同社は、Androidのスマホメーカーとしての歴史が長く、黎明期から日本でもGalaxyシリーズを販売してきましたが、いずれもキャリアを通したモデルでした。メーカー自身が直接販売を子なういわゆるSIMフリーモデルを投入するのは、これが初めてのことです。
Galxy初のSIMフリーモデル「Galaxy M23 5G」
Galaxy M23 5Gは、いわゆるミドルレンジのスマートフォン。Amazonでの価格は4万982円(税込)です。チップセットにSnapdragon 750Gを搭載しており、この価格帯ながら処理能力は高め。ディスプレイはサムスンが得意とする有機ELではなく、液晶になりますが、リフレッシュレートが120Hzと高く、滑らかな表示を実現しています。バッテリー容量が5000mAhと大容量なのも、このモデルの特徴です。
ただし、サムスン電子がキャリアを通して販売する他のGalaxyとは異なり、おサイフケータイには非対応。5Gにも対応していますが、ドコモが運用する4.5GHz帯(n79)は利用できません。
また、KDDIやソフトバンクが運用している700MHz帯(n28)の5Gにも非対応となっているため、キャリアが販売するスマホと比べると、5Gを受信できるエリアは狭くなる可能性があります。
オンライン専用モデルとして
サムスン電子ジャパンのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の小林謙一氏によると、Galaxy Mシリーズは世界的に、Amazonでの販売を念頭に置いて開発された端末だといいます。Amazon専売というわけではありませんが、ネットを中心に販売する端末として開発し、とくにAmazonでの売れ行きを最重要視して、必要とする機能を盛り込んでいったのがGalaxy Mシリーズと言えるでしょう。
日本でも、この販路を踏襲しており、大きな販路はAmazonになります。一部家電量販店のオンラインサイトでも販売はされますが、リアル店舗での販売はサムスン自身が運営するGalaxy Harajkuのみ。
オンライン中心のMシリーズを販売することで、キャリアで販売するフラッグシップモデルのGalaxy SシリーズやミドルレンジのGalaxy Aシリーズと差別化を図った格好です。
通信は通信、端末は端末で選ぶ人へ
満を持してSIMフリーモデルの販売に踏み切ったサムスンですが、その理由は、市場の変化が大きかったといいます。先の小林氏は、「通信事業者のマーケットはステイ(現状維持)で、フラッグシップモデルに関してはダウントレンドになっている」と指摘します。19年10月の電気通信事業法改正以降、とくにハイエンドモデルの売れ行きには大きくブレーキがかかりました。
サムスンは、ミドルレンジのGalaxy Aシリーズを拡大することで存在感を示していますが、価格帯の高いフラッグシップモデルの数が減っていけば、売上は減少してしまいます。
小林氏が「ほかの可能性がある市場で量を増やして売上を作らなければいけない」と語っていたように、以前よりシェアを追わなければいけない状況になっていると言えるでしょう。
Galaxy M23 5Gは「通信は通信、端末は端末で選ぶ人」をターゲットにしているといいますが、大手3キャリアがオンライン専用プラン/ブランドを導入した結果、こうしたユーザーは徐々に増えています。
例えば、KDDIのpovo2.0やソフトバンクのLINEMOでは、端末の販売を行っていません。ahamoのように端末の販売を行うケースもありますが、端末は別途購入するのが原則です。
強敵は中国メーカー?
こうしたユーザーがGalaxyを選ぼうとしても、これまではキャリアが販売している端末を単体で購入せざるをえませんでした。Amazonなどで気軽に購入でき、4キャリアの回線に対応したGalaxy M23 5Gは、その受け皿になりえる可能性があります。Galaxyを利用していた人がオンライン専用プラン/ブランドに切り替えた際に、まったく違うメーカーの端末に乗り換えるより、選びやすいのは大きな利点です。
とは言え、SIMフリー市場には、中国メーカーを中心にコストパフォーマンスに優れたモデルが多く、選択肢もさまざま。おサイフケータイ対応モデルなども存在します。
Galaxy M23 5Gはパフォーマンスの高い端末ですが、1モデルだけでは他社と伍していくのは難しいようにも思えます。ラインナップをいかに拡大していくかが、今後の課題と言えそうです。
(文・石野純也)