カメラのセンサーを刷新し、トリプルカメラのどの画角でも秒間60回のAF/AE(オートフォーカス/オートエクスポージャー)が行えるほか、本格的なビデオカメラのように撮影できる「Videography Pro」にも対応しています。
デジカメライクな撮影体験
Xperiaは、19年に発売された「Xperia 1」投入時にコンセプトを大幅に見直し、「好きを極める人」をターゲット層に据えました。なかでも、ソニーの強みであるカメラには、デジタル一眼カメラ「α」のノウハウを投入。翌20年に発売された「Xperia 1 II」では、αのユーザーインターフェイス(UI)をスマホのUIに最適化した「Photography Pro」を導入しています。iPhoneをはじめとしたほとんどのスマホは、AIを活用し、自動でベストショットが撮れることを売りにしています。対するXperiaは、カメラ好きのニーズにこたえ、よりデジカメライクな撮影体験を特徴にしました。シャッター速度や露出、ISO感度などのパラメーターをデジカメのように細かく調整でき、自分好みの写真を高画質で撮れる機能で差別化を図っています。これを動画に応用したのが、冒頭で挙げたVideography Proです。
大多数のユーザーにとっては、自動で簡単に撮影でき、かつAIが画質まで最適化してくれるカメラの方が使い勝手がいいと言えるでしょう。一方で、以前からカメラを使いこんでいたユーザーには、それだと物足りないところがあります。ニッチではありますが、ターゲット層である「好きを極める人」にマッチする機能を搭載し続けたことで、市場でのシェアも徐々に復活。21年度上期にはAndroidでシェアトップに躍り出ました。その後は、シャープやサムスンに抜かれていますが、2社に対抗できるところまで盛り返したのも事実です。
本格的な映像を「配信」できる
一方で、カメラや動画だけでは、スマホの差別化は難しくなっているようにも見えます。スマホで重視される機能なだけに、どのメーカーも一定の注力をしているうえに、大型のセンサーの価格が落ちてきたため、ミッドレンジ以下の端末でも、それなりにキレイな写真を撮れるようになってきたからです。デジカメ好きに評価されるUIでも、それだけではハイエンドモデルとしての存在感を示しづらくなっていると言えるでしょう。こうしたなか、ソニーが注力しているのが「配信」の機能です。背景には、YouTubeやInstagram、TikTokなどの動画配信プラットフォームが大きく伸びていることが挙げられます。こうしたプラットフォームにスマホ1つで簡単に配信ができるよう、最新のXperiaにはさまざまな工夫が盛り込まれています。
例えば、先に挙げたVideography Proは生配信機能に対応しています。スマホで映像配信をする際には、プラットフォーム側が用意しているアプリを利用するのが一般的ですが、これだとスマホ側の機能を生かし切ることができません。Videography Proの場合、ビデオカメラの開発で培ったズームバーによる滑らかなズームができ、UIも分かりやすいのがメリット。より本格的な映像撮影を、生配信にも応用できるというわけです。
もう1つ対応しているのが、ゲームの配信です。こちらは、Xperia 1 IVやXperia 5 IVに搭載されている「ゲームエンハンサー」の機能の1つ。プレイしているゲームをそのままYouTubeに配信できるだけでなく、テキストを付加したり、タイトル画面を作成できたりと、多彩な機能が特徴。さらに、単体での配信だけでなく、PCでプレイしたゲームの中継を行うこともできます。
こうした機能をサポートするため、ソニーはXperia 1 IV専用の外付け機器の「Xperia Stream」を発売します。冷却ファンに加え、LANケーブルやHDMIケーブルの端子を備えた機器で、安定したゲーム配信を実現できるのが特徴です。ゲーミングに特化したスマホには、近い機能を備えた端末はありますが、デザインや機能が過剰なため、普段使いしづらいのが難点。その点では、外付けのアクセサリーとして発売した方が、汎用性が高いと言えます。
5Gが導入され、スマホの通信性能が飛躍的に高まるなか、動画配信のニーズはますます高まっています。ドコモやソフトバンクがコンシューマー向けに導入した5G SAでは、上りの通信速度も向上。エリアはまだまだ狭いですが、手軽に動画配信できる下地が整ってきました。
一方でソニーは、テレビなどの放送機器も手掛けており、撮影機材や映像配信でのノウハウは蓄積しています。こうした知見の一部をコンシューマー向けに落とし込むことで、ブランド力を生かせるとともに、オリジナリティが出せると考えているようです。動画をキレイに撮れるスマホは多くありますが、その先の配信まで考えているのはソニーならではで、Xperiaにとって強力な武器になるかもしれません。
(文・石野純也)