2021年にはインド発のユニコーン企業となり、現在公式サイトでは顧客人数3000万をうたう同社。先駆的インシュアテック企業として国外からも注目を集めている。
これまで保険は不必要なまでに複雑で、消費者が自分にあった商品を見極めるのが困難だった。書類の文章は冗長で専門用語が多く、保険金を受け取るまでのプロセスも煩雑だ。
Digit Insuranceは「保険をシンプルにする」を使命として掲げ、「15歳でも理解できる」保険商品やサービスを実現している。保険契約の概要資料が十分に分かりやすいかどうか、実際に子供たちがチェックしているのだ。同社オフィスに招かれた8歳から15歳の子供たちが資料を確認する動画では、読み終わった後の理解度チェックで15歳チームが全問正解している(8歳チームにはさすがに難しかったようだが、「イラストが好き」と好意的な感想)。
「15歳でも理解できる保険」は、同社の創業者にして現会長のカメシュ・ゴヤル氏の実体験に基づくアイデアだ。ゴヤル氏はドイツの保険大手Allianz社の事業で幹部を務めるなど、同分野で30年ものキャリアを積み上げてきた保険のベテラン。だが、10代の息子に保険とは何かを説明したところ理解してもらえず、専門用語だらけの業界を変革する必要性に気づいたそうだ。それがきっかけでAllianzを退職し、シンプルで分かりやすい保険を実現するために2016年にGo Digit General Insurance(現在の名称はDigit Insurance)を起業した。
機械学習やAIで自動化と効率化を促進
分かりやすさに加え、同社が追及するのが手続きの効率化だ。テクノロジーチーム立ち上げの時点から「ロボティクスや機械学習、AIによる自動化に注力することでオペレーション効率を上げる」という長期的アプローチを採用していた。損傷の特定や請求・損失の査定プロセス、請求書の読み取りなどにAIと機械学習を活用。AIによる分析と人間が行う査定のハイブリッドモデルにより、効率化を実現。スマホアプリ上で保険の加入から更新、請求まで簡単に手続きできる。ゴヤル氏は「保険金請求のセルフ査定手続きを完全スマホ対応にすることで、査定の所要期間を7日から7分に短縮した」と語っている。
2022年には5,450万ドルの資金調達を果たし、これまでに総額5億4,400万ドルの資金を獲得してきたDigit Insurance。新たな技術の開発や拡大に注力する資本を確保し、最新テクノロジーの導入やサービスの拡充に取り組む方針だ。実際に同社は、アジア保険産業賞(AIIA)を4度も受賞するなど技術革新による効率的な業務が高く評価されている。特に2023年のAIIAでは「Digital Insurer of the Year」を受賞。技術力と効率性によって他の競合との差別化に成功しているとされた。
伸びしろ大きいインドの保険市場、今後も成長続く見込み
すでに国際的な関心を集めているインドの保険市場だが、「まだまだポテンシャルがある」とゴヤル氏も語ったとおり、Invest Indiaのリサーチによると2025年までに2,500億米ドルに成長すると予測されている。「保険の重要性に対する意識が向上し、可処分所得が増加、中間層が拡大している」のだ。インドでは癌やメンタルイルネス、心疾患患者が増加しており、医療保険の必要性が高まっている。2020年にアジア太平洋地域全体でマラリア症例数最多を記録するなど、同国特有の問題もあるのだ(モーター保険には「リキシャ」向け商品もあるのがインドらしい)。
保険商品とデジタル技術を融合、シンプルで使いやすいサービスによって高い人気を獲得、成長を続けてきたDigit Insurance。「保険をシンプルに」という使命遂行の手段として「現状を疑う」と「透明性の高さ」を起業初日から企業バリューとしてきた。今後も現状に甘んじることなく業界の変革を担っていくだろう。
引用元:Digit Insurance
(文:Techable編集部)