店内に設置されたカメラなどの情報で、利用客が手にとった商品をリアルタイムに認識。決済エリアに立つと同時にタッチパネルに商品と金額が表示され、決済を完了するとそのまま店を出ることができます。
同システムを展開する株式会社TOUCH TO GOは、2020年、高輪ゲートウェイ駅構内にオープンした店舗を皮切りに、首都圏を中心に順次店舗数を増やし、2022年5月から東芝テック株式会社との協業で全国展開を開始しました。
今回は、同社代表の阿久津智紀氏に、これまでの経緯や今後の展開にかける思いなどを伺いました。
店舗数は2年で13店舗に拡大
——まずは、無人決済店舗システムを手がけることになったきっかけについて、お聞かせください。
阿久津:私はもともと、JRの社員として駅内のコンビニの店長を務めていたのですが、アルバイトが来ないと店長がレジを抜けられないなど、非常に過酷な労働環境で、現場のオペレーションに大きな課題を感じていました。
一方で、自動販売機は販売できる商品が限られるため、利用者の利便性を損ねてしまいます。そこで、人手をかけずに商品をきちんと販売できるしくみを作りたいと考え、ジョイントベンチャーとしてTOUCH TO GOを立ち上げました。
——この2年間で13か所に導入されたとのことですが、どのように拡大していったのでしょうか。
阿久津:これまでに、ファミリーマート様や東急ストア様、紀ノ国屋様などに納入してきました。皆さんにとっても未知のものなので、試しに1店舗導入し、稼働後の状況を見ながら2店舗目、3店舗目を検討いただく形で各社少しずつ店舗を増やしている状況です。
スタートから2年が過ぎ、ようやく実証のフェーズからようやく実用化のフェーズに移ることができたかなと感じています。
必要なものを手間なく買える「クイック性」に強み
——これまでの導入店舗からは、どのような反応がありましたか?
阿久津:おおむね好評をいただいています。ただし、既存のPOSデータとの接続やトラブル対応など、細かい使い勝手については要望もいただいているので、それらには順次対応していきたいと考えています。
——利用するお客さんの反応はいかがですか。
阿久津:サービス開始以来ずっと、お客さまへのアンケートを取っているのですが、8割強の方からよい評価をいただいています。駅内の店舗が多いこともあって、利用される方の年齢層も幅広く、週末などは年配の方にも多くお越しいただいています。
——最近は利用者が自分でバーコードをスキャンするセルフレジも普及してきましたが、それらとTOUCH TO GOとの違いは何でしょうか?
阿久津:お客さまがバーコード読み取りなどのアクションをする必要がなく、必要なものをすばやく買えるクイック性のようなところには優位性があると考えています。また、決済手段の多様性も強みだと感じています。
また、システムの導入だけでなく保守まで含めてサービスを提供している点も、私たちの会社ならではの特徴だと思います。
東芝テックとの協業で、地方にも展開可能に
——今回、全国展開を決めた理由についてお聞かせください。
阿久津:私たちは小さな会社なので、導入や保守をおこなうパワーにも限度があり、これまでは首都圏中心の展開しかできませんでした。今回、東芝テックさまのお力をお借りして、販売と導入、保守までお願いできるスキームを作ったことで、地方を含めて全国に展開できるようになりました。
——ちなみに、システムには「TTG-SENSE MICRO」と「TTG-SENSE MICRO W」がありますが、この2つは何が違うのでしょうか?
阿久津:単純に対象となる店舗の面積の違いです。「TTG-SENSE MICRO」は7㎡程度、「TTG-SENSE MICRO W」は15㎡程度の店舗を想定したシステムとなっています。
——今後、こんな場所に展開できたらいいというビジョンはありますか?
阿久津:駅やバス停などの交通拠点や土産物店など、コロナ禍で人が減ってる場所に積極的に展開していきたいですね。
土産物店については、すでに羽田空港や中部国際空港の「ANA FESTA GO」で展開していますが、旅行帰りの方などがサッと買い物をして帰るというニーズにはとても合致しているのではと思います。
さらに、物販だけでなく、飲食のテイクアウトなども含めて広く販売のしくみを提案していきたいと考えています。
店舗スタッフのオペレーションの負担を軽減したい
——これから追加していきたい機能はありますか?
阿久津:分析ツールを強化していきたいですね。お客さまが商品を取った・戻したといったデータを分析して、店舗にフィードバックすることで、POSだけではわからない情報を得られるようにしていきたいと考えています。
——TOUCH TO GOの全国展開を通して、顧客体験や店舗のオペーレーションにどのような変化をもたらしたいとお考えですか?
阿久津:一般の利用者にとっては、安定的に買い物ができるポイントを増やすことができると考えています。これから人手不足が加速してくると、買いたいものを買いたいときに買いたい場所で買うことができない時代が来るかもしれません。そのような状況に対応するサテライト店舗として活用いただきたいです。
店舗にとっては、オペレーションにおける労力とコストの削減に貢献できると考えています。やはり、人を管理するには目に見えないコストがたくさんかかりますし、心労も多いです。その負担をできるだけ軽減し、店舗のオペレーションをされている方の精神面の負担を軽減できたらと考えています。
——最後に、全国展開にかける思いをお聞かせください。
阿久津:全国展開で多くの方にこのシステムを活用いただき、最終的に社会のインフラになっていきたいというのが私たちの願いです。
店舗の困りごとはそれぞれ違うので、私たちはただそのままシステムを販売するということは考えていません。各店舗の状況にあわせてシステムをカスタマイズし、課題を解決できる形での導入を実現できるようサポートしていきます。
(文・酒井麻里子)