広告ではなくユーザーのシェアで広がる
——カウシェはどのような仕組みになっていますか?深谷:当社では人と人とが繋がり、コミュニケーションを取りながら買い物をする「シェア買い」を体験できるアプリ「カウシェ」を提供しています。
顧客は購入した商品の魅力や特徴などをSNSやカウシェのアプリでシェアし、そのシェアによって他のユーザーがその商品に興味をもって購入すれば、ともにお得な「シェア買い価格」で商品を手に入れることができます。
——つまり一人一人のお客様の力によって、これまでとは違う形で商品の情報を拡散できたり、ある種の広告効果が期待できたりするということですね。
深谷:通常のECの広告や、企業に広告費をもらっているインフルエンサーの投稿とは違い、一般の方の個人の発信やソーシャルなつながりなど、SNSによって商品が広がっていくことが大きな特徴です。
日本と中国のソーシャルコマースの広がりの違い
——カウシェは中国のソーシャルコマースも参考にしていると聞いたのですが、どのような経緯でサービスは始まったのでしょうか?深谷:当社は2020年4月に創業しました。当時、東京で初めて緊急事態宣言が発令され、レストランや居酒屋、ホテルなどが休業を余儀なくされていた頃です。販路を失ってしまった生産者や販売業者は食材の生産を止めることができず、さばききれない在庫を抱えていました。
「こういった課題に向き合って、私たちに何かできることはないか」と考えました。カウシェの代表取締役CEOの門奈剣平は15歳まで中国に住んでいて、コロナ直前まで別の企業の中国代表として、上海に在住していたので中国内の諸事情に精通していました。中国ではさまざまなECの形が存在している一方で、日本では効率化を重視した大手ECばかり。
しかし、コロナ禍によって、販路を失った生産者や販売業者の方々が多くの在庫を抱えている実情を目の当たりにしたときに「ECはもっと進化できるかもしれない」という手ごたえを感じました。それが現在サービスとして提供している「新しい買い物体験」に繋がっています。
——日本のソーシャルコマースの広がりは、中国に比べると遅れていると思いますがなぜだと思いますか?
深谷:日本と中国の人口差が約10倍もあることが理由の1つと考えています。ソーシャルECは、人と人とが繋がってシェアするものなので、ネットワークエフェクト(利用者が増えるほど、商品・サービスの価値が高まること)が生まれやすい傾向があります。そのため、人口の差がソーシャルECの広がりへダイレクトに影響しているのでしょう。
近年は、「カウシェ」内でも、北海道にいる人と沖縄にいる人がシェアするといった、遠方にいる人同士が繋がる体験が増えています。サービスを利用する人数が多いほどネットワークエフェクトが広がり、強固なものになるでしょう。
——日中間での決済環境の違いは関係していますか?
深谷:中国の場合、クレジットカード決済を挟まず、いきなり現金からQRコード決済へシフトしています。一方、日本の場合は現金からクレジットカード決済、そしてQRコード決済へと段階を踏みながら移行してきています。
キャッシュレス社会では、顧客自身がスマートフォンを財布として認識するようになります。スマートフォンと財布、アプリが一体化されたものとして認識されるのが中国の方が早かったことも、一因と言えるかもしれません。
スマートフォンの普及によって、中国ではSNSやコミュニケーションサービスが日常的になりました。近年ではキャッシュレス化が進み、スマートフォンで支払いができるようになりました。ソーシャルECにとって「スマートフォン」「SNS」「キャッシュレス」が三位一体になることが必要条件です。
日常的な買い物こそソーシャルEC
——日本においてソーシャルECにはどのような商品が向いているのでしょうか?深谷:シェアというアクションが入ってくるので、「口コミしやすい商品」「おすすめしたくなるような商品」が向いています。例えば、カウシェではメイン利用者が主婦なので、日常的に使う炭酸水やお米などが売れています。
——口コミを書いてもらいやすい商品はありますか?
