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Tech 電子国家エストニア発・多言語金融モバイルサービス「GIG-A」が考える、日本が今変わらなければならない理由

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電子国家エストニア発・多言語金融モバイルサービス「GIG-A」が考える、日本が今変わらなければならない理由

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約173万人。厚生労働省の発表によると、令和3年10月末時点の外国人労働者数は1,727,221人で、平成19年に届出が義務化されて以降、最高を更新したそうです。

外国人労働者は、少子高齢化が進む日本で貴重な戦力と期待される一方、生活の基盤となる金融サービスを十分に受けられないこともあるといいます。

この状況をテクノロジーの力を使って変えようとしているのが、株式会社GIG-Aです。

元エストニア経済通信省局次長であり、現在は日本で同社の代表を務めるラウル アリキヴィ氏に、外国人労働者が直面する課題や、海外から見た日本のフィンテックについて話を伺いました。

外国人労働者が直面する課題

—— まず、御社の事業内容について教えてください。

ラウル:株式会社GIG-Aは、バンキングサービスを開発するフィンテックスタートアップです。本社はエストニアにあります。外国人が日本で働く際に直面する課題を解決し、日本を多様性を認める、もっとオープンな社会にすることを目指しています。

—— 日本には、どのような課題があるのでしょうか。

ラウル:日本には、銀行口座を持つことができても十分な金融サービスを受けられない約2000万人の「Underbanked層」がいるといわれています。

たとえば、日本の金融システムは終身雇用を前提にデザインされているため、ギグワーカーやフリーランスといった新しい働き方を選択した人たちのクレジットカードの与信枠は小さく、住宅ローンの借入も難しい現状があります。

さらにそのなかでも、外国人は、日本での生活に欠かせない銀行口座の開設さえ難しいこともあり、金融サービスへのアクセスは非常に難しい状況です。

—— 何がボトルネックとなっているのでしょうか?

ラウル:口座を開設できない理由にはいろいろとあるのですが、なかには、銀行から開設を断られたわけではないのに、「断られた」と思い込み、あきらめてしまう人がいます。

その原因のひとつとして、銀行側の多言語対応が不十分であることが挙げられます。

たとえば、住所の記載ミスなどの不備で、書類の再提出の案内が届いた場合。直して再提出すれば問題なく手続きを進められるのですが、日本語がわからないと、案内が届いただけで、開設できなかったと思い込んでしまう人もいるのです。

私自身も経験があるのですが、日本語に慣れていないと、漢字があるだけで不安になってしまうことがあります。

また、たとえ口座を開設できたとしても、母国に送金する際に生じる高額な手数料を負担に感じる人も多くいます。まず、そもそもの手数料が高いと感じています。

手数料を節約する手段は数多く存在するのですが、仕組みが複雑で、しかもほとんどが日本語での説明なので、外国人が情報を得るのが難しいという現状もあります。

外国人がもっと日本で活躍するためには、これらの課題を解決することが必要だと思い、多言語金融モバイルサービス「GIG-A」を開発しました。

多言語金融モバイルサービス「GIG-A」

—— GIG-Aはどのようなサービスなのか、教えてください。

ラウル:GIG-Aは、多言語で金融サービス体験を提供するプラットフォームです。これまで金融サービスを十分に受けられなかった人たちと銀行の間にあるギャップを解消します。

ユーザーは月額固定の手数料を支払うことで、口座開設をはじめ金融に関するサポートを受けることが可能です。

正式なサービスインは2022年秋頃を予定しています。最初は日本語と英語、ベトナム語でサービスを提供し、徐々に対応言語を増やしていきます。ユーザーと同じ母国語を話すスタッフがサポートします。

—— 日本で安心して生活を送ることができそうですね。

ラウル:GIG-Aが目指すのは、日本国内でのサポートだけではありません。どこにいても同じ金融サービスにアクセスできることを目指しています。

たとえば、ユーザーが日本でGIG-Aを利用しておこなった活動実績を「信頼」の蓄積と見なされるようにします。その「信頼」はどこにいても通用するので、帰国後も母国でローンやクレジットを使いやすくなるでしょう。

ーーマネー・ロンダリングや口座売買などの金融犯罪を防ぐための取り組みについて教えてください。

ラウル:日本の銀行は、口座開設時のスクリーニングを集中して厳しくおこなう傾向にありますが、GIG-Aを使えば、スクリーニングの厳しさのレベルを保ちながら、開設後のモニタリングにも力を入れることができます。

