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人事制度を変えても組織は活性化しない? 鍵はコア人材の発掘とプロジェクト創出

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「社員に自律的に動いて欲しい」

これは、現代の経営者の多くが頭を悩ませる問題です。

社員の一人ひとりが自律し、さらに社員同士のコラボレーションが起きてこそ、組織が活性化します。この自律的な社員を多く生み出すために多くの経営者が、様々な試行錯誤をしております。

「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUの代表取締役・黒澤伶氏に、「組織活性化の真髄」についての考察をご寄稿いただきました。

真の組織活性化の状態とは

VUCA(Volatility/不安定・Uncertainty/不確実・Complexity/複雑・Ambiguity/曖昧性)という言葉が象徴するように、変化が激しい昨今。

組織が社員に対して求めるのは従順さや勤勉さではなく、主体性や自律性、そして協働と共創ではないだろうか。

目まぐるしく変化する環境の中で、従業員が主体性と自律性を発揮し、社内外の人々と協働し、価値を共創し続ける……。そんな組織が真に活性化している状態をいま多くの企業が目指している。

今回は「どのようにすれば組織が真に活性化するのか」というテーマで考察していきたい。

まず、組織が活性化されている状態とはどんな状態を指すのだろうか。私は5つの条件があると考える。

①一人ひとりが自律(しようと)している状態
②お互いが協働・共創(しようと)している状態
③チームとして同じ目的(理念・ビジョン・課題など)を信じている
④一人ひとりが自由に伸び伸びと発想し、チームとして着実な実行ができている
⑤トップが「人の成長=組織の成長」と確信している

上記の積み重ねにより、「組織全体が質的にも量的にも前進しているような状態」を指す。

このような組織になるためには、やはり抑えておくべき点がある。

組織活性化の真髄と落とし穴

ここからは、ITSUDATSU社が考える独自の組織活性化方法についてお伝えしたい。

当たり前だが「組織は人の集合体」である。したがって、個の活性化から始めなければ、組織の本質的活性化はない。一人ひとりの個人が活性化せずして、組織が活性化することはあり得ない。

つまり、組織を活性化する最短の近道は一人ひとりの個人を活性化することが出発点と考えている。さらに、組織が本質的に活性化することで、「組織の文化」そのものが自律する。それにより、その文化に触れた人が自然と伸びていく。

よって、「個の活性化」→「組織の活性化」→ 「組織文化の活性化」→「 個の活性化」

この順番が、我々が考える組織活性化の大事なサイクルである。

しかし、組織活性化のための方策として、よくありがちなのが「カタチ」から入るものだ。つまり、組織における仕組みや制度を変えることで、外側から組織を活性化しようというもの。

例えば、“人事制度の変更”、“人事システム”の導入、“リモートワーク”や“フルフレックス制度”の導入などが挙げられる。

「従業員を満足させるための賃金制度を構築しなければ」
「やはり今は、MBOではなくOKRを取り入れるべきだろうか」
「職能等級制度がいいのか、それとも役割等級制度がいいのだろうか」

上記のように、外側の仕組みから変えようとすることが多い。確かに、こうした取り組みによって組織のエンゲージメントツールが広がり、組織課題・経営課題に対して人事的打ち手が簡易化されるようになった。

そのため、仕組みや制度という枠組みから組織を活性化させようとする経営者や人事の気持ちはよくわかる。

しかし、残念ながら、枠組みなどのカタチから人を動かすことは困難である。大切なのは、その枠組みに「人の心がついていけるか」だ。

カタチだけを変えても、人の心がついていかなければすべて絵に描いた餅となるか、もしくはそれ以上のマイナスが起こり得る。

そもそも、その枠組みによって「動かされている」社員は、自律的である状態とは言い難い。仕組みや制度自体が社員を「コントロール」しようとするのは、実は社員の「自律」を遠ざけているという矛盾にぜひ気づいていただきたい。

自律とは、仕組みや制度から会社がさせるものではなく、一人ひとりの意志でしか行えないもの。大事なのは「カタチから人を動かす」のではなく、「個人が自分の想いに基づいてカタチを創り出していく」のが自然な流れである。

社員の活性化を促すときのポイント

社員の活性化を促す際に問題となるのが「どの個人から先に活性化させるか」である。

ここで大事なのが、やはり「自律性」という観点である。組織内の人材を自律性の観点から、「①自然型」「②可燃型」「③不燃型」の人材ポートフォリオを作成することをおすすめする。

