魚肉を採取することなく、手軽に鮮度判定できる技術が実用化されれば、日本の水産物の輸出量拡大が期待できるでしょう。
“目利き”のいない海外では魚の鮮度判定が困難
和食のユネスコ世界文化遺産登録などを背景に、すしや刺身といった魚の生食が世界的に受け入れられつつあり、日本から東南アジアなどに新鮮な水産物がチルド状態で空輸されています。水産物の品質要素として鮮度は特に重要。日本では、魚の品質を経験と感覚で判定する“目利き”が活躍していますが、“目利き”のいない海外では、生食用と加熱用を現地の人が区別するのは難しく、取り扱いの多くは日系の店舗であるのが現状です。
生鮮水産物の鮮度指標「K値」の課題
日本の水産物輸出量の拡大へ向け、品質を客観的に保証する指標とその測定方法が必要とされている中、生鮮水産物の鮮度指標として提案されているのが「K値」です。K値は水産物の死後の時間経過に伴って増加することから、低い値の方が鮮度が良好とされています。北海道立工業技術センターは、K値の試験法の日本農林規格(JAS)制定を農林水産省に申請し、2022年3月に「魚類の鮮度(K値)試験方法−高速液体クロマトグラフ法」が試験方法JASに制定されました。
しかし、K値の導出のための化学測定には、特別な技能と一定の時間、魚肉の採取が必要という課題も。そのため、手軽に鮮度を判定する新たなセンシング技術の開発が求められていました。
ニオイから鮮度状態を判定できる手法
そこで産総研らは、新たなセンシング技術として、ニオイ判定の手法を開発。魚のニオイを対象とするため、魚肉の採取が不要の非破壊試験です。実際に、ブリ刺身の購入直後のニオイを室温下(約22 ℃)で測定し、家庭用冷蔵庫(2~5 ℃)で1日保管して、室温下に戻して再度測定してみた結果、購入直後は生食で可食、1日保管後は加熱調理であれば可食との判定となりました。
研究開発の内容
産総研では、“揮発性有機化合物(VOC:常温で揮発しやすい有機化合物の総称、ニオイを構成する成分)”向けの半導体式センサー素子や複数個の半導体式センサーでニオイを計測するポータブル測定器を開発しています。産総研と北海道立工業技術センターは、養殖ブリの各鮮度状態(入荷直後・生食可・加熱調理で可食・腐敗)のニオイを定量的に分析した結果に基づいて「模擬の鮮度指標ガス」を調製し、ポータブル測定器の学習データ取得に活用しました。
ポータブル測定器で「模擬の鮮度指標ガス」を吸引し、8種類の半導体式センサーの抵抗値を計測。指標ガス吸引前後の抵抗変化量をセンサー応答値とし、センサー応答値から4つの鮮度状態に分類するため、機械学習としてニューラルネットワークを活用しました。
そして、画像の判定といった解析でよく使われる機械学習方法“畳み込みニューラルネットワーク”を活用し、養殖ブリ魚肉の鮮度をニオイから判定できることを確認しました。
今後の予定
今後は、ブリ以外の魚肉に対しても検証する見通し。加えて、魚介類の干物などの熟成度合いのモニタリングへの適用可能性も検討します。また、K値と半導体式センサーのセンシング技術による出力とを突き合わせることで、ニオイからK値を判定する技術開発や、多様な魚肉のデータを蓄積してK値を判定できるデータベースの構築も行います。
そして、ポータブル検知器からリアルタイムにK値を出力する改良などを順次行い、早期の実用化を目指すとのことです。
参考元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000113674.html
(文・Higuchi)