故人がこうした管理をネットで行っていた場合、書類などが手元に残っておらず、「本人の携帯電話やパソコンにアクセスできない」「どの会社を使っていたのかわからない」など、遺された家族の困惑は計り知れない。
こうした事情を鑑み、家族がこの世を去った後、近親者が容易に故人の関係先にアクセスできるよう、サポートしてくれるアプリが英国で登場した。
30分で終活が完了するアプリ「Whenn」を利用すれば、故人に関する保険や年金、銀行口座、公共料金の利用先など、生活を支えている情報を家族と共有することができる。
遺された家族の負担軽減へ
「自分が死ぬことで発生する現実的な側面に備えることは、シンプルで当たり前であるべき」と話すのは、Whennを開発したSarah Giblinさんだ。親しい人が亡くなり、遺された人はただでさえ辛いのにさらに大きな負担を抱え、ペーパーレスの時代にあっては、デジタル面で行き詰まり事態はより複雑化する。Sarahさんは「こうした事態を変えるときがきた」と考えている。
故人亡き後、法的なこと以外をサポート
Android版とiPhone版があるWhenn。アプリをダウンロードしてアカウントを作成、利用する公共料金の会社や銀行、年金機構などの質問に答えていく。葬儀の希望も追加でき所要時間は25分ほどで済むとか。ホームに戻ると、すべての回答がリストとして表示され、アプリを通じて近親者と共有できる。いつでも編集・更新でき、リストを共有した相手には自動的に最新の情報が提示される。
法的に近親者とされる結婚相手や成人した子ども、両親、その他血縁関係のある家族などとリストを共有しておくとよいだろう。もしくは、遺言があれば遺言執行者とも共有できる。
なお、Whennで共有するのは会社名のみで、パスワード、ログイン名、アカウント番号は共有しない。理由は、故人亡き後、そのようなものは必要ないケースが大半だから。英国では、遺族や遺言執行者は、銀行、年金基金、公共施設の名前さえ知っていれば、口座を見つけて閉鎖したり移したりできる。
また、まだ紙が果たせる役割もあるとし、死亡関連書類を保管するフォルダと一緒にWhennパックが郵送されてくるが、アプリのバックアップとなる紙の冊子も同封されている。これにより、たとえアプリで情報を共有しなかった人でも、必要であれば故人の口座を見つけ、財産を管理することも可能となる。
書類でのやり取りについては、デジタルが苦手な人や、デジタルデバイスに頼りたくない人も助かるだろう。
聞きたくても本人には聞けない…
これまでは、家族のために書類一式を残しておき、利用している銀行口座や年金、公共料金について知らせていた人もいるだろう。そうでなくても、毎月送られてくる請求書を頼りに取引先を探すこともできたはず。しかし、ペーパーレスのオンライン社会では、こうした“紙”がまったく見当たらないケースもある。いくら親しい相手でも、携帯電話会社や年金機構がどこなのかまでは知らないことも多い。誰かが亡くなった後、遺族はまずその会社がどこなのかを知る必要がある。しかし、亡くなった本人に尋ねることはかなわない…。
Whennを開発したSarah Giblinさん自身、昨年初めに父親が急逝し、その後、遺言執行人として亡き父に関する事務的な手続きに追われた。
自身の経験をもとに、自分と同じような立場の人を助けるツールを開発。こうして、デジタル時代に“亡くなる”準備の一助となるWhennは誕生した。なお、同アプリは英国人を想定して作られたものだが、日本でも同じようなツールを望む声も多いのではないだろうか。
(文・根岸志乃)