そんななか拡大を続けているのが、折りたたみ電動バイクのシェアサービス「Shaero(シェアロ)」です。「Shaero」を運営するシェアード・モビリティ・ネットワークス株式会社は、首都圏での展開を皮切りに地方や観光地での展開を目指しています。
拡大を続ける「Shearo」とはどんなサービスなのか?また、今後の構想は?代表取締役を務める畑翼氏に話を聞きました。
5キロから10キロの移動を便利で自由に
――御社が提供するモビリティサービスについて教えてください。畑:私たちは、折りたたみ電動バイクのシェアサービス「Shaero」を提供しています。スマホアプリ経由でバイクの予約・貸し出し・返却・決済までおこなうことができます。
――「Shaero」にはどんな特徴があるのでしょうか?
畑:まず、バイクがコンパクトである点が特徴です。折りたたんだ状態だと、ゴルフバッグと同じくらいのサイズになります。
駐車するステーションも非常にコンパクトで、最も小さいサイズの4台ステーションなら、およそ自動販売機1台分のスペースに設置可能です。
――バイクの性能を教えてください。
畑:最高時速は30キロ、航続距離は満充電で最大30キロまで走行可能です。車両は原動機付自転車(原付)に分類され、ヘルメットの着用と運転免許証が必須です。
――現在のサービス提供エリアや規模についても教えてください。
畑:現在、東京23区を中心とした首都圏のサービスエリアに、200か所以上のステーションを配置しています。当初は今夏に200か所を達成する計画でしたから、想定より早いペースで拡大中です。
ユーザー数も2000名を超え、20代から60代まで幅広い世代が利用しています。
――「Shaero」はどんなシーンの利用を想定しているのでしょうか?
畑:通勤通学や買い物など、日常のちょっとした移動に使ってもらうことを想定しています。
――シェアモビリティには自転車やキックボードなどのさまざまな選択肢があります。「Shaero」と他のモビリティとの違いについて教えてください。
畑:それぞれ求められる移動距離が異なると考えています。シェアサイクルだと5キロ以上走るとどうしても疲れますし、電動キックボードは「ラストワンマイル」と言われる1キロ強の移動で主に利用されています。
「Shaero」はラストワンマイルの移動に加えて、一回あたり5〜10キロ程度の移動に利用されるケースも多く、これらのモビリティより長い距離の移動に適したサービスです。
――スマホアプリで貸し出しをおこなうとのことですが、どんな仕組みでしょうか?
畑:バイクの電源のオンオフを、スマホアプリから操作する仕組みです。アプリとバイクの連携が上手くいかないとユーザーにストレスを与えますから、開発段階からこの点にはこだわりました。
また、ステーションには充電ケーブルが備えてあって、乗り終えたバイクを接続しないと返却処理が完了できない仕様になっています。充電やバッテリー交換のための車両回収が基本的に不要なので、この仕様は運営コストの削減につながっています。
地方企業の事業承継がシェアサービスのきっかけに
――「Shaero」のサービスを始めた経緯について教えてください。畑:2019年に、電動モビリティの開発をおこなっている株式会社アクセス(山梨県)の創業者が、事業の承継先を探していたことがきっかけです。
これからEVの普及が進むなか、高いポテンシャルを感じて、承継の検討をおこないました。
――車両の製造販売だけでなくシェアサービスにも取り組み始めたのは、どんな考えがあったのでしょうか?
畑:まず考えたのが、都市部の移動に関する問題です。とくに首都圏の移動は、東京都や周辺の県を含めた非常に大きな経済圏の中で動いています。
現状でも便利ではありますが、「直線距離だともっと近いのに」というケースは意外と多いのではないでしょうか。
――鉄道の乗り換えを想像してみると、確かにそうですね。
畑:そう考えているとき、当時すでにアクセス社が開発していた折りたたみ電動バイクを見て、「これをシェアサービスで提供できれば、首都圏の移動がもっと便利になる」と考え、事業承継を決めました。
そして、シェアサービスの運営企業としてシェアード・モビリティ・ネットワークスを立ち上げ、まずは首都圏から「Shaero」のサービスを開始しました。
首都圏を皮切りに、地方や観光地へ
――首都圏以外にも移動に関する課題は感じていたのでしょうか?畑:私は広島県尾道市の生まれなのですが、それと関連して感じていた課題もあります。尾道は有名な観光地ですから駅前は便利なんですが、駅から少し離れると公共交通が不足していて、坂道も多い土地なんです。
じつは、この地方の移動課題も、アクセス社の事業承継とシェアサービスの事業を始めた背景にあります。
――仮に首都圏以外で「Shaero」のサービスを提供する場合、利用形態は変わりますか?
畑:京阪神のようなエリアなら首都圏に近い規模でネットワークを築けると思いますし、福岡のような都市なら、もう少しコンパクトな規模で運用することになるでしょう。
――それらの大都市よりも人口の少ない地方都市ではいかがでしょうか?
畑:地方ごとの移動目的や利用シーンに合わせて、さまざまなモビリティをシェアサービスに組み込んでいくことが大切だと考えています。
アクセス社では、電動トライク(3輪バイク)やシニア層でも安心して運転できる小型EVも開発しています。これらをシェアサービスに組み込んで、地方都市や観光地などのさまざまな場所で移動の選択肢を増やしていく考えです。
――地方でシェアサービスを展開する場合、どんな構想を描いていますか?
畑:尾道の例のように、日々の暮らしで少し長い距離の移動が不便な場所は多いと思います。モビリティを購入するまでいかなくても、気軽に利用できて運転も簡単なシェアモビリティは地方でもニーズがあると考えています。
たとえば、大型商業施設などに複数のシェアモビリティが配備されたステーションを設置して、便利な移動のハブとして機能させる展開に今後は取り組んでいきたいです。
――観光地での導入についても構想を教えてください。
畑:個人的な思いですが、地元の尾道にあるしまなみ海道で私たちのシェアモビリティを提供できれば楽しいだろうと考えています。
しまなみ海道はサイクリングコースとしても人気ですが、橋と島をつなぐコースはアップダウンが多くハードなんです。景色が良くて移動するだけでも気持ちいい道なので、「自転車で走るのは辛い」と感じる人たちにバイクやトライクを提供したいです。
都内で利用する「Shaero」のユーザーからも、移動の便利さに加えて「移動自体が楽しくなった」という声をよく頂きます。便利で自由な移動の選択肢を増やしながら、楽しい体験を提供することにも取り組んでいきたいです。
(文・和田翔)