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Tech 米国の事例から考える日本のセキュリティトークン(デジタル証券)の現在地と未来像

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米国の事例から考える日本のセキュリティトークン(デジタル証券)の現在地と未来像

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はじめに

DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれて久しいですが、ブロックチェーン技術を活用して、資金調達/証券ビジネスに「変革」をもたらそうとしているソリューションとして、セキュリティトークン(デジタル証券とも呼ばれることがあります)が近年注目を集めています。

Securitize社は、セキュリティトークンに関するソリューションを展開するグローバル企業で、日本を含む各国でのプラットフォームの提供ビジネスに加え、米国ではSECよりライセンスを取得した上で、セキュリティトークンを使っての資金調達の支援、セキュリティトークンの取引所(ATS)の運営等を実施しています。

今回は、Securitizeグループの日本法人であるSecuritize Japan株式会社のTech Consultantである大久保潤氏に、Securitizeのグローバル知見に基づき、日本におけるセキュリティトークンの現在地と未来像についてご寄稿いただきました。

セキュリティトークンとは

セキュリティトークン(以下、ST)とは証券や不動産の持分をブロックチェーン上で電子的に表現し、発行・流通を可能としたものを呼び、日本ではデジタル証券と呼ばれることもあります。また、ST化した証券等を販売して企業やプロジェクトが資金調達を行うことをセキュリティ・トークン・オファリング(以下、STO)と呼びます。

権利をトークン化し、ブロックチェーン上で流通することで、暗号資産等と同じように保有者自身が管理し、中間機関を経由せず移転や売買を保有者自身で行う等の機能が技術的に実現可能です。

この技術的特性を活かすことにより発行体側には資金調達コストの低減、投資家層の拡大が見込めます。また、投資家には新たな投資商品の選択肢、リターン率の向上が期待できるというものです。

ST/STOという概念が生まれたのは、2017年となりますが、黎明期においては各国で実証実験的にSTOのプロジェクトが行われてきました。

それ以降、法改正、プラットフォームの発展、一般認知の拡大等により、徐々に実利の伴うものが増えてきている状況で、現在は発展期にさしかかっている状況だと考えています。

自己募集型セキュリティトークンにより、企業が投資家と直接繋がる

日本においてはSTO=不動産という先入観があるかもしれませんが、STOは全ての証券・資産が対象となります。その汎用性を示す一例として、最近弊社が取り組んだ社債の自己募集案件の紹介をしたいと思います。

2022年、丸井グループ様が、Securitizeのプラットフォームを活用して、日本初の公募自己募集型デジタル債(ST)にて、資金調達を行いました。

参考:丸井グループによる国内事業会社初の公募自己募集型デジタル債発行で Securitizeのプラットフォームが活用されました

※上記はSTOの事例を紹介することを目的としたものであり、特定の銘柄の投資勧誘を目的としたものではありません。また、Securitizeは、日本では証券業は行っておりません。

本案件は、デジタル債(ST化した社債)の自己募集であり、丸井グループ様が直接自社顧客であるエポスカード会員向けに社債を販売したというものでした。

事業会社が、公募で社債を自己募集するのは日本初であり、これをSTの技術を使い実現したものとなっております。

これにより、これまでの社債公募では実現できていなかった以下の点を実現しています。

・発行体による投資家の直接アクセス:
投資家に直接アクセスし勧誘・販売・管理することで、資金調達と顧客エンゲージメントをかけあわせることを可能とした
・金銭以外での利払い:
本募集ではエポスカード会員を対象にしていたことから、リターンの一部をエポスポイントで付与する設計とした
・小口化による幅広い投資家にアクセス:
デジタル債の利用により、従来小口化にまつわるコストの課題を乗り越え、本募集では申し込み金額が、従来の社債や株式に比べてアクセスしやすい金額(1万円)に設定した

「BtoC企業が、共感型投資の直接勧誘(自社サイト・アプリ、メルマガ等)により自社顧客のエンゲージメントを高め、自社顧客から自社投資家へと発展させ、ロイヤルティの高い顧客でもある自社投資家をリアルタイムで捕捉し、次のマーケティングに活用する。また、ポイントによる利払により、自社経済圏での活動も促すことができる。」そのような世界観が実現可能であることを証明した、非常に意味のある案件だと考えています。

米国の状況

一方、STOの適用が最も進んでいる米国の状況はどのような状況となっているのでしょうか。Securitizeは米国で様々な企業・ファンドのSTOでの資金調達をサポートしています。

※以下は米国での活動を紹介することを目的とした事例紹介であり、2022年12月22日現在、日本国内に居住されている方は投資いただけません。また、Securitizeは日本では証券業を行っておらず、金融商品への投資を勧誘、アドバイスを提供するものではありません。

Exodus社の未上場株式資金調達(Mini-IPO:Regulation A+)

2021年、Exodus Movementというアメリカにおけるデジタルウォレット提供をするスタートアップ企業が、STOにて75 million USD(2022/12/1の為替レートにて100億円以上)の株式での資金調達を行いました。

本調達のポイントは以下です。

・Regulation A+という米国の小規模公募規制(上限75million USDを一般投資家を含む米国投資家より調達が可能)を活用・準拠
・自己募集であり、証券会社の引き受け手数料が発生していない(通常、この規模の引き受けは数%(数億円)の引き受け手数料が発生します。その手数料の節約ができているということです)
・自己募集であり、Exodusは自社の顧客向けアプリより、直接顧客に訴求を可能とした
・二次流通が可能である(Securitize Marketsを始めとした、STを取り扱う取引所(ATS)にて売買可能)、プライマリ投資家は必要に応じてATSにて売却が可能)

