「追跡!エグゼクティブ採用のいま&これから」は代表取締役社長・CEOの井上和幸氏に、いま活況のエグゼクティブ採用について、日々の現場で起きていることから幹部人材市場での大きなトレンドまでを解説いただく連載です。
第一回では、エグゼクティブ転職に臨むにあたり重要な「(1)転職動機、(2)現職(前職)の退職理由、(3)興味・志望の度合いや意向の中身」という3つの企業側チェックポイントについて解説いただきました。これは採用する側、採用される側の双方に言える重要な確認・すり合わせポイントです。
上記ポイントをどのように確認(企業側)・伝達(転職者側)していけば良いのか。第二回は、採用確率を上げるための3つの対策について具体的に解説いただきます。
対策①:最初にすべきは、企業側が「何を求めているか」を正しく、精緻に理解すること
以前から長らく講演や取材、個別のコンサルティングの場でお話ししたり、連載コラムで書いたりしてきていることなのですが、転職活動されているエグゼクティブのみなさんに対して常々お話ししているのは「転職活動=自己アピール」と勘違いしていませんか?ということです。私が転職活動をされている多くのエグゼクティブを見ていると、多くの方は転職活動として次の2つのことを行います。
- 自分はどのような職務経験、スキル、専門性を持つのかの自己アピール
- 応募先企業に対してのラブコール(どのようなところに魅力を感じているのか)
で、この2つが悪いということではないのですが、ここで対策①としてお伝えしたいのは、応募者側が転職活動において具体的な案件への応募を開始する際に、「最初にすべきは、相手企業が“何を求めているか”を正しく、精緻に把握・理解すること」だということです。
これはポテンシャル採用される若手や中堅でも同様ではありますが、即戦力として、また組織や事業を牽引するマネジメントとして採用されるエグゼクティブにおいては最低限の必要条件です。
これをなくして先の2点は本来正しく述べられようがないのですが、かなり多くのエグゼクティブの方々が、<球を見ずに、まず大きくバットを振る>というアクションをされがちです。
相手の採用ニーズを把握すること。これは「CFOを求めている」「営業部長を求めている」という職種ポジションレベルだけでのニーズ確認止まりではダメです。
どのような企業で、何を目指していて、いまどのような課題があるのか。当該ポジションの人に、何をどのようにして欲しいと思っているのか。
どのようなレベルの成果を期待しているのか―――というような、募集背景・ポジションの具体的な役割や期待値・それに伴う附帯要件などについて、まずしっかりと情報収集することです。
具体的にはいわゆる求人情報に記載されている<仕事内容><求める能力・スキル・経験の必須要件、歓迎要件><求める人物像>などの内容や、企業自体の企業情報、担当エージェントからの説明、補足情報などです。
基本的なことですが、当該企業について調べてみてサイト上にあるその企業に関する主な記事や情報などを見てみることも、当然、最低限の必須事項です。
採用企業側としては、こうした情報を応募者、あるいはその仲介者となるエージェントにしっかり提供できているか。面接のセットアップの段階で確認しておきたいところです。
対策②:相手企業が求めていることと、自分が兼ね備えているものを接合させ、具体的に表現する
応募者が、検討する案件に関する情報、企業情報を収集する。そのココロは、「相手企業が何を考え、何を目指し、何に困っているのか」について自分の腑に落とし理解することです。社長インタビューなどがあれば読んでみて、その考え方やこだわりに共鳴できそうなのか。またその企業に関するネガティブな書き込みが出てくることもあるでしょう。
それを「なんだ、ブラック企業なのかな」と単純に捉えるのも良いですが、そこからうかがい知れるその企業の課題(ネガティブ書き込みの大概は退職社員によるものですから、組織体制や雇用条件、あるいは組織マネジメント上の問題、そもそもは採用のミスマッチなどの課題が垣間見えることが多いでしょう)を類推し、自分であればそれに対して何ができそうかなどを考えてみることも大事です。
こうした作業を通じて、相手企業が求めていることをしっかり把握し、それに対して自分が兼ね備えているものをしっかり接合させ、具体的に表現する。
理想を言えば、職務経歴書は、この段階でアップデートされるべきなのです。応募者のみなさんには、もちろん事前に作成してあるものに対してでも良いので、ぜひ、ここまでを受けて、
- 応募先企業、案件が求めていることに対して、自分が満たしている要件はどれくらいあるか(何と何と何か)?
