日本企業としてはShiftall社がメタバース対応防音Bluetoothマイク「mutalk」を販売中だ。また、2023年11月にはキヤノンが装着型減音デバイス「Privacy Talk」のコンセプトモデルを発表。Makuakeで資金調達プロジェクトを実施し、目標金額の1095%達成(約1100万円)という結果を出している。
そして今年1月、「Skyted」が新たに登場し、CES 2024にて発表された。
こちらもクラウドファンディングサイトKickstarterにてプロジェクトを実施中。これまで防音マスクの主なターゲット層だったゲーマーはもちろんビジネスパーソンを中心に人気を集め、プロジェクト終了前にして目標金額のほぼ18倍となる約2400万円の資金を調達している。
Skytedは、BluetoothまたはUSBケーブルでスマートフォンやPCと接続し、マイクとして使用するマスク型デバイスだ。航空宇宙技術の応用により音声周波数の最大80%をカットする。iOSおよびAndroidに対応し、30分から1時間の充電で約10時間使用可能だ。
ジェットエンジンの騒音低減技術が“機内”でも効果を発揮
Skyted最大の訴求ポイントは、航空宇宙技術「LEONAR」(Long Elastic Open Neck Acoustic Resonator)を流用した点だろう。LEONARは、わずかな厚さでも低周波の音声を表面で吸収可能で、飛行機のジェットエンジンの騒音低減に用いられる吸音素材である。防音マスクSkytedは開発にあたってフランス国立航空宇宙研究所(ONERA)、エアバス社、欧州宇宙機関(ESA)の支援を受けており、いろいろな意味で飛行機とのゆかりが深い。そもそも、「フライト中の通話を可能にしたい」という着想から生まれたものだ。
開発元のSkyted社は、ステファン・ヘルセン氏とフランク・サイモン氏によって2021年に設立されたフランスの企業。ヘルセン氏は、エアバス社でアジア地区統括を5年間務めた経験がある。彼はエアバス時代、「乗客がフライト中に通話できない」という航空業界が長年抱える課題を何とかしたいと考えていた。
一方のサイモン氏は、フランス国立航空宇宙研究所ONERAの研究者としてLEONAR開発に携わった人物。元エアバス幹部のヘルセン氏とサイモン氏が2011年に出会って同社を設立、マスク開発に至ったという経緯である。
そもそも電車やバスでの通話さえ“ご遠慮”することに慣れた日本人からすると、機内通話の実現が航空会社の課題だったということ自体、意外に聞こえるかもしれない。だが、EU圏内ではまもなく自由に機内で通話できるようになる予定で、「機内モード」が過去のものになりかけているのだ。
もちろんEUでも、フライト中くらい静かに過ごしたい層と、飛行機での移動中に通話やビデオ会議ができたら助かるという層の間で論争になっていた。その問題を解決するのがこのSkytedというわけだ。
専用アプリで声の明瞭度を調節、小声で会話も支障なし
Skytedには同名の専用アプリが用意されていて、通話相手の声と自分の声、両方の聞き取りやすさをアプリ上で把握可能。この測定単位は「サウンドバブル」と名づけられている。その場の状況に合わせてサウンドバブルを調整すれば、会話に最適な音量になる仕組みである。また、大きな声を出せない場合はマスク搭載のボイスブースターが活躍する。小声で話しても、ボイスブースターにより音量が調節されて会話がスムーズに進む。こちらもアプリで操作する。
「80%も音をカットするマスクなんて息苦しいのでは?」と不安に思う人もいるだろう。ところが、Skytedが閉じ込めるのは音だけで、通気性がよく通話中も快適だという。マスクのサイズは5種類から選べるほか、バックストラップでよりフィットするよう調節可能だ。
通話相手ではなく目の前の人物と話したいときも、いちいちマスクを外さず会話ができるのも便利。内蔵スピーカーをミュートにすれば、タクシーの運転手や近くの同僚などに声をかけられる。
今回、見事にクラウドファンディングプロジェクトを成功させた防音マスク「Skyted」。リモートワークの浸透もあり、周囲に迷惑をかけず・機密を守って通話したいという需要は高まり続けている。
マスクの量産開始は今年5月、支援者のもとに届くのが12月の予定となっている。一般販売が実現するころには、さらなる改良が期待できるのではないだろうか。
参考・引用元:
Skyted
Kickstarter
(文・根岸志乃)