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VRバターが真に提供するのは「味に集中する体験」だった

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同僚や友人、恋人と食事を楽しむとき、どのような話をしますか?

仕事のこと、将来のこと、趣味のこと。振り返ってみると、いま食べているものの「味」について話す時間は、ほんのわずかかもしれません。

もっと「味」に集中する食事体験があってもよいのではないか。

そうした考えのもと、岡山発のバター専門ブランド「カノーブル」が2021年に開発したプロダクトが「VRバター」です。2022年3月には、VR対応の寿司型バターデバイス「THE SUSHI DEVICE」を発表しました。

「THE SUSHI DEVICE」とは一体何かという話から、「人間の味覚」「人間の食事体験」といった身近ながらも抽象的な話題まで、カノーブルを展開するナショナルデパート株式会社代表の秀島康右さんに伺いました。

3次元設計のVRバターは「食べるデバイス」である

ーー「VRバター」とはどのようなモノなのでしょうか?

秀島:VRゴーグルを着用して、専用の映像を鑑賞しながら味わってもらうバターです。VRのコンテンツと合わせて食べることを念頭に置いて制作しました。

食べる人は、VRゴーグルとスマホを用意して、VRコンテンツを見ながらバターを口の中に入れて溶かすだけです。

ーーバターにVRを合わせる理由は?

秀島:感覚器官に触れたときの刺激と映像や音声が一致したときの心地よさ、想像とは異なる香りを感じたときの違和感など、新しい感覚の食を提供することが目的です。

ーー形状も「近未来的」ですね。

秀島:バターの形状は3次元設計で、舌の上に置くだけで自然と溶けて味が変化するようになっています。

2022年3月下旬には、新作として寿司型バターデバイス「THE SUSHI DEVICE」の予約受付を開始しました。

ーーVRで寿司のバターですか……。理解が追い付かないのですが。

秀島:「寿司」とネーミングしていますが、バターやチョコレート、クリームなどを組み合わせたお菓子です。

ネタ・サビ・シャリの三層に分かれているのが「寿司」と呼ぶ理由です。

上等なお寿司は、口の中に入れると “ほどける” ように握ることもあります。口内の食感まで設計されているという意味でも「寿司」が相応しいのではないかと思いました。

ネタは上顎に当たり、シャリは舌に触れます。ですので、ネタはとくに香りを、シャリは味わいを意識してつくっています。サビはネタとシャリをつなぐ役割で、ネタの特徴とシャリの特徴をそれぞれすり合わせてひとつの食後感をまとめてくれます。

いつかは本当に「寿司」の味がする商品もやってみたいですが(笑)。

私たちは 本当に“味” を楽しんでいるだろうか?


ーー VRバター開発の経緯を教えてください。

秀島:私たちはもっと「味」に集中しても良いのではと思ったからです。

人間は「食事」を “栄養摂取” や “コミュニケーションの手段” ぐらいにしか利用していないのでは?と考えるようになりました。じつは「味」そのものを楽しんでいないのではないかと。

会食をしていても話題になるのは、仕事や人間関係の話題ですよね。「味」の話題が続くことはあまりないと思います。私が奥さんと外食をしていても、周りから聞こえてくるのは食事とは関係のない話ばかりです。

ーーそうではなく、もっと「味」に集中する機会をつくりたいと。

秀島:はい。余分な情報を排して味に集中できるデバイスとして「VRバター」をつくりました。日本はとくに余分な情報が多いと感じています。たとえば、グルメサイトは「レビューを書きたい人」で溢れかえっているように思います。

「売る側」が、味にだけ集中できなくなっているのも事実です。

最近の日本の飲食産業に限って言えば、売れるためには味の追求と同等にマーケティングの手腕が求められます。食べ物の価値を決めるのは、味ではなくマーケティングとブランディングの技量なのかもしれません。

ーーそのために「味」以外の情報を意図的に排除する場所を仮想空間に作るということですね。

秀島:「味」も五感のひとつなのだから、もっと楽しんでよいのではと思ったんです。

余分な情報が多いと言いましたが、「食事」から「味」以外の情報を完全に排除することは難しいです。これはデジタルマーケティングが上手なケーキ屋さんでも、町の定食屋さんでも変わりません。パッケージや食器、店の内装など、さまざまな情報が頭に飛び込んできますから。