- 満たす要件、合致経験についてしっかり職歴書上に記載されているか?
合致経験には、「全く同じ職務経験」=同一職務経験と、「全く同じではないが、業務のスタイルや使う専門知識やスキルが重なる職務経験」=類似職務経験の2つがあります。
もちろん同一職務経験が多いことに越したことはありませんが、類似職務経験が多いことも非常に重要で、私が見るにこちらがご縁の決め手となっていることの方が多いように感じます。
ですから、ぜひ類似職務経験の発見と明確化、職歴書への記載、面接での表明をしっかり行っていただけますようお願いいたします。
ちなみに応募者のみなさんがこのステップまで検討作業を進めてきて、同一職務経験と類似職務経験を合わせた合致経験が(経験則的にですが)70%未満の案件は、基本的には諦めましょう。
いくら新たなチャレンジといっても、相応のキャリアを積んでこられたエグゼクティブのみなさんが、合致経験70%未満では新天地でパフォーマンスを上げるには相当の時間と努力を要することは間違いなく、お互いにとって即戦力マネジメント採用/転職における良縁とは成り難いですから。
採用企業側としては、応募者の職務経歴書から
- 同一職務経験のみならず、類似職務経験を見逃さないようにする
- 記述のされ方から、応募者の職務把握力、課題把握力・設定力、業務遂行力、思考力、行動力あたりの一式をしっかり類推する
対策③:実績は「自分自身がどう考え、行動し、出した成果か」の具体的な表現からレビュー
転職活動されているエグゼクティブのみなさんが合致経験などを職務経歴書に記載いただく際に気をつけていただきたいのが、ご実績について、社内評価を書くのではなく、ご自身がどう考え、行動し、出した成果なのかについて具体的に記述することです。社内評価とは、「売上達成率150%で、当該期間中のMVPを受賞しました」「**を提言し、その年の社長賞を獲得しました」というようなものです。
ご実績は素晴らしいのですが、ストレートに言ってこれらを応募先企業の社長や経営陣、人事部長が見て、「おお、凄いですね。ぜひ採用したい」とは言ってくれない(思わない)でしょう。
採用側の企業が評価するのは、「なぜ、売上150%達成できたのか」「なぜ**を提言できたのか」の、その背景にある応募者の考え方や行動の仕方などのプロセスの部分です。この部分での資質や考え方、行動の質と再現性に対してです。
ですからこの部分を「ファクト(事実)&ナンバー(数字)&ロジック(考え方)」に徹して記述いただくこと、面接でお話しいただくことが非常に重要で(形容詞で「すごく」とか「大いに」などと書かない・言わない)、これが応募者であるエグゼクティブ各位と当該応募先企業とのご縁の有無を大きく左右するのです。
勤め先企業から与えられ言われてやったこと、ではなく、応募者自身が具体的にどのような考え方と行動を取れる人なのか。それは再現性があるか。それは採用側企業にとって、ぜひやって欲しいこと、持ち込んで欲しいものか。
応募者のみなさんには、ここを見定められているということを、改めてしっかり認識の上で、ここまでの3ステップをご準備の上で、応募、選考に臨んでください。
採用企業側には、この「ファクト&ナンバー&ロジック」をしっかりアウトプットできる人か。記述や話の各論に、具体性が一貫してあるか、話が目の前に浮かぶように生き生きとしたライブ感あるものかをしっかり見極めてください。
この点が両者でしっかり確認・すり合わせできれば、必ず良い縁を得られるはずです。
* * *
転職活動とは、「適切な顧客(=採用企業)」に「自分という商品」を「望ましい形(雇用形態・役割・職責・報酬)で購入(採用)してもらう」ことです。転職活動自体に、その人のビジネススタイルや遂行力、成果総出力が表れます。
転職活動をされている方には、ぜひ心して充分納得いく成果を得て欲しいと思います。エグゼクティブ採用をされている企業各社には、この観点からも、今回ご紹介した3ポイントを選考時にしっかりチェックいただければ幸いです。
<著者プロフィール>
井上和幸
株式会社 経営者JP
代表取締役社長・CEO
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より現・リクルートエグゼクティブエージェントに転職、マネージングディレクターに就任。2010年2月に株式会社 経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援など提供している。業界MVPを多数受賞。著書は『30代最後の転職を成功させる方法』他。「日本経済新聞」「プレジデント」「週刊ダイヤモンド」他メディア出演多数。