前回、株式会社リブ・コンサルティングの住宅・不動産テックチーム マネージャーである篠原健太氏に「不動産業界は日本最大のアナログ市場、不動産テックはこれから業界をどう変えるのか?」というテーマで、レガシー業界への光はテクノロジーであることを解説していただいた。
今回はコロナ、ウッドショック、ウクライナ情勢、さらには円安と、止まらない“負”に対して、住宅・不動産業界はどうすればいいのか?というテーマで、住宅・不動産企業の負を解決するヒントである“DX”についてご寄稿いただいた。
住宅・不動産業界が置かれている状況
何よりも先にお伝えしたいのは、今後も続くであろう原価上昇トレンドである。建築費は過去30年において上昇トレンドが続いているが、直近10年では工事原価は3割ほど高騰している。出典:一般財団法人 建築物価調査会 総合研究所「建築物価 建築費指数」
弊社の調査によるとウッドショックの影響により81%の住宅企業が経営に対してマイナスの影響があると回答。そこに円安も加わったことで建築資材メーカーの各社が次々と値上げを発表した。業界全体としても「いかに原価を抑えるか」に大きな注目が集まっているのである。
ウッドショックとは、世界的な木材価格の高騰を指す言葉で、1970年代の原油価格上昇で起こった社会現象「オイルショック」になぞらえて使用されている。
過去にウッドショックは何度か起きているが、2021年に突入して発生したウッドショックでは、木材の輸入価格の高騰が顕著で、2021年3月以降は稀に見る価格上昇が起きた。特に、日本国内における木材の自給率は約4割と高くはないため、住宅業界への打撃は大きいとされている。
もう1つのトレンドが急激に進む業界の寡占化だ。不動産においてはロングテールの中小企業がまだまだ存在している。一方で、住宅業界においては業界大手企業による地場企業のM&Aのニュースも盛んに聞くようになり、メガグループ化が進行している。
新設着工戸数の中で業界上位10グループが占める割合は2016年の23.8%から2020年には31.8%まで伸長した。2010年からの10年間で住宅会社の数も11256社減少した(国土交通省より)。
メガグループの圧倒的な資本力を活かした競争により、今後も急激に寡占化が進み、原価増にも耐えきれなくなった中小規模の事業者は存続の危機にさらされていくのである。
このような状況は決して悲観的に捉えることだけに留める必要はない。多くの業界企業にとっては今まではあまり変化の必要がなかった。今まで通りのやり方で今まで通りの日々を過ごしていれば問題なく事業を運営できていたからである。
それゆえに多くのレガシーな要素が残り続けてきたとも言える。しかし、多くの企業にとって存続の危機にさらされてきた今だからこそ、変化の意識が高まってきている。いわば業界全体がアップデートするチャンスなのである。
そこで大きなキーワードとなるのが、事業の生産性を高め、事業基盤を強化しうる「DX」である。
住宅・不動産企業のDXの取り組みの現状
何度も伝えているが、住宅・不動産業界は日本最古といってもいいレガシーな業界である。上記の状況変化の中で少しずつ耳を傾けるようになってきているのは事実であるが、弊社でアンケートを取ったところ、全社レベルでDX化に取り組んで成果が出ているのは16.7%程度。まだ全くDXに取り組んでいない企業も4分の1程度は存在している。そこで、実際「なぜDXが進んでいないのか」を3つに整理する。
①経営陣と現場の熱感ギャップ
経営陣が危機感を感じ全社のDX推進に熱心である一方、現場がその意義をなかなか感じることができてない。具体的には、経営陣が販管費削減や業務効率化を狙ってDXを導入したとしても、現場メンバーにはその目的や意義がなかなか伝わらず、ソリューションそのものが素晴らしくとも、形骸化してしまう。これは両者の見ている指標が異なっていることが起因している。
つまり経営陣はPLの営業利益への対策でDXを導入しているが、肝心の推進する現場メンバーは、PLにはほぼ関与しないため、経営陣が実行指示してもなかなか使えないケースが多々発生しているのだ。こうなると、DXを導入しても「成果」が出ない。
②全社のDX推進を束ねられる人材の不足
次に組織・人の問題である。多くの会社は上記の通り経営陣が導入の意思決定をするが、残念なことに、全社レベルでDXを推し進められる体制や人材がこの業界のほとんどの企業で存在しない。住宅・不動産業界では中堅サイズの企業でもIT部門そのものが存在しない企業が大多数で、知見を持ち合わせていないことが非常に多い。