深谷:食べ物はシェアしやすく、誰もが購入するものなので口コミを書いてもらいやすいでしょう。 また、日用品も使ってみた感想を投稿しやすいと思います。そのほか、まだ使ったことがない商品に対して、「誰かと一緒に買いたい」と期待を込めて口コミをするケースもあります。
——日常的な商品が広がる現象は面白いですね。
深谷:シェア買いの特徴として「お得に買えること」が主婦層の気持ちに刺さっているのだと思っています。また、ECで買い物をするメリットとして、お米といった重いものを運ばずに済むという理由から日用品や消耗品の購入が多いのではないかと考えています。
——取り扱っているのは主婦向けの商品が多いのですか?
深谷:確かに男女比は3:7で女性が多く、またメインのお客様は主婦です。しかし、ビールを買っても、それを実際に飲むのはパートナーという「購入者=主消費者でない」場合もあります。、そのため、さまざまなユーザーの需要に合わせた商品を取り揃えています。
——ソーシャルECは特別なものを買いに行くよりも、日常的に使えるものを買いに行く場所になってるんですね。
深谷:いろいろな用途がありますが、LINEのオープンチャットを開くのがルーティーンになっていて、通勤時間や子どもが寝た後に「何かいいものがないか」「誰かがシェアをしているから買ってみよう」と気に留める人が増えてきています。ソーシャルECは、ウィンドウショッピングをする感覚に近づいていると感じています。
——スーパーよりも安く買えることだけではなく、人と繋がる楽しさに魅力を感じている人がいるということですか?
深谷:例えば、ある主婦が「いいものを安く買った」という話を家族にしても、あまり共感を得られないかもしれませんが、同じ主婦の方に話せばシンパシーを感じてもらえる可能性があります。そのようなな繋がりを、SNSを通じて求めている人が多いのではないかと推測しています。
——逆にソーシャルECに向いていない商品はありますか?
深谷:ニッチな商品はシェア買い成功のハードルが高くなります。何かに特化しているものや、特定の人にしか需要がないものはシェアと言うスタイルにマッチしにくく、口コミが少なくなるかもしれません。
どんなSNSで広がるのか
——カウシェの商品はどのようなSNSでシェアされることが多いのでしょうか?深谷:SNS利用者の約6割はLINEでシェアしており、その次にInstagram、それと並ぶようにTwitterでシェアすることが多いようです。LINEの場合はクローズドなやりとりだけでなく、オープンチャットでのやりとりもあります。
——利用するSNSによって顧客の属性は異なりますか?
深谷:オープンチャットを除いたLINEは知り合いや友だち・家族など、リアルに繋がっている人が多く、Twitterはフォロワーに対する情報発信、Instagramはインスタ映えするような商品を24時間で消えるストーリー機能を使ってシェアするなど、活用するSNSによって使い方が異なると思います。
日本のソーシャルECの可能性
——日本のソーシャルECは今後どのように広がっていくと思いますか?深谷:これまでのECは効率化に特化していましたが、実際の買い物は家族や友達と一緒だったり、商品を手に取って選んだり、店員とコミュニケーションをとったりしながら楽しむものだと思います。
カウシェではリアルな買い物体験とオンラインの無機質な買い物体験のギャップを埋めることがソーシャルECだと考えています。マーケティングが分からない事業者であっても、素晴らしい商品を作っている人は多いので、SNSで情報を発信することで売上がどんどん増えていくでしょう。そんな「顧客も事業者も楽しくなる新しい買い物体験」に発展することを期待しています。
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<著者プロフィール>
深谷哲史
株式会社カウシェ
取締役CPO
1991年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。2014年にDeNAに新卒入社。マンガボックスの収益化に貢献。2018年6月にメルカリに入社、iOSテックリードとしてメルペイの立ち上げを行う。2020年7月よりカウシェに参画。これまでのPM経験やテックリードとしての知見を活かし、プロダクト戦略を担当。