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Tech LIFULLが語る拡張現実時代の家探し。「街の記憶」から住まいを選ぶ?

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LIFULLが語る拡張現実時代の家探し。「街の記憶」から住まいを選ぶ?

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スマートフォンを通じてARコンテンツを現実世界に表示する「ARアプリ」に続き、現実の物体や場所にデジタル情報を重ねて表示する「ARグラス」が注目を集めている近年。今後、ARが日常生活で活躍する場は増えると予想されています。

そんな来たるAR時代では、どんな住まい探しが求められるでしょうか。今回は、株式会社LIFULLの未来デザイン推進室リサーチ&デザイングループに所属する細谷宏昌氏に、AR時代に向けた住まい探しのハードルや、同社が提供するARコンテンツについてご寄稿いただきました。

AR時代に向けた期待とハードル

AR (Augmented Reality:拡張現実)という言葉が世間で認知されてから数年。パッケージや看板を認識して、そこにキャラクターが表示される広告などを一度は目にされたことがあるのではないでしょうか。

そういった“AR活用”が一旦技術的な旬をすぎ、それだけでは広告の中で目立ちにくくなったこともあり、ガートナージャパン社が発表した「日本におけるユーザー・エクスペリエンスのハイプ・サイクル:2021年」ではAR技術は幻滅期に突入していました。

出典:ガートナージャパン株式会社

現実世界を認識して、それに合わせて情報などを表示し、あたかもその場所にそれがあるように見えるといったARのコンセプトは非常にワクワクさせるものであり、そして未来を感じさせるものでした。しかし、日常的にARを使用することを考えると大きな2つハードルがあります。

①自己位置推定

日常的にARを使用する際のハードルの1つ目は自己位置推定です。その端末がどの位置にいて、どの方向を見ているのかを端末自身が推定できていないと、現実の世界のものと端末内の情報を綺麗に重ねて表示することができません。

前述の広告利用ではマーカーレスARと呼ばれる、特定の画像の特徴点を検出、その大きさや歪みを分析することでカメラがどの方向から、その画像を見ているかを推定して、情報を表示できる技術が活用されています。

しかし、街という広い範囲で情報を重ねようとすると、非常に大きな誤差が生じてしまうのです。

通常、自己位置の推定にはGPSとデバイス内の各種センサーを使います。ただ、現在のスマートフォンに搭載されているGPSセンサーでは、測定誤差20メートル以内(周囲の建物状況によって拡大)となっており、地図での現在地表示ではそう大きく感じない誤差も、ARを使用するための情報を重ねるという用途では非常に大きな誤差となります。

②デバイスの壁

2つ目はデバイスの壁です。

調べものや連絡をするときは、ポケットやバッグなどからスマートフォンを取り出し、アプリを立ち上げる必要があります。

ARアプリの場合、アプリの立ち上げだけではコンテンツが表示されません。カメラで周りを認識してようやく何かが表示されるので、ユーザーにとってとても興味があるコンテンツ内容でないと見てもらうことすら難しいでしょう。

そのため、日常的に使うものに限ると非ARアプリに軍配が上がります。

AR使用のハードルに変化の兆し

しかし、ここにきて日常的にARを使用する際の2つのハードルに対して、変化の兆しが見えてきました。

カメラ画像を使用した自己位置推定サービスの登場

まず、1つ目の自己位置推定に関しては、LIFULLとパートナーシップを締結しているNiantic社が2022年上旬に「Lightship VPS」を発表し話題を呼びました。

このVPSとはVisual Positioning System(ビジュアル・ポジショニング・システム)の略で、GPSを使用しておおよその位置を推定し、カメラに写ったオブジェクトの色や形状から、今カメラがどこにいるのかを推定するシステムです。

その精度は0.01m級であることから、GPSだけでは実現できなかった街の特定の場所にピッタリ位置を合わせたコンテンツが提供可能になりました。

このVPSに関してはGoogle社からストリートビューの元となる大量のロードサイドの画像を活用した「ARCore Geospatial API」が発表され、こちらも大きな話題となりました。

