうだ。
このように、クラウドキッチンが急速に普及する文化的背景が十分にあったインド。特に若い世代の利用率が高く、楽天インサイトが約3万9000人を対象に2021年に行ったアンケートでは25~34歳の59%がクラウドキッチンサービスを利用したことがあると答えたのに対し、55歳以上では28%となっている。
業界最大手「Rebel Foods」、自社のプラットフォームを他社にも開放
インドのみならず世界最大のクラウドキッチンチェーンを展開する「Rebel Foods」は、オンラインレストランの分野で大きなシェアを誇る企業だ。2011年にJaydeep Barman氏とKallol Banerjee氏によって設立された同社は、ラップロール店『Faasos』から始まった。初めはオンラインで注文できる実店舗を持つレストランチェーンだった。
2015年に初のクラウドキッチンをオープン、翌2016年にはビリヤニ専門店『Behrouz Biryani』やピザの『Oven Story』など複数のブランドを展開するようになる。
2019年には自社のプラットフォームを他社サービスにも開放し、同社オペレーティング システム上でのスケールアップと成長拡大を支援するように。2020年末には米ハンバーガーチェーン『Wendy’s』と提携し、同社のクラウドキッチンをインド国内約250か所に開設。2023年にはWendy’sのインドにおけるフランチャイズライセンスを取得したことでも話題になった。
Rebel Foods最大の特徴は、ブランドやキッチンを問わずに効率性を実現するプラットフォームの開発である。同社の全キッチンに導入されたRebel Operating System (Rebel OS)が効率化を実現、時間・在庫・衛生管理などを担う。また、メニューをSOP(標準作業手順書)に基づき細かい段階に分けることで、知識や技術がない従業員が調理を担当しても同じ品質の料理が完成するようになっている。
SOPではほかにも手袋やマスク、制服の着用、正しい手洗いなど衛生基準に関しても定められている。Rebel Foodsではインド企業「Wobot」が提供するAI搭載のビデオ分析プラットフォームを採用しており、手順を遵守しない異常があれば検知・通知されるようになっている。
Rebel Foodsは現在ではインドのほかインドネシア、アラブ首長国連邦、イギリス、マレーシア、シンガポール、バングラデシュなど世界10か国70以上の都市で400か所のキッチンと4000店ものバーチャルレストランを展開、国際的にも存在感を示している。特に昨年ローンチしたサウジアラビア市場など中東での展開に積極的だ。
2025年中にはインドのクラウドキッチン企業として初のインド株式上場を目指す同社。「rebel」(反逆者)という名のとおり、業界の変革を続けていくだろう。
引用元:Rebel Foods