STOにより、スタートアップ企業が、低コストで、広く、多額の調達ができている例になっているかと思います。

KKRのPEファンド、Hamilton Laneのトークン化されたフィーダーファンド

2022年、世界最大の投資運用会社の一つと言われているKKR(Kohlberg Kravis Roberts & Co. L.P.)のヘルスケア成長投資戦略ファンドIIの出資持分をトークン化し、投資募集をすることを発表しました。

また、同様に、世界的な投資運用会社であるHamilton Laneは、同社のファンドへの投資家のアクセスをトークン化で拡大することを目的としたSecuritizeとのパートナーシップを締結し、今後3種のトークン化されたフィーダーファンドに対して、米国の適格投資家は簡単に投資できるようになる予定であることを発表しました。

これらは、米国SecuritizeのWebサイトより、国籍や資産額等の一定の投資家要件を満たすことを証明した投資家であれば誰でも投資応募ができます。

STOにより、これまで機関投資家などの極めて限られた投資家しかアクセスできなかったファンドに対するアクセスが、小口化コストの低減等により一般寄りに広がってきている例になっているかと思います。

Artory/Winstonのアートファンド

2022年、Artory/Winston(ArtoryとWinston Art Groupによるジョイントベンチャー)は、初のトークン化・分散型アートファンドの設立を発表しました。

本ファンドへ組み入れられるアート作品のソーシング及び評価は​​Winston Art Groupが行い、投資家は、厳選された現物のアートからなるポートフォリオの持分をSTとして購入することができ、1年間、原則として購入したSTを転売等、二次流通できない期間を空けた後、Securitizeのセカンダリー市場で取引できる予定です。

また、Artoryの技術を活用し、作品の情報をブロックチェーンに取り込むことで、出所の証明、デジタル証明書を投資家に示す予定となっています。

STOにより、これまでになかったような新たな​​魅力的なオルタナティブ投資商品が出てきた例になっているかと思います。

パブリック・ブロックチェーンにおけるSTの発行・管理・流通

上記例に限らず、米国におけるSTは、日本とは異なり、大半がパブリック・ブロックチェーン上に発行・管理されています。

そのため、ステーブルコインによる決済・償還/配当/利払、複数のATS(代替取引システム)での二次流通を容易に実現することができます。

日本における今後の展望

2022年、日本でもSTOならではの特性を活かした案件が生まれてきました。今後、STOの更なる発展を遂げてゆくことが期待されます。

自己募集型STOの増加

先ほどご紹介した、丸井グループにおける社債自己募集は、BtoC企業が直接投資家と繋がり、エンゲージメントすることが可能であることをSTの技術をもって証明した事例でした。

発行体・投資家を含む全てのステークホルダーがWin-Winとなるモデルであり、このような事例は、今後も多く出てくるものと予想されます。

未上場会社の資金調達におけるSTOの活用

米国では、STの技術を活用することで、これまで非デジタル部が残っていた未上場会社・スタートアップの資金調達についてデジタル化・効率化が図られています。

日本でも同様に、未上場会社の資金調達のデジタル化・効率化という面で、STの技術は親和性は高く、今後STによるスタートアップ企業の資金調達の事例が出てくることが期待されます。

ただ、一方で、米国では、Regulation A+、Rgulation Dなど、未上場会社の資金調達を促進するための制度が整えられてきたという背景があり、その上でST化も図られているという状況です。

日本では小規模公募規制・特定投資家が極端に少ない等の過剰規制により、諸外国に比較して未上場会社・スタートアップ企業の資金調達がしづらい状況にあり、そのあたりの規制改革も同時に進める必要があるでしょう。

また、そのような状況ですので、日本の未上場会社・スタートアップ企業が米国の規制を活用した資金調達をすることが、STOによるデジタル化によりハードルが下がり、今後促進してゆくことも考えられます。

クロスボーダーSTO

上記のように日本企業が米国でSTOにより資金調達するとは逆に、米国の先進的なSTを日本で販売・売買するということも考えられます。

もちろん、その場合は、日本における開示規制や、一種金証業ライセンス業者が取次ぐ等の、日本法に準拠するための対応が必要です。しかし、一般の米国株が日本国内で人気な様に、クロスボーダーSTOの実現も近い将来実現されるでしょう。

他のデジタルアセットとの連携

STは、ブロックチェーンをベースとするテクノロジーであり、元来、他のブロックチェーンベースのデジタルアセットとの親和性が高いものです。

米国で既に実施されているように、法定通貨と連動したステーブルコインを使っての決済や、ST投資家に対してNFTを特典として付与する等による新しい投資家エンゲージメントの形など、他のデジタルアセットとの連携が今後進んでゆくことが考えられます。

最後に

Securitize Japan株式会社は、ST/STO領域のグローバルリーディングカンパニーであるSecuritizeのグローバルで発展したソリューション・知見を活用し、また日本の法規制に準拠しながら、日本のST/STOの発展に貢献してゆきます。

日本国内におけるST、クロスボーダーST(日本法人の米国規制に準拠した資金調達、米国STの日本販売)など、ご興味がある方は以下の連絡先まで、ぜひご連絡ください。

お問い合わせフォーム

<著者プロフィール>

大久保潤
Securitize Japan株式会社、Tech Consultant

2010年、慶應義塾大学大学院卒業後、NTTデータ入社。大手教育会社向けグローバル顧客管理プラットフォームの新規構築など、複数のミッションクリティカルなシステム開発に従事。

2019年より同社ブロックチェーンCoEチームに異動、複数の大手企業のブロックチェーンDXプロジェクトをリード。

2021年よりSecuritize Japanにジョイン、Tech ConsultantとしてSecuritizeソリューションの日本展開を推進中。

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