今回から始まる連載では、代表取締役社長・CEOの井上和幸氏に、いま活況のエグゼクティブ採用について、日々の現場で起きていることから幹部人材市場での大きなトレンドまでを解説していただきます。
第一回は「今後の幹部・ミドル転職市場がどうなっていくのか」についてご寄稿いただきました。
幹部・ミドル転職はチャンス!
コロナ禍の2年半を含めて、この5〜6年の幹部・ミドル層転職市場の広がりは、そこに身を置くものとしても目を見張るほどです。
もちろん、もともと若手〜中堅世代の転職市場に比べて絶対値としての規模は小さいわけですが、幾つかの市場データを見ると、この5年ほどで幹部・ミドルの転職市場はおおよそ倍増しています。
幹部・ミドル層転職市場の拡大理由・背景としては主に次の3つがあります。
①そもそも幹部・ミドル層の転職が時代背景的に広がっている
②コロナも相まっての事業変革の加速
③人口構造的な問題
まず①について、現在40代〜60代の人たちは、社会に出たときから若手〜中堅世代での転職がすでに一般的になっていた時代を生きてきており、転職そのものに対する抵抗感がありません。
その上の70代以上の人たちにとって、転職はどちらかというと非常事態的なものであり、後ろめたいものであったのに対して、現在40代〜60代の人たちの一定数は若手・中堅時代に1〜2回転職を経験しています。
そのため、自分たちがミドル世代となっても、転職は自分のキャリア形成の手段の一つとして積極的に捉えられています。
②については、DXを代表例に、あらゆる産業で事業変革への取り組みが待った無しの状態となっており、その動きの中で高度技術人材、事業変革人材、経営人材の需要が沸騰しています。
③については、既に生産年齢人口が減り始めている日本において、これまでのように新卒・第二新卒層にかなりの比重があった採用に限界がきており、幹部・ミドル層の活用、またシニア層に対しても、徐々にではありますが人材活用の期待値と間口が広がり始めています。
これらの理由・背景から、今後、中長期的に見渡しても幹部層・ミドル層の転職市場は拡大していくこと(拡大していかざるを得ないこと)がわかると思います。
幹部・ミドル転職はピンチ⁉
市場ニーズ的にはバラ色の幹部・ミドル転職市場。ところが、ことはそれだけではうまく運びません。
いま、日本の労働力市場全般について「数」の不足と「質」の不足とが同時並行で顕在化しています。これは幹部・ミドル層においても同様で、拡大する幹部・ミドル層をターゲットとした求人に対して「数」も「質」も充分に採用し切れないという企業の悲鳴が各所から聞こえてくる状況です。
それだけ企業が幹部・ミドル層を渇望しているのであれば、求職者にとってはパラダイス、引く手数多ということなのでしょうか?
これが不思議と、そうならないのです。幹部・ミドル層として期待されている高度技術人材、事業変革人材、経営人材については、各社が求める「絶対基準」が明確にでき上がっており、基準に満たない人は空席を埋めたい気持ちはあれど採用できないのです。
また、スタートアップを中心に、自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)へ強く共鳴している人であるか、自社のカルチャーにマッチする人なのかを厳しく問う企業も増えました。
私はこれは非常に良いことだと思っていますが、その分、経験・スキル・専門性の面で優秀な人でも採用しない(できない)ケースは増えています。このような理由から、求人難なのに採用されない「転職難民」がどんどん増えているのです。
また、これらの基準を企業側が妥協して採用した場合に群発しているのが、せっかく入社した企業をミスマッチにより短期で去らざるを得なくなる「短期離職」です。これも悲しいことに急増しています。
企業側は欲しい人材がなかなか採用できない。しかし、これからの局面に合致しない人材は採用を手控えるだけでなくリストラしなければならない。
一方、転職希望者は自分が望む企業になかなか採用されない。でも、満足できない企業には居続けたくない。
企業も個人も、それぞれの思惑で求人の一本釣り&リストラ、求職活動&退職の、「両利き」の雇用・就労をせざるを得ないような状況が強まっています。
ポスト・コロナに向けてマクロにもミクロにも「一定の新たな状態」に収れんされていくことにはなると思うのですが、少なくともここ2〜3年は混迷の雇用市場・転職市場が続くでしょう。
2022年は「大・人材難の時代」元年。エグゼクティブ転職は、こう動け!
前述の通り、今後エグゼクティブ転職市場は、足元の活況のみならず中長期的にも拡大していくと見込まれます。
現在、幹部・ミドル層の皆さん、また今後この層にエントリーしていくことになる、いま若手〜中堅世代にいらっしゃる皆さんにとっても、今後のチャンスは非常に大きいと言えるでしょう。
ただし、そのチャンスを得られる人、幹部・ミドル層人材市場の拡大成長の波に乗れる人は、このままでは限られた一握りの人になってしまいます。
では、どうすればよいのでしょう?今後の連載で具体的な話を様々な角度から取り上げていければと思いますが、まずは次のポイントに留意いただければと思います。
チェックポイントは3つ、
(1)転職動機
(2)現職(前職)の退職理由
(3)興味・志望の度合いや意向の中身
です。これらについて、下記の姿勢・視点・考え・想いを持てているかどうかで採用されるかどうかが決まると言っても過言ではありません。
(1)「自分が貢献し、成果を出せる場」を求めている。また、「成果に対して、しかるべき評価をしてほしい(年収や肩書きは、後からついてくるもの)」という姿勢がある。
(2)退職の理由がネガティブなものであった場合(多くの場合、ネガティブな事象で退職する)、外的要因ではなく「自分がこうできればよかったのですが」という気持ちと考えがある。
(3)応募先企業への具体的な興味、自分なりの仮説期待があり、それを明快に話せる。
この3点は、実は私たちが採用企業側に、応募者を採用するか否かの判断ポイントとしてアドバイスしている項目なのです。第2回では、このことについて詳しくご紹介します。
<著者プロフィール>
井上和幸
株式会社 経営者JP
代表取締役社長・CEO
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より現・リクルートエグゼクティブエージェントに転職、マネージングディレクターに就任。2010年2月に株式会社 経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援など提供している。業界MVPを多数受賞。著書は『30代最後の転職を成功させる方法』他。「日本経済新聞」「プレジデント」「週刊ダイヤモンド」他メディア出演多数。