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Tech そもそも記憶って必要?Google出身で記憶のプラットフォームの開発者が語る、科学的に記憶するための学習理論

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そもそも記憶って必要?Google出身で記憶のプラットフォームの開発者が語る、科学的に記憶するための学習理論

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本記事はモノグサ株式会社のCTO畔柳圭佑さんにご寄稿いただいたものです。

モノグサ株式会社は、リクルート出身のCEO竹内孝太朗、Google出身のCTO畔柳圭佑の2名が共同創業した企業で、世界的にも解決されていない課題の多い記憶領域に挑戦し、記憶定着のための学習プラットフォーム「Monoxer」を提供しています。


アイデアは記憶から産まれる

テクノロジーが発達した現代社会において、自分の頭で覚えておかなければならない状況は激減したように思われます。友人、仕事の取引先などの連絡先はスマホやパソコンで管理しますし、インターネットで検索すれば大抵のわからないことがすぐに解決できます。

しかし、基礎となる知識、つまり記憶を通して自分のものにした知識がなければ、情報を活用し、新しいアイデアを産むことはできないと私は考えています。

「新しいアイデアは、すでにあるアイデアの組み合わせ」ともよく言われます。今から100年ほど前、「イノベーション」を「経済を発展させる役割を果たすもの」と提唱した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と表現しています。

組み合わせだから簡単に生み出せるかというと、もちろんそうではありません。革新的なアイデアを生み出したいと思っていても、そのためにどんな要素を組み合わせるべきか事前にはわからないのです。

だからこそ、細かなことから大きなことまで、さまざまなことを記憶し、自分の内部にとどめておかなければなりません。

自分のなかに知識を蓄積し、必要なときにいつでも取り出せることが、革新的なアイデアを生み出すためには重要になります。自分の経験や記憶したことがそれぞれユニークではなくても、それらを組み合わせることで革新的なアイデアを生み出すことができます。

また、もう1つ忘れてはならないのが、自分が思いついたアイデアがこれまでにない新しいものか、新しい価値を生むかを判断するにも記憶が必要であるということです。

世のなかに新しい流れをもたらすようなイノベーションを生み出すには、トレンドをフォローするだけでなく、さまざまな思いつきがイノベーションの種になるのかを判断できる基準が必要です。

記憶で「自分の世界」が変わる

何かを記憶すると、日々の生活のなかでそれに近いものに触れたときに気づきやすくなります。

たとえば、ロマネスコという野菜があることを新しく覚えたとします。すると、いつも行くスーパーでも実はロマネスコが販売されていることに気づいたり、訪れたレストランのメニューにロマネスコの文字を発見したりします。

これまでも目にする機会はあったはずですが、ロマネスコという言葉を覚えてアンテナが立ったことで、関連する情報をキャッチできるようになったのです。

また、記憶には、人とのコミュニケーションを円滑にする効果もあります。話すときに相手の名前を呼ぶようにすると、好感度が上がるとも言われています。

久しぶりに会った相手に、「あれ?この人の名前、何だっけ?」と思っていたら、よい関係を築くチャンスを失っているのです。また、雑談も大事です。教養ブームは記憶の大事さが認識されている証拠です。記憶によって深まる教養は、他人との話のタネにもなります。

他にも記憶することが苦にならなければ、娯楽の幅も広がります。同じ映画でも、描かれている内容の背景について詳しい知識を持っているかどうかで、映画の理解度や感じ方も異なります。

このように考えると、記憶は人間関係の問題解決や生活を充実させるためにも役立つスキルだと言えます。

では、実際にどのように「記憶」に向き合うのがよいか、科学的に記憶するための2つの学習理論をご紹介します。

科学的に記憶するための学習理論①「テスト効果」

1つ目の「テスト効果」とは、テストなどにより対象を想起することによって記憶が定着するという効果です。

2011年にJeffrey D. Karpicke and Janell R. Bluntによって「Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping」というタイトルで発表され、Science誌に掲載された論文が代表的です。