たとえば、いつもと違うパターンの取引をすぐに検知して対応することが可能です。テクノロジーを活用したサービスならではの強みだと思います。

また、口座売買を防ぐために、オンラインで口座を解約できるようにしています。

口座を売ろうとする人が出てくる背景には、解約手続きの煩雑さが理由のひとつとして挙げられます。ほとんどの銀行では、解約は店舗に行って手続きする必要があるため、面倒になって他人に売ってしまう人が出てくるのです。

GIG-Aは、銀行と協力して紙の通帳とキャッシュカードからデジタルに移行すること、アプリを通じたモニタリングを高度化すること、そしてオンラインでの解約を可能とすることで、口座売買の可能性を低くできると考えています。

これから少子高齢化が進むにつれ、外国人労働者は増加していくでしょう。どんな人に対しても十分な金融サービスを提供できるよう、日本は変わらなければなりません。当社はそのサポートをしていきたいと思います。

フィンテックは「お金」を変えるか

—— 最近は、仮想通貨やNFTなどが盛り上がりを見せています。フィンテックによって、「お金」のイメージが変わりつつあると感じる人も多いようです。従来の「お金」は価値を持たなくなるのでしょうか。

ラウル:フィンテックは、従来の「お金」の価値を変えるのではなく、「お金」を使ってできることの可能性を広げるものだと思います。これまで難しいとされてきたことを簡単にすることが可能です。

たとえば、それまで給与の振り込みが月1回だったのが、月2回になって仕事へのモチベーションが高まったり、プロジェクトに参加することで、直接会ったことがない誰かを応援できたり。「お金」を使ってできることの可能性は、これからもどんどん広がっていくでしょう。

海外から見た日本のフィンテック

—— エストニアは「電子国家」と呼ばれるなど、世界でも有数のIT先進国だと聞きます。エストニア出身のラウルさんから見た、日本のフィンテックはどのようなものか、お聞かせください。

ラウル:私は、約20年前に留学生として来日したのですが、銀行口座を開設した際に受けた衝撃を今でも覚えています。

紙の通帳とプラスチックのキャッシュカードを渡されたからです。

当時、エストニアではすでにインターネットバンキングが主流で、紙の通帳というものを見たことがありませんでした。

20年経った今でも、正直なところ、日本はそれほど大きく変わっていないと感じます。実際、外国人が日本で銀行口座を開設しようとすると、紙の通帳とプラスチックのキャッシュカードを渡されます。外国人がインターネットバンキングを利用する際には、さまざまな壁が存在するのです。

—— 海外はどのような状況なのでしょうか。

ラウル:ヨーロッパでは、6、7年ほど前からオープンバンキングが発展し、数多くのフィンテックサービスが誕生しました。

オープンバンキングとは、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使用して、さまざまな企業が銀行の顧客データを共有し、サービスを提供するビジネスモデルのことです。

—— 日本でも、改正銀行法が2018年6月に施行され、外部企業と銀行のデータ連携をAPI経由でおこなえるようになりましたね。

ラウル:そうです。日本も法律面含め、土壌は整備されているのです。しかし、多くの人たちの生活に変化があったかというと、そうとは言えないでしょう。銀行のインフラが変化に追いついていないことが理由として挙げられます。

GIG-Aでは、APIを活用して銀行とユーザーの間に立ち、他のパートナーとも連携しながら、銀行では対応できないことを代行していく予定です。

これまでは、実際には他のソリューションがあるにもかかわらず、銀行の業務範囲外という理由でサポートできないケースがたくさんありました。そのような部分を吸い上げ、必要な人に必要なサービスを提供していくことを目指しています。

—— エストニアでは、国民はIDカードを使って、すべての行政サービスを受けることができるそうですね。導入時に大きな抵抗などはなかったのでしょうか。日本では政府がマイナンバーカードの普及促進に力を入れていますが、行き渡っているとは言えない状況のようです。

ラウル:エストニアでも、最初からすんなり受け入れられたわけではありません。実際にIDカードを使ってもらいながら、信頼を得ていったのです。

エストニアでは、インターネットバンキングを利用するとき、必ず個人IDに基づいた形でサインインする必要があります。お金の情報のチェックなので、週1回など、頻繁にIDを使うことになりますよね。いつも使う、あって当たり前のものとしたことで、自然に人々の日常生活に溶け込んでいったのだと思います。

当社には、このようにヨーロッパのフィンテックを知り尽くしたメンバーや、日本の金融や法律に精通したメンバーがそろっています。それぞれの知見を集結して、ヨーロッパで起こっている変革を日本でも起こしていきたいです。

(文・和泉ゆかり)

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