この段階の変化は、それまでに求められてきた思考や行動を変えなくてはならない大きな転換点と言えます。米マンパワーグループが2020年3月に実施した調査によると、役職に就いていない20〜50歳代の正社員の8割超が「管理職になりたくない」とも回答しています。
その理由の根本は、「管理職としての自信がありません」というものが多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUのKANAME Data Campus研究所長の竹内直人氏に、「管理職・リーダーに自信は必要か?確信で動ける管理職・リーダーになるためには」という内容でご寄稿いただきました。
管理職になりたての方はもちろん、管理職育成に悩む経営者にとっても参考になる内容になっています。
リーダー・管理職に「自信」は必要か?
私は、これまで大手企業から従業員数10名ほどの中小企業まで、延べ250社7万人を超える組織のサポートを行ってきました。その中で、管理職やリーダーになりたての方から、よく聞く共通の言葉があります。「自信がありません」
自信とは何でしょうか。本当にそれは必要なものでしょうか。
「自信」を辞書で引くと、「自分の才能・価値を信ずること。自分自身を信ずる心。」と記載があります。だから経験を積めば積むほど、かつ、自分にとって達成感や満足感の高い経験であればあるほど、自信は次第に高まっていくのでしょう。
では、本当に自信は必要なのでしょうか。特に管理職やリーダーの方に必要なのでしょうか。
「もちろん自信のある管理職やリーダーの方が、一つ一つの言動に説得力が出るから、この人について行こうとか、ついて行っても大丈夫だな、などの印象が深まるに違いない」
という答えが一般的には返答としてありそうです。
そうすると、管理職やリーダーには「自信は必要だ。だからこそ、自信があれば管理職として人を引っ張ることができる」という結論になりそうです。さらに、「では、自信をつけるためにどうすれば良いか?」という課題設定にもなりそうです。
しかし、本当に、それで良いのでしょうか。
私が様々な企業現場で目の当たりにしたのは、「自信があるはずの管理職やリーダー達の苦悩」そのものでした。
自信があるが故に、上手くいかない。
自信があるが故に、同じ過ちを繰り返し続ける。
自信があるが故に、部下がついてこない、など。
むしろ「自信などない方が良いのではないか」と結論づけたくなるほどの惨状でした。
似て非なる「自信」と「確信」
さて一方で、「自信」と似て非なる言葉に「確信」という言葉があります。私は様々な企業現場で、「確信を持つ人が道を拓く瞬間」を多種多様に目の当たりにすることができました。
「自信」と「確信」は、よく似た言葉のように思えますが、その本質はまったく異なるのではないか、というのが私の現場感覚です。
例えば、「自信のある人ほど、確信のある判断と行動がとれる」と一般的には思われがちですが、企業の現場で起きているのはむしろ逆の現象でした。つまり、「自信のある人ほど、確信から遠のく」という事実です。
「自信」と「確信」は、まるで反比例するかのような事例が、あまりにも多かったのです。
だからいつの間にか私は、「リーダー・管理職に自信を持つことは必要ありません。むしろ、確信を持ち行動する人になりましょう」とアドバイスすることも多くなりました。
では「確信」とは何でしょうか。それは、どうすれば引き起こされるのでしょうか。
「自信」は「確信」を阻害するのでしょうか。それとも、助長する役割でしょうか。
私の現場経験を元に一つの事例をご紹介しながら、「確信」と「自信」の違いについてと管理職やリーダーにこそ必要なのは確信であるという点について考察していきたいと思います。
ある「自信」のない管理職
あるIT系企業に堂島さん(仮名)という女性管理職がいらっしゃいました。私が堂島さんと出会ったころ、彼女は管理職に抜擢された直後でした。周りに常に気を遣い、丁寧な仕事を進めるところが評価されたようです。
しかし私の前で堂島さんはいつも部下育成に頭を抱えていらっしゃいました。そして二言目には、「自信がありません」という言葉をいつもお話しされていました。
自信のない理由をじっくり聴いていくと、結局はいつも同じところにたどり着きました。
つまり、
・IT技術のない自分が上に立ち、IT技術のある部下に対して指示やアドバイスを出さなければならないことに不安がある。
・社長の判断が正しいと思い切れない状態で部下にその指示を伝えなければならないことに不安がある。
・部下への自分の伝え方はこれで良いのか。人を傷つけたり誤解を生んだりするのではないかという不安がある。
とのことでした。
私も試しに、堂島さんが社員さん達と行うミーティングを見学させていただきました。
確かに私の目から見ても、堂島さんはいかにも自信がなさそうにしていました。