①自然型
すでに自らビジョンをもち、具体的な目標に落とし込み、主体的に行動している自律性が高い層

②可燃型
ビジョンはまだ明確ではないが、少しのきっかけ(サポート)で自律性が開花する可能性が高い層

③不燃型
依存気質になっており、手厚いサポートをしたとしても変化する可能性が低い層

この3つで組織の人材を見渡した際に、①自然型と②可燃型にターゲットを絞る必要がある。

これまでの旧態依然とした日本型教育では平等性を意識し、足並みを揃え、さらには下位層の人材を平均点に補うための育成が多かった。

しかし、これから大事な組織戦略は「タレントの人材をさらに伸ばす」というターゲット戦略が必要になる。つまり「人材育成の優先順位」を明確に決めるということだ。

このあえて経営投資する人材を明確に絞ることが、結果的に多くの人材に影響を与えることができ、人材の成長につながる。

上記のように、改善や改革などをはじめとした組織活性は、「人の意志」が全て起点になる。

中小企業であったとしても、様々な困難にも果敢に立ち向かい、我が社を変えて自分の信じる未来を本気で創造していきたい、と思っている人は必ず一人はいる。

まずはそのような自律性の高い一人から始める。そして、少しずつ可燃型の人材を戦略的に巻き込み、連携をする。そうすれば、このスモールスタートから組織にも大きなうねりを引き起こすことができる。

意志のない規模の大きさは意味がなく、意志のあるスモールスタートが結果として大きな波を起こすのだ。

組織活性化の3つのステップ

ここからは上記を踏まえ、具体的な組織活性化の3つのステップについてご紹介したい。

①組織の要となるコアな人材を選定する

組織が着実に成長していくためには、コアとなる軸が必要になる。ミッション・ビジョン・バリューはコアとなる軸としてもちろん重要だが、それよりもさらに重要なものがある。

それが「コアとなるべき人材」である。このコアとなるべき人材を弊社では「要(かなめ)」と呼んでいる。実は、この要人材は組織上の役職や立場とは関係ない。

我々は「自律性」の観点で要人材の選定を行っている。

  • 自分の願い・想いを自分で理解している

  • 自らの意志に基づいて行動に移している

  • 必要なだけその行動を継続させている

  • 自らの望む結果(成果・現実)を周囲との相互作用を通して創り出すことができる

上記をクリアした自律性の高い人材は意識的に、もしくは無意識的に自らの願いやビジョンをもっており、内発的エネルギーが非常に高いことが多い。

内発的エネルギーが高いということは「心にゆとりのある人」と捉えることもできる。この「心のゆとり」が「覚悟」に直結する。

「自社の成長やミッションを果たすことに覚悟を決めている人のする仕事」と「自分の意思が定まらず、与えられた業務のみをやろうとする人の仕事」とでは、成果が大きく変わる。まずはこういった組織のコアとなるべき人材を中心軸に据えるのが組織活性の一丁目一番地になる。

「うちの会社にはそんな人材はいないです」という経営者の声もよく聞くが、どんな組織にも必ず一人は要人材は存在する。存在しないのではなく、見えてこない(見ようとしていない)のが課題である。

なぜなら、「自律性」は能力やスキル、業績成果といったわかりやすいものではないからだ。そのため、自律性の高い人材が一般的に言われている「優秀な人」であるとは限らない。

優秀な人は組織の暗黙のルールを身につけ、そのオペレーションを回している場合が多い。むしろ変革や変化を阻害する可能性もある。

もしかしたら、新入社員の中にもいるかもしれないし、これまでスポットライトがなかなか当たらなかった人かもしれない。この「意外性」が組織に大きな変化をもたらすのだ。

これまで、「ただの変わった人」「組織不適応」などと思っていた人材が実は変革の主役になる事例はこれまで多くあった。

したがって、まずは「見つけよう」とする姿勢が大事である。ただ、これまでの一般的な概念で要人材を探そうとしてもうまくいかないことが多い。そのため、今は新たな人材発掘へのパラダイムが問われている。

②要人材同士の「場」を創る

次のステップは「組織の最重要課題」について話し合う場を創ることだ。ここで大事なのは、「要人材同士」の一歩踏み込んだテーマで対話をすること。

具体的には、内発的エネルギーの高い要人材同士が、より良い仕事を実現するために、より良い自社にするために語り合うことが重要だ。

ここで言う「一歩踏み込んだテーマでの対話」とは、以下のような対話を指す。

  • 我々の役割・使命・価値」を本質的に探究し続けを探究し合う

  • それを一歩ずつ実践につなげようとする

  • 無理に答えをまとめようとはしない

  • 心に淀みのない確信に基づいた直観を大切にする

無理にネクストアクションやTO DOをまとめようとしない条件のもとで、それでも自然に発生する直観的答え(=澱みない「こうしよう!」)は明らかに組織の質を高める。同時に、その実践を通じて組織の次元が高まる。

