ジャパニーズウイスキーの人気の理由や、ジャパニーズウイスキーの課題について、株式会社リカーマウンテン 代表取締役社長の伊藤啓氏にご寄稿いただきました。
現在私は酒類の卸、小売の代表とともにビール、ウイスキーの製造の代表に従事しています。それ以前はスピリッツバイヤー業でしたが、この10年で需要が驚くほどに変わりました。
2010年と比べて、現在はウイスキーの市場規模(出荷ベース)が約150%に成長しており、さまざまなシングルモルトを顧客が認知しています。
また、全国各地でウイスキーイベントが開催され、非常に熱を持ったファンに支えられて市場が活気づいています。
ただ、いわゆる「ジャパニーズウイスキー」ブームというものを感じるようになったのはここ5年ほどでです。2019年にはイチローズモルトカードシリーズ54本が約1億円で落札され、2020年には山崎55年が香港のオークションで8,500万で落札され、大きな話題となりました。
一方で、投機的な商品需要の高まりが市場の品薄をけん引しているのは否めません。
コロナ以前、インバウンド需要にも支えられて伸びてきたジャパニーズウイスキーは、日本はもちろん国外でも躍進しています。
ジャパニーズウイスキーの輸出額
2021年の輸出額種類輸出額は1,147億円(前年比161%)で、この10年で最高額を更新しています。うちウイスキーは461億円(前年比170%)と酒類の中で最高額となっており、2位の清酒401億を超え、日本の産業をけん引する存在となっています。
どの国で売れているのか?
2021年の輸出国1位は中国で170億(214%)、2位のアメリカでは104億、フランスでは46億、オランダでは30億となっています。どの国の輸出額も前年に比べて大きく伸びていますが、特に中国は2020年(79億)より飛躍的に伸びています。
私自身、輸出の仕事を行っているのですが、その中で中国からの「ウイスキーを販売できるか」という問い合わせはもちろんOEMの依頼や「蒸溜所を建設したい」「蒸溜所を販売してほしい」といった熱の高い問い合わせが非常に多く、中国の伸びを肌で感じているところです。
海外で焼酎がウイスキーとして売られている?
一般的に輸出のビジネスとなるとジャパニーズウイスキーですが、漢字表記のものの中身が「ジャパニーズ」とは限りません。もともと、日本では海外からのバルクウイスキー(スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアン)などを輸入して日本の環境で熟成、ブレンド、販売するといった商品が多数存在します。このこと自体はあまり知られていない情報です。
現在、ウイスキーのマーケットでは大手メーカー・クラフトのウイスキーの需要が高く、プレミアム価格で売られることが一般的となっており、この1年で日本市場における価格が大きく変わってしまいました。
そんな中でも、ビジネス的な観点で単に海外の原酒を輸入して加水しボトリング、メイドインジャパンを冠したウイスキーが多数存在しています。私自身、そういったウイスキーを海外で実際にたくさん目にしてきました。
最近ではTwitterで話題となり、業界人がやや危惧しているところです。
バルクを輸入してボトリングすること自体に関して、特に法律があるわけではありませんが、海外のマーケットでいわゆる「誤認」を招いていることは否めません。
また、アメリカでは焼酎をウイスキーとして売ることが法的に問題ないので、麦焼酎、米焼酎、泡盛がウイスキーとして売られているケースがたくさんあります。
そこで、新たに自主基準が設けられる動きが生まれました。
ジャパニーズウイスキーの基準
日本洋酒酒造組合が2021年2月12日に発表した「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」にて、ジャパニーズウイスキーを名乗るには日本国内で採水された水を使い、製造・貯蔵・瓶詰は日本国内の蒸留所で行うこと……という基準が設けられました。これにより、バルクウイスキーを使ったものはジャパニーズウイスキーには該当せず、なおかつ第5条2項に記載がある通り「日本を想起させる人名、日本国内の都市名、地域名、名勝地名、山岳名、河川名などの地名、国旗、元号など使用できない」ことになっています。
しかし、これらは自主基準であるため、法規制の成立が必要と考えています。現に今年、私は渡航先の海外で見たことのないジャパニーズウイスキーを目にしました。まだまだ自主基準を満たしていないジャパニーズウイスキーが多く存在していることは確かです。
ジャパニーズウイスキーが伸びた理由
10年前の2012年時点で日本のウイスキー製造免許取得場は9か所でしたが、現在は120か所を超えています(多くて追い切れていません)。多数のジャパニーズウイスキー蒸溜所が建設され、さらなる産業として飛躍することが非常に楽しみです。もともと、ウイスキービジネスは1983年以降急激に冷え込んでいました。しかし、物事の流行りには移り変わりがあり、酒類もそうです。
現在はいわゆる「ウイスキーブーム」が来ており、ピーク期の半分の出荷量を超えるところまで戻ってきました。
要因はハイボールブーム、竹鶴政孝をモデルにしたドラマがきっかけで飲用シーンが増えたことや、ジャパニーズウイスキーが世界的なコンペティションで最高賞を獲得したことでしょう。また元来の生産量の少なさで希少価値、投機的な購入と相まってこの10年でウイスキーは伸びてきました。
今後のジャパニーズウイスキーの課題
ただここにきて急速な円安、原料、光熱費の高騰が続いています。世界的な原料事情による影響も非常に大きく、モルトや樽の需要は高止まりです。もちろんウイスキーが売れているのは日本だけではないので、その現状も十分わかります。ウイスキーは熟成過程が必要なので、キャッシュフローが非常に悪いビジネスです。夢やロマンがいっぱいで、経年変化でおいしくなるお酒は非常にたのしいものですが、事業継続という側面においては非常に大変です。
今後は生産者、小売、消費者を巻き込んで熱の冷めないウイスキー文化を作るとともに、新しい施策を講じてウイスキーを盛り上げていきたいと思います。
<著者プロフィール>
伊藤啓
株式会社リカーマウンテン 代表取締役社長
長浜浪漫ビール株式会社 代表取締役
1977年12月30日福岡生まれ。2000年4月岡山県で小売業に入社し酒類販売に従事、2004年リカーマウンテン入社し店舗勤務、エリア統括を経て焼酎バイヤー、スピリッツバイヤーと経験し現職。