そしてその雰囲気のために、他のチームメンバーから次々に反対意見や拒絶、さらには詰問に近い質問が飛び交っていました。これを拝見し、堂島さんが「自信がありません」と漏らしてしまう気持ちもわかるようでした。
堂島さんとしては「管理職を降りたい」という話さえも、すでに社長にされているようです。
しかし社長としては、堂島さんの管理職やリーダーとしての可能性をぜひ伸ばしたい、という考えがあり、それもまた私はよく理解できました。
なぜならば、私の印象では、堂島さんは管理職やリーダーになることで、本来の個性を抑え込んでしまっているように見えたからです。
もっと「本来の自分」をそのまま管理職やリーダーとしての役割として表出させれば実に楽なのだろうと、私も社長も同じ意見でした。
自分の素質を活かしたリーダーシップの発揮を
「リーダーシップ」というものには、様々なタイプがあります。しかし、多くの人はリーダーシップとは自分とは無縁の世界の話だと思っている人も実は多いのではないのでしょうか。
それは、リーダーシップとは「人を引っ張る」「カリスマ的な」「すごいリーダー像」をイメージしているからに他ならないからです。
リーダーシップとは、「人が人に対して与える影響力のこと」を指します。
・リーダーシップは上司も部下も関係なく、組織を構成するメンバー全員が持っている力
であり、
・リーダーシップは「ある・なし」ではなく「強い・弱い」
であり、
・リーダーシップが強い人は影響力が強いし、弱い人は影響力が弱い
であり、
・リーダーシップの発揮の仕方は、個人毎の素質により異なるもの
ということを我々は定義しています。
引っ張るだけがリーダーではありません。多くの人は「リーダーだから引っ張らねば」「リーダーだから堂々としていなければ」と思い過ぎているようです。そしてその結果として、自分の本来の個性を消してしまいます。
多くの人は幻想として「すごいリーダー像」と思いがちですが、「リーダーらしい自分」になるのではなく「自分らしいリーダー」を目指した方が、より魅力的な存在となれますし、部下もついてきます。リーダーシップのタイプの詳細については、また改めてそのテーマでじっくり書かせていただきますが、ここでは大きく2種類について説明します。
最も単純な分け方をすれば、リーダーシップには「引っ張るタイプ(先導型・探究型リーダーシップ)」と「後ろから支えるタイプ(調和型・尊重型リーダーシップ)」があります。
後者のリーダーシップを発揮することで、急に良いチームができた!という人を私は本当に沢山の事例で拝見してきました。
「後ろから支えるリーダーシップ」の人達は当初、「リーダーとして自信がありません」と言います。
しかし、「後ろから支えるというリーダーシップを発揮することでチームはこんなに良くなるんだ」という体験を通じて、「リーダー(や管理職)という役割がとても楽しくなりました」というお声はよくいただきます。
面白いことに、そういったタイプの人達は、どこまで経験を積んでも「自信は、やはりありません」とおっしゃることが多いのです。むしろそれくらいの方がきちんと丁寧に部下を「後ろから支え続ける」ことができます。
そこで、私は堂島さんに「後ろから支えるリーダーシップを目指してみませんか?」とお伝えしてみました。
「もしそのようなことができたら、そんなに嬉しいことはありません。皆がそれぞれ自走しながらチームとしての成果を出すのが私の理想のチーム像です。」という堂島さんのお返事を聴き、私はむしろ、堂島さんのリーダーとしての想いを強く感じました。
調和型・尊重型リーダーシップは「人との向き合い方」で変化する
そこで実は、私は堂島さんにたった一つだけアドバイスをしました。それは、「人との向き合い方」です。私がミーティングで拝見した堂島さんは「常に意識が自分の心の内側に籠ってしまっている状態」でした。恐らくですが、「次、何をどう言おうか?」「どう上手く伝えようか?」「こんなことを言ったらまずいかな?」等々、様々な迷いの中で逡巡していたのでしょう。
私は堂島さんに下記のようにお伝えしました。
竹内:「目の前の人の顔や振る舞いや雰囲気を、観察し続けていてください。評価も解釈も何もせず、ただ“あるがまま”を楽しみながら観察し続ければいいです。」
堂島:「観察だけで良いのですか? すると思考がまったく働かなくなりますが・・・」
竹内:「はい、大丈夫です。何も思考しなくて結構です。ただ楽しみながら『あるがまま』を観察していてください。すると直観的に、その人にお話ししたいことが浮かんできます。そうしたらその通りにお話ししてみてください。」
堂島:「何も浮かばなかったらどうすれば良いですか?」
竹内:「その場合は、何もお話ししなくて結構です。」
最初堂島さんは半信半疑の状態のようでした。この向き合い方にどんな意味があるのだろう?と訝しがりながらも、「わかりました、やってみます。」とおっしゃいました。