ここで重要なのは「根拠のない確信」である。「根拠を積み上げた上で発生する確信」は、発想としては弱い。しかし、「根拠のない確信」は根拠が顕在化されていないだけで、非常に本質をついた重要なものである可能性が高い。

一見、突拍子もないような発想でも、腹落ちし納得したものであれば、「なぜ、この発想が出たのだろう?」ということ自体を要人材同士で探究し合うことが大切になる。

本来は上記のような「対話」が、日常業務におけるミーティングで行われるのが理想である。しかし、ビジネスの現場だと思考と解釈、評価するモードになり、無理に発想をジャッジしてしまい、大事な発想が捨てられてしまうことが多いため実現可能性は低い。

そのため、まずは通常業務から外れた場所で始めると、結果的に成果が早く出やすい。

例えば、研修として始めても良いし、勉強会やオフサイトミーティングとしても良いため、月に1回まずはコアメンバー(要人材の集まり)のみで、語り合いの場を創ることをおすすめする。その後、その影響を徐々に「自然な流れによって」全社に広げていくことが理想的だ。

③プロジェクト化し「飛び火」させる

②までのステップが一つの準備になり、ここからが組織全体に影響を及ぼしていくステップになる。

ステップ③は、コアメンバー(要人材)の集まる対話の場において自然発生した「確信したスッキリ発想」を、コアメンバー(要人材)が各々なりに実践するという内容だ。

その実践の「姿」と、そこで起こる「変化」(たとえ最初はわずかだとしても)が、組織へ大きく影響を及ぼし、この影響に感化・共振された人材が発生する。それが「次の要人材」になる。

必要に応じて「次の要人材」たちに、コアメンバーの場に参加してもらったり、もしくは、一人ひとりのコアメンバー(要人材)を中心とした場を組織内に複数新たに創ったりすれば、少しずつ組織全体に変化が現れるだろう。

場合によっては、経営陣からの後押しとして、具体的な目的をもたせた「プロジェクト」としてコアメンバー(要人材)を中心とした場を継続させることで、創造性が高まる可能性がある。

つまり、会話段階のシナジーから実践段階のシナジーへと成長させるのが、このステップの主軸なのだ。

このように、最初の要人材をきっかけとした自然な「飛び火」を尊重することは重要である。
自然な「飛び火」から生まれるものは、その後の企業活動を新たなステージに導くことがあるからだ。

意図したプロジェクトよりも「飛び火によるプロジェクト」こそ、その組織ならではのビジョンやミッションに基かれた真の創造性を発揮するものである。

人・組織の活性化には「自分の意志で動くこと」が大切

以上、組織活性の自然な流れを考察してきたが、まとめると下記になる。

  • 内発的エネルギーの高い要人材同士が、より良い仕事を実現するために対話をする

  • その語り合いと実践の中で自然に想いを紡ぎながら、自社の本質的役割や方向性について定めていく。(無理に定めるのではなく、共感しながら定めていく。)

  • 上記を最初はスモールスタートで始める。コアメンバー(要人材)のみで始め、継続し、徐々に輪を広げていく。

  • 必要に応じて、プロジェクト化する(=具体的目的をもつチームを発足させる)。さらに組織内にいくつものプロジェクトを生み出していく。

  • 以上の流れの途上で引き起こされる「飛び火」を大切にする。自然発生的に「想い」や「活動」が波及するに任せる。

つまり「組織の活性化」を全体の統制の中で意図的に起こすことは非常に困難であり、そうすべき類のものではない。組織を行き過ぎた統制・管理することで活性化しようと思っても、それが「活性化」と真逆の展開となることは多い。

なぜなら「人とは本来、自分の思う通りに動きたいもの」であるからだ。行き過ぎた統制・管理は不必要な阻害要因を創り出したり、不必要な疲弊・混乱・派閥を招き、要人材から離職が生まれてしまいかねない。

「自分の意志で動く」ことを通じて、人も組織も本質的に活性化するような組織が一社でも増えることを願っている。
<著者プロフィール>

黒澤伶
株式会社ITSUDATSU
代表取締役

早稲田大学人間科学部卒。デル株式会社(現:デル・テクノロジーズ株式会社)、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)、コーチングファーム取締役を経て、株式会社ITSUDATSUを創業。「ITSUDATSU(非直線的な現象)を再現性の高い世の中にする」という大義の下、要人材を起点とした独自の組織活性方法で累計300以上のプロジェクトを推進。現在、複数社の取締役CHRO(非常勤)を歴任。

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