初回となる本号では、今注目の“ドローン”に関する事業にフォーカスする。
リバース・イノベーションを遂げたZipline
アフリカでは、ドローンがさまざまな用途で活用されている。日本でもよく知られている、豊田通商が投資する米Ziplineは、2016年にルワンダでドローン配送を開始した。Ziplineのドローンは、道路事情や人口密度の低さが理由で、陸路では即時の配送や採算性の確保が困難な血液やワクチンを含む医薬品を地方の診療所まで届けている。飛行速度は時速60マイル(約97キロメートル)で、往復120マイル(約190キロメートル)超の配送が可能。ルワンダ政府の肝いりで開始されたこの事業は、近隣各国のニーズにも対応し、いまではガーナやナイジェリア、ケニア、コートジボワールへと広がっている。
Ziplineはその後アメリカや日本の五島列島でも配送サービスを開始し、途上国から先進国へと技術が移転される「リバース・イノベーション」の事例となっている。
アフリカ進出するドローン企業続々、監視や通信基地として利用も
Ziplineに続けと、大手ドローン企業は次々とアフリカに進出している。伊藤忠商事が出資するドイツのドローンスタートアップWingcopterは、2023年にマラウイで医薬品配送を開始した。また最近では、ドローンを医薬品の配送以外で使う新しい動きも見られる。
2023年12月に、エアバスの子会社であるAALTOは、ケニアにドローン打ち上げ基地を設置し、監視サービスを提供すると発表した。同社のドローンZephyrは成層圏を飛行でき、太陽光発電を動力源に30日以上の連続飛行が可能。この特性を生かし、携帯通信の通信塔や森林火災、国境警備の監視、交通状況のリアルタイム提供に用いるという。また成層圏インターネットの通信基地としての利用も目指している。
同じく12月、フランスの資源会社TotalEnergiesは、ナイジェリアでの天然ガス探査にドローンを用いると発表した。メタンガスを探知できるドローンで、ナイジェリアの新しい天然ガス田を発見して投資に繋げる。ナイジェリアでは、石油より天然ガスの輸出が伸びており、いまもっとも注目される投資先となっている。
米ドローンサービスOndas Holdingsがモロッコに進出したのも同じく12月だ。航空データの収集や都市計画、監視サービスやセキュリティーなどの用途でサービスを提供し、セネガルや他の北アフリカといった近隣国にも進出する計画である。
監視といえば、密猟防止や農場管理などに使えるドローンを提供するボツワナのスタートアップAeronautical Solutionsは、2023年に国産ドローンの開発に成功し、ボツワナや周辺国に事業を展開する予定だ。ボツワナの隣国南アフリカでは、サイの密猟防止や、観光地の旅行客の治安確保のためにドローンが使われている。
マラリア対策にもドローンが活躍
アフリカはマラリア発生地域が多く、乳幼児のマラリアによる死亡率も高い。世界のマラリアによる死者の9割超をアフリカが占めているが、このマラリア対策にもドローンが活用されている。ルワンダのスタートアップCharis Unmanned Aerial Solutionsは、ドローンを飛ばして撮影した地理情報を用いてボウフラの繁殖地域を特定し、そこに殺ボウフラ剤を散布している。2020年にルワンダ政府と行ったパイロットでは、8か月でマラリア患者が90%減少したという大きな成果を上げている。ドローンを使ったマラリア対策は、日本のドローンスタートアップSora Technologyも、シエラレオネやガーナ、セネガル、ベナン、マラウイなどのアフリカで実施している。血液や医薬品の配送といった緊急時の命を守る用途から、アフリカで長く解決が望まれてきたマラリアのような疾病の予防や治安対策まで、ドローンが活躍している。
文: 藤原梓(アフリカビジネスパートナーズ)
参考:
週刊アフリカビジネススヘッドラインニュース639号
週刊アフリカビジネス672号
週刊アフリカビジネス675号
週刊アフリカビジネス677号
≪アフリカビジネスパートナーズ プロフィール≫
https://abp.co.jp/
アフリカビジネスに特化したコンサルティングファーム。2012年設立。ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げや事業拡大、スタートアップ投資に関する支援を提供。スタートアップ関連では、日本企業やCVCに対する有望スタートアップの紹介や、出資の際のデューデリジェンスを中立的な立場から提供している。
2022年にはアフリカのスタートアップの調達金額やビジネスモデルを紹介した「スタートアップ白書」を発行。毎週「週刊アフリカビジネス」をメールで配信し、スタートアップの動きを日本語で提供している。