堂島さんの会社は、半期に一度、上司が部下と1on1で面談します。ちょうどその時期でしたので、面談においてその「向き合い方」を部下の方へ実践していただきました。
面談の1日目が終わったところで、さっそく堂島さんからメールをいただきました。そうしたら、彼女はかなりお喜びの様子でした。
「言われた通りやってみたんです。そうしたら、とても楽ですね!面談は私自身がいつも苦痛だったのですが・・・。しかもやっているうちに、直観的にいろんな質問が私の中から浮かんできたんです。それをそのまま投げてみたら、すごく面談が盛り上がりました。部下の皆さんがあんなに本音で仕事の話を私に真剣にしてくれたことはありません。」と。
やはり予想通りだったな、と私も嬉しくなりました。
堂島さんには「人をサポートしたい」という強い想いが、もともと潜在的にあります。そういった人が「自分の心」にではなく「相手そのものに」意識を向ければ、それだけでその場の雰囲気は変わります。しかも、自分の思考に捕らわれないことで、自然な直観・ひらめきも多くなります。
素質を研ぎ澄まし「確信」のあるリーダーシップへと
そこからの堂島さんは、管理職として「変貌」しました。まさしく「変貌」という言葉が、大袈裟ではなくピッタリだったのです。堂島さんは、それから約1年で、会社の実質的No.2となりました。
「相手に意識を向け続ける」という向き合い方を実践しながら、「後ろから皆を支えるリーダーシップ」を益々研ぎ澄まされていきました。さらに、堂島さんは社員の皆さんにだけではなく、社長に対しても行うようになりました。
そして、自然に湧いてくる質問、自然に湧いてくるメッセージを、そのままダイレクトに伝えることで、まずは、社長の言われることの本質を理解できるようになり、社長の一番の理解者となりました。そして、社員の皆さんには、1on1だけでなくミーティングの場でも意識を向け続け、言葉は少ないのですが、皆さんの琴線に触れる一言一言を発するようになりました。
実はその一言は、社員さん曰く「とても厳しい言葉が多いです」とのことです。それでも「実は、何となく自分自身がわかっていたことを言われるので、納得するんです」とのことで確かに響いているようです。
いつの間にか「我社で最も社員に厳しいのは堂島。でも、社員から最も信頼されているのが堂島」であると、社長どころか他の役員からも言われるようになりました。堂島さんご自身も「一年前の自分が嘘のようです」とおっしゃっていました。
面白いのが、私が堂島さんに「いかがですか?管理職として、少しは自信はつきましたか?」と問うと、こう返ってきたことです。
「今でもまったく自信はありません。でもその方が良いのだと思うようになりました。自信がないからこそ、私の中からは“確信の一言”しか出てきませんから」
「自信」と「確信」の関係とは
ここで、先の事例を踏まえた上で、自信と確信の違いについてご説明いたします。「自信」とは、過去の経験や現在の能力に基づいて、自分で自分に高い評価を与えることで発生するものです。「確信」とは、人間の持つ潜在的洞察力を駆使することで発生するものです。現実や人としっかり向き合うことで発生しやすくなります。
「確信」とは、人との繋がりの中でこそ、生まれてくるものです。
しかし、過去の経験や実績に過度の自信を持ち、縛られ過ぎている人は、意識が自分の内側に籠ってしまい、確信が生まれにくくなってしまいます。
自分の内側から自分の意識を解放・開放し、外の世界(人、現実、現象など)と向き合うことで、私達は、人間が本来持っている直観力を発揮し、確信が生まれます。
自信があろうがなかろうが、確信は生まれるものです。「自信」と「確信」は別個のもの、というのが、私の企業現場における実感です。
しかし、自信を持ち過ぎて固執し過ぎることで、自分の中にある確信に、自らが気づけなくなっている人も多いのです。「確信」や「直観」こそ、これからの時代の組織活性の大きなキーワードとなる気がします。今回、詳細をお伝えできなかったことに関しても、今後は一つ一つ具体的な記事にしていこうと思います。
今回は「自信」と「確信」という視点からの私の「実感」をそのまま書かせていただきました。皆様はどのようにお感じになるでしょうか。
<著者プロフィール>
竹内直人
KANAME Data Campus
研究所長
株式会社ITSUDATSU顧問・アドバイザー。KANAME Data Campus研究所長。株式会社真本音代表取締役。組織開発のスペシャリスト・チームパフォーマンスコーチ・真本音コミュニケーション開発者。コーチングがマイナーな27年以上前から質問中心の人材育成手法を使い、250社6万人以上をサポートする。現場の中から見出した真本音コミュニケーションを使い、「自律調和型組織」を創り、社長の想像を超える業績を残す組織を創り出している。