教育現場でICTを活用することで、こどもたちの学習効果が向上するだけでなく、教員の効率も向上する可能性があるとして、教育のデジタル化を進める「EdTech」(教育技術)への注目が集まっている。
アスタミューゼ株式会社は、教育のDX化を推進する「EdTech」に関する技術領域において、同社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、EdTechの最新動向をレポートとしてまとめた。
学校と家庭における子どもの学習・教育、職業訓練、企業の研修、社会人のスキルアップをサポートするテクノロジーに焦点を当て、同社が提供するデータベースから技術情報を紹介している。
EdTechに関する特許出願、2014年から中国が首位に
「特許」は、企業や大学が独占的に技術を利用するための手段として用いられている。したがって、特許データは技術の進展や社会実装に向けた情報源となる。そこで同社は、特許データを活用し、EdTechに関する特許出願の動向と国別・機関別の競争力を分析。
2013年までアメリカが特許出願数で1位だったが、2014年に中国が首位に立ち、その後も中国の特許出願が急増し、他国を引き離しているという結果がみられたという。
トータルパテントアセットで韓国が日本を逆転
次に、2011年から2022年までに全世界で出願された約4万件のEdTech関連技術に関する特許について、帰属国ごとにランキングしたトータルパテントアセット*1のスコアを見ていく。*1…各特許の他社への脅威度や権利の地理的範囲などを考慮して、競争力を評価する指標
出願件数とトータルパテントアセットの両方で中国がトップであり、アメリカ、韓国、日本、台湾が続いている。トータルパテントアセットにおいては、韓国が日本を逆転している。
韓国では、2020年7月に「韓国版ニューディール」構想が文在寅大統領により発表され、デジタル技術を教育に活用する方針が示された。その一環として、韓国発のリアルタイム双方向オンライン教育プラットフォームCLASSUMがソウル大学校などで導入されるなど、韓国の公式教育機関でEdTech技術の導入が進んでいる。
5位の台湾で、もっとも高いトータルパテントアセットを持つ企業は英語学習プラットフォームのTutor ABCだ。同社はAIを活用して学習者と教員、教材、クラスメートをマッチングする強みを持っており、世界中で広く利用されている。
インド企業がオンライン学習分野で成長
EdTechは技術開発から社会実装までの時間が比較的短い領域であり、世界中のEdTechスタートアップが競争を繰り広げている。EdTechに関連するスタートアップ企業の設立社数と資金調達額については、以下の通りだ。
2020年に中国が優位に立ったものの、2021年には中国のスタートアップの資金調達は減少した。2021年に中国政府が教育業界に規制を導入する「双減政策」を発表したことが、EdTechスタートアップに影響を与えたことが一因とされている。
一方で、アメリカとインドのEdTechスタートアップは2021年に資金調達に成功し、特にインドの企業は解説動画やオンライン学習を提供する分野で成長した。
インドでは、小学校から高校までの学習内容に関する解説動画を提供し、オンライン学習を支援するBYJU'S社が、2021年6月に3億5000万ドル、10月に約3億ドル、11月に12億ドルの資金調達を実施。
その巨額の資金を用いて、同年7月に米国を拠点に子ども向けデジタル読書プラットフォームを提供するEpic社を、12月にオーストラリアの数学学習ツール開発会社のGeoGebra社を買収するなど、M&Aを中心とした成長戦略を実行した。
スタートアップの成長・資金調達はEdTechの進展を示す指標
アスタミューゼは今回の調査から、EdTech(教育技術)分野においては中国がトップの位置を占めていると分析している。しかし、EdTechは政策に大きく影響を受ける分野であり、中国政府の規制措置がEdTech業界に影響を与えていることがうかがえる。EdTechは急速に変化する分野であり、特許データや資金調達の動向を追跡することが重要だという。特にスタートアップ企業の成長と資金調達は、EdTech分野の進展を示す指標となるとのこと。
教育技術は今後も進化し、教育分野に革命をもたらす可能性があるが、その展望は各国の政策や規制にも左右されるため、これらの要素を注視しながらEdTechの発展を追跡していきたい。
参考元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000397.000007141.html
(文・Haruka Isobe)