このような課題があったとしても、デジタル人材の獲得のアクションが取れている企業が少なく、さらにこの業界にそのような求職者が集まっている現状にもない。結論として誰も進められる人がいないというのが大きな課題になっている。
③スモールスタート
上記2点の掛け合わせにより、失敗する企業が陥りがちなアクションとして「スモールスタート」、もしくは「 何もやらない」ということが挙げられる。経営陣が「DX化を進めたほうがいい気がする」と思う一方で、現場メンバーのリテラシーや熱感が上がらず、結果として新しいサービスの導入は進まず“既存のやり方で進める”形となり、半年後も同じ状況……。これが実情なのである。
住宅・不動産企業のDXにおける最新動向
そんな中でも業界のDXがどこまで進んできているかについて2つの観点から解説する。①大手企業による積極的なデジタル投資
業界内大手企業は潤沢な資本力を活かして最新の技術に積極的投資をしていく動きを加速させている。例えば、土地の仕入れについてはAIの活用を進めている。今まで人海戦術で膨大な土地の情報を集め、極めて属人的・感覚的な判断基準の中で仕入れ有無の意思決定をしていた。
これにクローリングとAIを活用することで、インターネット上から自動で情報を取得し、仕入れるべき土地か否かや、仕入れ値・販売値の予測まで明らかにしようという動きが各社で進んでいる。
また、メタバース空間を活用したUX創出、5G技術の進展によるロボット遠隔操作でのリモート施工、3Dプリンターを活用した住宅建築なども実現されつつある。
②中小企業によるSaaS活用
中小企業においては新しい技術に投資する余力がないケースが多いため、SaaS系のサービスを中心に浸透が始まっている。SaaS事業者がこの巨大な市場規模を有するアナログマーケットを見逃すわけもなく、一般社団法人不動産テック協会が2022年8月に発表した不動産テックカオスマップには430のサービスが名を連ねた。
エリア分散型のビジネスである住宅・不動産業界においては「〇〇県A社で出た成功事例を××県B社がそのまま真似をする」という事例ベースの浸透が非常に多くなっている。そのため、早期に業界内で好事例を創出したSaaSサービスを中心に導入が進んでいる傾向にある。
出典:PR TIMES 一般社団法人不動産テック協会のプレスリリース
全体としての関心が高い領域は売上に直結しやすいマーケティング系やセールス系だ。加えて、原価高騰や人材不足の影響を受けて施工の生産性を改善するツールへの関心が高まっている。
IoTやVR/AR、電子契約などについては、まだまだ全体的に「本当にいいのか分からない」と様子を見ている企業が多いが、事例の蓄積によって次第に浸透が進んでいくであろう。
レガシー業界へのDX浸透に向けて
業界の構造やDXの現状、最新動向について触れてきたが、やはり住宅・不動産業界全体としてのDX推進を進めるためにはまだまだ多くの課題が存在する。こういった課題を個社単位ではなく業界が一丸となって解決していく必要があるであろう。我々はコンサルティング会社として、下記の3点の取り組みを通じて、業界へのDX浸透を図っている。
① 業界大手企業への最新DX構想&実証支援
② 業界中小企業へのDXソリューションの現場落とし込み支援
③ 住宅・不動産テック企業への業界開拓支援
DXを通じて負を解消したい住宅・不動産企業、その企業への導入を目指す不動産テック企業はぜひ当社までご相談いただければ幸いである(問い合わせフォームはこちら)。
これまで、弊社は2本の記事を通じて連載形式で「住宅・不動産業界におけるDXの現状とこれから」を解説してきた。本記事が住宅・不動産×テクノロジーでのコラボレーションを目指す企業様のご参考になれば幸いである。
<著者プロフィール>
篠原健太
株式会社リブ・コンサルティング
住宅・不動産インダストリーグループ マーケット攻略チーム マネージャー
住宅・不動産業界を中心に業種・エリア・規模問わず、様々な企業へのコンサルティングを実施。マーケティングに強みを持ち、ITツールを活用した業績改善経験も豊富。住宅・不動産業界周辺プレイヤーに対する業界開拓支援も実施。クライアントネットワークや外部アライアンスなども活用し、アナログ業界のDXの促進に広く従事している。