ARグラスの再興と普及の未来

2つ目のデバイスの壁に関しても、変化が現れています。

2012年に発表され、2015年には一般販売が中止となったGoogle Glassは、活躍の場を商業・産業に移し2019年にはver2.0を発表、現在では数多くの企業に導入されています。

一方、コンシューマー向けに関してはNrealなど、比較的安価なモデルが出現し始めるなどイノベーター、アーリーアダプターに向けた商品が揃いつつあります。

LIFULLと提携しているNiantic社も2022年11月にQualcomm社と合同で屋外用ARヘッドセットのリファレンスデザインについての共通ビジョンを提示し、そのコンセプトムービーを公開しました。

Apple社も2025年にプロダクトを発表するのではないかと予測されるなど、ARグラスを取り巻く環境は明るいように思います。

このままARグラスが普及すれば、常にカメラで周りを認識しながら、現実世界に情報が重なって表示されるのが日常となります。

スマートフォンを毎回ポケットやバッグから取り出すといった手間がなくなり、すぐに情報へアクセスできるようになるので、日常におけるARの活躍の場が増えると考えられます。

一般的に普及するのはまだ少し先の未来かもしれませんが、スマートフォンがiPhone 3GSの登場から急激に普及し、今ではなくてはならないものになったように、1つのキラーデバイスが市場を一変させる可能性は大いにあるでしょう。

そのような「ありえるかもしれない未来」に対して、私たちは現時点でどのようなことができるのかを検討し、プロトタイプとなるアプリを開発し、パブリックテストを開始しました。

Finding Serendipityが目指す世界

私が所属する株式会社LIFULL 未来デザイン推進室リサーチ&デザイングループでは「誰もがより自分らしく暮らせる世界(=Well-beingな世界)の実現」に向けて、ありえるかもしれない未来を想像・思索し、その未来をプロトタイプとして体験できる形で世の中に提案するというミッションを掲げています。

私たちは、これまでにデジタルツイン上の世界を飛び回って部屋を探す「空飛ぶホームズくん BETA」や同じ価値観グループの人がどの街でWell-beingに生活しているかを探せる「VALUES MAP」などを発表・公開してきました。

「FindingSerendipity」のベータ版への参加はこちらから

今回は上記のようなARグラスが普及した時代の新しい「住まい探し」体験として、“Finding Serendipity by LIFULL HOME’S”を発表・公開し、2022年12月現在Testflightのパブリックリンクを公開、テスターを募集中です。

日常的な利用からスムーズに「住まい探し」へと繋ぐ

住み替えは大学の在籍期間や更新タイミングとなる2年や4年が多くを占めています。そのため、不動産情報を提供するLIFULL HOME’Sとユーザーとの接触機会も同様に非常に長い間が空いてしまうことが1つの課題でした。

そこで私たちは日常的に使うと移動や街の散策が捗る、楽しくなる体験を設計し、LIFULL HOME'Sとの繋がりを保ち、いざ不動産情報が必要となったときにそのまま移行できるような、引っ越し潜在層へアプローチできる体験へと企画を起こし込んでいきました。

街での出来事や感情を記録し、その場に「アンカー」として残す

「Finding Serendipity」では、街歩きの途中であった出来事を画像や動画、またそのときに感じた感情をスタンプや音楽をその場所に「アンカー」として、位置情報・撮影角度と共に記録することができます。

例えば、一目惚れした店頭ディスプレイや綺麗な夕日、美味しかったケーキなどの写真や映像を記録し、今の気持ちに合う音楽と一緒にその場所に残すことができます。

ARペンを使った場所に合わせたアートの設置

「Finding Serendipity」では、街中にあるWayspotを認識すると空間に対して3次元でドローイングを行うことができます。これを保存すると、同じ場所に訪れた他のユーザーも数センチの精度で再現されたドローイングを見ることができます。

