なかでも南アフリカのヨハネスブルグを拠点とするNaked Insuranceは、今注目すべきアフリカのインシュアテックといえば必ず名前が挙がる企業だ。昨年のシリーズBラウンドでは国際金融公社の主導により1700万ドルの資金を調達し、「2023年に最も資金を調達したアフリカスタートアップ」で17位にランクインした。
アプリで簡単に加入・請求、書類は不要
Naked Insuranceが提供するサービスの最大の特徴は、すべての申請をアプリで済ませることができ、書類も電話も不要な点だろう。自動車・住宅・家財・スマートフォンなど幅広い保険商品について、見積もりから加入、保険金の請求・受け取りまでアプリ上で行うことができ、「見積もり90秒」を謳っている。コールセンターと違ってAIがチャットで365日24時間対応するので、「大変混雑しています」と待たされることもなく、「〇番を押してください」のような指示をされ続けることもない。
TechCrunchによると、パンデミック後に消費者の傾向が変化し、保険に加入しているアフリカのミレニアム世代の60%がオンラインでの手続きを好むようになったとのこと。
またオンラインによる自動化は保険会社側にもメリットが大きく、生身の人間がコールセンターで対応するシステムと比べて保険金請求手続きのコストを30%削減できるそうだ。Naked Insuranceの公式サイトでは、AIが保険金の請求を12秒で承認する様子を視聴できる。
また、同社の売りの一つである「ゲームチェンジング」な低価格もAI活用によるコスト削減で可能になったもの。たとえば自動車保険はひと月180ランド(約1400円)~、家財保険はひと月43ランド(約340円)~という安さだ。
契約者と保険会社の相互不信を解消
Naked Insuranceは、自社が革新的なビジネスモデルを展開することで、同時に契約者と保険会社間の長年の相互不信を解消するとしている。同社が請求するのは保険料の一定割合のみ。わかりにくい手数料や不明瞭な費用が一切かからないことが「naked(むき出し・ありのまま)」という社名の由来なのだ。この定額料金が意味するところは、従来の保険会社と違ってNaked Insuranceの収益は保険金の支払額に左右されないということ。そのため契約者からの請求を困難にしたり査定を厳格にする理由がない。その年に請求件数が少なければ年末には保険料に余剰が出るが、それを自社の収益とするのではなく南アフリカの社会貢献活動に寄付するというシステムを取っている。
寄付先は保険契約者本人が関心を寄せる分野の団体で、小児がんの子供やその家族を支援する非営利団体CHOCや、子ども食堂や農業プログラムを運営するForAfricaなどがある。
テクノロジー、顧客、従業員ファーストの企業文化
Naked Insuranceは、2016年にAlex Thomson氏、Sumarie Greybe氏、Ernest North 氏によって設立された。共同設立者の1人Thomson氏は、BusinessTech紙のインタビューにて「ビジネスの未来は、テクノロジーを活用した企業ではなくテクノロジーファーストな企業だと考えた」と、起業時のことを振り返っている。保険業界では経験の長い同氏も、テクノロジーに関しては門外漢。起業の過程で非常に多くの学びがあったそうだ。「sh*t-hot(激ヤバ)なテクノロジーと才能豊かなチームによって古い保険モデルを覆し、まったく新しいものを作り上げる」という同社。顧客ファーストはもちろんながら、従業員たちの満足・モチベーション維持も重視している。パンデミック中に急きょリモート勤務がメインになった際にも、Slackをベースにしつつ顔の見えるコミュニケーションを心掛けたと公式ブログ記事に記されている。
「Nakedでの勤務で最も素晴らしいことは何?」という質問に、多くの社員が「People(同僚)」と回答している。一般には「離職理由は人間関係」という人が多いことを考えると、同社がいかに働きやすい環境作りに成功しているかがうかがえる。
Naked Insuranceの急速な事業スケーリングを可能にしているのは最先端テクノロジーだけでなく、こうした企業風土と円満な人間関係、社員の一人ひとりなのかもしれない。
引用元:Naked Insurance
(文:Techable編集部)