Zip Infrastructure株式会社は、新たな都市交通システムとして自走式ロープウェイ「Zippar」の開発を着々と進めています。
「Zippar」とはどんなモビリティなのでしょうか?また、2025年の運行開始に向けて、どう取り組んでいくのでしょうか?代表取締役を務める須知高匡氏に話を伺いました。
自走式ロープウェイ「Zippar」とは
――御社が開発を進めている「Zippar」の特徴について教えてください。須知:「Zippar」は、「曲がれる」ことが特徴の自走式ロープウェイです。従来のロープウェイは曲がることが非常に難しく、直線のコースを運行するのが一般的でした。
対する「Zippar」は、ロープと車両を独立させ、直線部はロープ上を、カーブや分岐の部分ではレール上を走行する方式を採用し、柔軟にコースを設計することができます。
――自走式とのことですが、従来のロープウェイはゴンドラが自走しているわけではないんですか?
須知:従来のロープウェイの場合、駅などの施設に設置してあるモーターによってロープを動かす仕組みで、ゴンドラは動くロープに乗っかっているだけなんです。
「Zippar」の場合は、車両にモーターやバッテリーを搭載していて、車両自体が動く仕組みとなっています。
――小型の電動モビリティのようですね。
須知:実際に、車両の上側のロープやレールを走る部分は、EVを流用しています。ロープ用の車輪に換装して、脱輪しないように保持装置をつけて動かす仕組みです。
――車両の運転は、手動と自動のどちらでおこなうのでしょうか?
須知:自動運転を採用しています。「Zippar」は車両1台につき8~12人が乗れる設計で、12秒に1回の間隔で運行する想定です。手動運転で動かすとなると運転士の人件費が非常にかかりますから、現実的ではありません。
都市の課題を解決する新たな交通手段に
――都市型ロープウェイは、従来の交通手段と比較すると、どのような位置づけになるんでしょうか?須知:一般的な交通手段として地下鉄やバス、自動車(タクシー・自家用車など)があります。これらでカバーできない部分を埋めるものとして、高速バスやマイクロモビリティ、最近では空飛ぶクルマ(eVTOL)やリニアモーターカーなど、新たな交通手段が現れました。
それらの交通手段でもカバーできないのが、1~10キロという比較的短距離を、1時間あたり600~3000人程度の規模で輸送する領域で、この領域に「Zippar」を通す考えです。
本来この領域はモノレールやLRT(次世代型路面電車)などが埋めるはずなのですが、いずれの手段も問題を抱えているのが現状です。
――問題とは?
須知:建設費などのコスト面が大きな問題です。たとえばモノレールだと、空中を走るので用地取得の費用が抑えられるのでは、と思うかもしれません。
しかし、実際はモノレールの線路を設置する場合、線路を支える太い柱を建てるために道路を一度作り直す必要があるんです。
――「Zippar」だと、そのコストが抑えられるんですか?
須知:「Zippar」は軽量の車両と支柱の組み合わせですから、1㎞あたり10〜20億円前後と従来のモノレールの5分の1のコストで設置でき、建設期間も約1年と非常に短く済みます。
――コスト以外に、Zipparを都市の交通手段として導入するメリットを教えてください。
須知:自動車を使うと渋滞の原因になり、徒歩で行くには遠く、電車などの公共交通を通すには採算が合わない、そんな領域は都市の中に多く存在します。
そこに「Zippar」を通せば、都市の渋滞解消に貢献できます。加えて、高齢者をはじめとした利用者の移動を快適にしたり、交通サービスの赤字問題を解決できたりなど、複合的な効果も生み出せると考えています。
――都市型ロープウェイは、海外では普及しているんですか?
須知:都市交通としてロープウェイを活用している事例だと、南米のボリビアが有名です。地下鉄の代わりにロープウェイを作るくらい盛んで、大都市のラパスだとおよそ30キロにわたるロープウェイ交通網があります。
観光用だとイギリスが有名で、2012年のロンドン五輪に合わせて開通したテムズ川をわたるロープウェイがあります。日本でも横浜の桜木町に「YOKOHAMA AIR CABIN」が昨年オープンしました。
――都市交通と観光用だと、どのような違いがあるのでしょうか?
須知:立地の違いもありますが、大きな点では運賃の違いがあると考えています。観光地でロープウェイを走らせようとすると、どうしても景色のいい場所に通そうとします。その結果、建設コストが上昇し、高い運賃となって利用者が負担しなくてはなりません。
都市交通の手段として考えるなら、景色を重視するのではなく、需要がある所を走らせる必要があります。「Zippar」も1回の乗車料金をバスや電車並みの200円程度に抑えて、都市移動の足として利用してもらう考えです。
――ほかのモビリティとの連携に関しては、どのような構想を持っていますか?
須知:モビリティと言うのが正しいかわかりませんが、私たちはエレベーターを「上下を移動する乗り物」と解釈していて、エレベーターと「Zippar」をうまく連携させると便利ではないかと考えています。
ビル内にある既存のエレベーターと「Zippar」を上手く連携させて、ビルの2~3階部分に「Zippar」が横づけして直接乗り降りする姿を、将来的に実現させたいです。
2025年の運行開始に向けて
――現在の開発状況を教えてください。須知:2020年には一人乗りモデルの試験をおこない、勾配の走行や停止位置の精度などを検証しました。
現在は新晃工業の工場内にテスト用地を借りて、8人乗りの車両を走らせるためにテストを繰り返している段階です。
――今年3月には、テスト用地で開所式もおこないました。今後どのようなスケジュールで開発を進めていくのでしょうか?
須知:3月に実施した開所式では、地上に敷いた軌道上を車両が自動走行するデモをおこないました。
今年の夏には上空に引いたロープ上にキャビンを吊り下げた状態で走行できるように開発を進めています。秋には一般向けの試乗会をおこなう予定です。
――現時点での課題はありますか?
須知:テストは順調に進んでいますが、今後重要なテーマとなるのは耐久性だと考えています。交通システムとして考えた場合、数100万キロ走っても事故がない車体を目指す必要があるので、重点的に耐久試験に取り組んでいく方針です。
――「Zippar」が実際に公道で走る姿は、いつごろ見られるでしょうか?
須知:国土交通省の第三者委員会による審査が2024年までかかると予想しています。その後、1号線の施行を進め、2025年に運行を開始する目標で開発を進めています。
(文・和田翔)