この機能をストリートアーティストなどに提供することで、現実にはないデジタルアートが街の至るところに溢れるプラットフォームになるかもしれません。

蓄積された記録が街の魅力になっていく

「Finding Serendipity」では、他のユーザーが残したアンカーが蓄積され、現実の風景に重なって表示されることで、一人では知ることのできなかった街の出来事に時間を超えて出会うことが可能。その場で他のユーザーがどのような感情だったかを知ることができます。

例えば、ある街角に他のユーザーがたくさんの“ワクワク”の感情を残していたら、そこにまだ知らない街の魅力が埋まっているのかもしれません。そんな自分一人では発見することができなかった街の魅力に“偶然”出会えるようなプラットフォームを私たちは目指します。

不動産情報はユーザーに寄り添ったタイミングで表示

日常的に見ている世界に膨大な不動産の情報がARとして表示され続けていたとしたら、ユーザーにとって興味のないものが頻繁に出現する可能性があるため、ユーザーの満足度を下げてしまい、プラットフォームからの離脱を招いてしまいます。

そこで私たちは、「Finding Serendipity」で物件情報を表示するタイミングを「ユーザーが街を好きになり、この街に暮らしたいと思って能動的に情報を取りに行くタイミング」「ユーザー自身の趣味嗜好と合致した希少性の高い設備をもつ物件の近くに来たとき」の2つに絞りました。

間取り図同士で大きさを比較できる

また、「Finding Serendipity」では物件の情報の表示に関して、ARならでは機能を盛り込んでいます。それは、当社の特許技術であるD間取り」を活用し、間取り図から3Dモデルに変換する機能で、個人的に画期的だと思っている部分です。

この機能により、ユーザーはモデル同士を並べて今まで直感的に大きさを比較できなかった物件同士を比較し、「物件が理想に近い広さかどうか」といった住みやすさなどを内見前にAR上で検討することが可能になりました。

新しい「住まい探し」の形とは?

街で使うARアプリの先駆者として「セカイカメラ」というアプリがあります。このアプリの「脱検索」というコンセプトは、今回の「Finding Serendipity」に深く関わっています。

名前を知っている街の物件を探すのとは別に「ふと訪れた街でとてもすてきなカフェと出会う」「お気に入りの街で、自分の趣味と合致した希少な設備を持った部屋と出会う」など、通勤時間などのハード面での拘束が少し弱くなった今だからこそ、“偶然”出会う新しい「住まい探し」の形が必要なのではないかと思っています。

今回、ARグラスが普及した前提で体験を構築しているため、実際にテストを行うスマートフォンでは使いづらかったり、直感的でない部分があったりすると思いますが、少し先の未来を想像しながら体験していただけると嬉しいです。

公開の段階では、私たちが提供する世界はまっさらの空き地です。

この空き地の上にパートナーと協力をしながら魅力的に見えるユースケースなどを作成していきますが、テストに参加していただけるみなさん一人ひとりが設置するアンカーが街の情報として蓄積され、時間を飛び越えた街での出来事や人々の感情が、新たな街の魅力となっていきます。

生まれたばかりの世界、一緒に楽しく興味深い使い方を考えていきたいですし、この先を拡張していくパートナーも募集していますので、ご興味がありましたらぜひご連絡いただければと思います。
<著者プロフィール>

細谷宏昌
株式会社LIFULL
未来デザイン推進室リサーチ&デザイングループ
研究員

東京藝術大学大学院修了後、テクノロジーとアート双方の視点から広告・展示・プロダクトの企画ディレクション・新規事業開発サポートなどに従事。
2020年3月より現職。「誰もがより自分らしく暮らせる世界の実現」を目指し、ありえるかもしれない未来を思索し、プロトタイプとして体験できる形で提案することがミッション。最近では同じ価値観の人がどの街でWell-beingに生活しているかを探せる「VALUES MAP」を公開。これまでにRed dot Award / Good Design Award / ADFEST / SPIKES Asiaなどを受賞。

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