もっとも、「味」だけを純粋に感じたいのであれば、真っ白い何もない空間で食べるのが一番なんですけれど、それは難しいですよね。私だってそんなことしていませんし(笑)。

味に特化した空間をVRに構築する

秀島:味以外の情報をそぎ落とすという意味もあって、プレスリリースに掲載するプロダクトの画像もなるべく無機質にしました。撮影した写真ではなく、3Dのモデリングデータを出力したものをそのまま使っています。

味に集中といっても、食事中は視覚や聴覚をシャットアウトして「味覚」に特化しろというわけではありません。

ただ、お喋りするにしたって、せっかく美味しい料理が目の前にあるのだから「味」に関する話題があっても良いのではないかなと思います。

ーー複数人が、同時に同じ味を体験する?

秀島:はい。たとえ遠隔であっても同じ商品を買って、同じVRコンテンツを同じ時間に見れば、「味」の話ができるのではないかなと思いました。

バターを口の中に放り込んで解けるのを待つだけ。デバイスは噛まない想定でつくっています。人間の口内の温度はある程度決まっているので、口の中で溶ける時間もほとんど個人差は無いはずです。

ーー味が「同期」するような感じですね。

秀島:そうですね。もし感じ方が違うのであれば、それを話題にするのも良いですよね。

ちなみに、持続時間は1分です。舌の上で溶けて鼻腔に香りが通るのも含めておよそ1分の時間が用意されています。

1分と聞くと短く感じるかもしれませんが、舌触りや味覚、後味にだけ集中する時間としてはかなり長いのではないかなと思います。

こうした実験的な商品開発を積み重ねて、味覚を拡張させていければと思います。

進化するのは料理や舌ではなく、感覚


ーー「味覚の拡張」とは?

秀島:たとえば、「うま味」という言葉がつい最近になってできましたよね。甘味、酸味、塩味、苦味の次に提唱された5つ目の基本味です。

こうした味覚に関する語彙が増えることは「味の拡張」のひとつだと考えています。

よく考えると、進化しているのは料理のレパートリーではなくて、私たちの感じ方なのかなと。さらに冷静になって考えると、人間の舌の機能は昔から一緒だと思うんですよ。

つまり「味が進化する」という現象の正体は「インプットした味覚を、どう表現するかのアウトプットの幅が広がる」ということ。これこそが「味覚の拡張」なのかなと思います。

それを実現するための手段のひとつとして、「VRバター」をつくりました。


ーー今後の展望を教えてください。

秀島: “人類の進化” みたいな話まで風呂敷が広がりましたが、私自身はずっと同じことをやるつもりはありません。新しいモノに挑戦することが好きなので。

VRバターのプロダクトに関して言えば、完全に内製で3Dデーターのモデリングから私がやっているのですが、ある日の昼間にたまたま思いついたものをつくって、夕方にコンセプト発表のプレスリリースを打って……みたいな。

それくらいの感覚で、今後も新鮮なプロダクトを生み出していきたいです。

ーーその日のうちに作ってリリースも当日に?

秀島:はい。代表の私がモデリングやデザインをやっているからこそのスピード感かもしれません。

あくまで自分が楽しいかどうかで仕事をしていますが、幸いにも私たちの商品や企画に興味を持ってくれるお客さまがいらっしゃるので、事業としては安定しています。

もし仮に私たちより大きい会社がVRバターを真似したらーー3Dの仕事を外注すると結構お金がかかるので逆に採算が合わないかもしれませんがーー私たちの規模では太刀打ちできないと思うので身を引くでしょう(笑)。

他社と売上を競うのもやってみれば楽しいに違いありませんが、必要以上にお金があっても僕は競馬とかに使っちゃうだけなので。

ーー競馬……ですか。

秀島:さっきも話をしながらチラっと結果をみたら負けていました(笑)。

「カノーブル」ブランドやナショナルデパートという会社の今後ですが、ずっと「VR」や「味覚の拡張」をやり続けるかどうかはわかりません。

これからも、事業を伸ばすというよりは、自分がそのときに面白いと思うことをやっていくつもりです。

(文・川合裕之)
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