この論文では科学の文章を学習の対象として、

①「一定の期間で読むだけ」
②「繰り返し読む」
③「読む+概念図を作る学習」
④「読む+テストによる学習」

のそれぞれの方法で学習したときの1週間後のテストのスコアを比較しています。

一般的に効果が高そうと考えられがちな③「読む+概念図を作る学習」ですが、正答率は40〜50%にとどまりました。

一方、④「読む+テストによる学習」の正答率は、60〜70%と③「読む+概念図を作る学習」のおよそ1.5倍もスコアが高い結果となりました。

また、学習者がそれぞれの学習方法でどのくらい効果を実感したのか自己評価を比較してみると、④「読む+テストによる学習」は自己評価を低く付けた人が多く、他の学習方法をしたグループの方が「記憶できている」と高い自己評価を付けた人が多い結果でした。

しかし、実際のスコアは④「読む+テストによる学習」の方が他の学習グループの1.5~2.5倍高い結果となりました。

テストは記憶したものを確認するために広く行われていますが、実は記憶の定着にも効果的であることがこの実験により科学的に証明されたと言えます。

科学的に記憶するための学習理論②「産出効果」

2つ目の「産出効果」は、たとえば単語を記憶する際には、単純に単語を見て読み上げるよりも能動的にアウトプットするのが効果的であるという理論です。

1978年にNorman J. Slamecka and Peter Grafが、 「The Generation Effect: Delineation of a Phenomenon」というタイトルの論文で提唱したものです。

論文中の実験では、英単語のペアのリストが与えられ、それぞれのペアの1つ目の単語に対して2つ目の単語が何なのか記憶するタスクを行い、 「ヒントに基づいて記憶したいものを想起して学習した場合」と「記憶したいものを見て読み上げて学習した場合」の学習結果を比較しています。

「ヒントに基づいて記憶したいものを想起して学習した場合」は平均すると80%を超える正答率となっているのに対し、「記憶したいものを見て読み上げて学習した場合」は70%弱の正答率となっています。

ヒントの内容には大きな差がないことからも、よりヒントの少ない不完全な状態で答えを導き出せる方が、より記憶の定着には有効であることが示されています。

記憶のプラットフォーム「Monoxer」について

一般的には何かを「憶える」際には、フラッシュカードや単語帳を利用することが多いかと思いますが、いざ効率的に憶えようとした際に、先ほど紹介したテスト効果や産出効果を活用して憶えていくことは、なかなか難しいようです。

そこで、私たちはこれらの記憶の研究に基づき、科学的に憶えられる「Monoxer」を開発しています。

たとえば、憶えていないものを重点的に出題しながらも忘却に対応できるよう、その人に合わせて頻度を変えて出題をしたり、問題の難易度も自動的に調整したりします。

学習する人ごとの記憶の状況は蓄積され、それに基づいて動作を変えるので、使えば使うほど、その人に合った出題がされるようになり、誰でも効率的に憶えることができるようになります。

現在「Monoxer」は、学校や塾といった教育機関を中心に、全国約4,000教室で導入されています。

近年では、塾や学校にとどまらず、中国語教室などの語学教室、美容・医療系専門学校、従業員のスキルアップに力を入れる一般法人、外国人労働者の就労を支援する人材企業など、活用の幅が拡がっております。

記憶することは苦しいことと、とらえられがちですが、「記憶をもっと容易に、より日常にすること」を使命に、引き続きすべての人が自らの可能性を最大限に拡げることで、人生をより豊かに、実りあるものにできるような世界の実現を目指していきます。
<著者プロフィール>

畔柳 圭佑(くろやなぎ けいすけ)
モノグサ株式会社
代表取締役CTO

東京大学理学部情報科学科卒。東京大学大学院情報理工学系研究科にてコンピュータ科学を専攻。分岐予測・メモリスケジューリングを研究。修士(情報理工学)。

修了後は、グーグル株式会社(現・グーグル合同会社)に入社。Android、Chrome OSチームにて、Text Frameworkの高速化およびLaptop対応、ソフトウエアキーボードの履歴・Email情報を用いた入力の高精度化、およびそれを実現する高速省メモリ動的トライの開発、ジェスチャー入力の開発に従事。

2016年、モノグサ株式会社を竹内孝太朗(CEO)と共同創業。CTOとして記憶のプラットフォーム「Monoxer」の研究開発に従事。

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