樽のウイスキーを小口に分割したNFTを販売したところわずか9分で完売するなど、いま注目を集めているのが株式会社UniCask。この記事では、同社代表のクリス・ダイさんに話を伺います。
UniCaskの展開する事業は、「できること(can)」「やりたいこと(will)」「やらなければいけないこと(must)」がそれぞれ緻密に絡み合っており、まるで太い編み糸を織りなすかのようです。
ウイスキーをNFTで。詳しく話を聞けば聞くほど、必然性すらも感じる鮮やかな切り口に思わずうなります。
NFTを社会に実装するために選んだのは「蒸留酒」
ーーまずは、御社の事業内容について教えてください。クリス:株式会社UniCaskは、ウイスキーなどの蒸留酒の所有権をNFTで管理するWebサービスを展開しています。
ファーストリリースを行った2021年春当初は業者向けの管理サービスとして打ち出していました。業者が蒸留所から仕入れたものを、二次流通して権利移転をする際にNFTの情報を利用するというものでした。
2021年12月には業者だけでなく個人向けの蒸留酒販売に踏み切りました。個人の場合は、ひと樽単位だと金額が高く手が出せないことがほとんどなので、1/100樽の単位で提供しています。
ーー憧れのお酒を、手頃な価格で多くの人が手に取ることができるわけですね。
クリス:分割株式のロビンフッドと同じような考え方ですね。これまで樽の所有は富裕層に限られており、富裕層であってもさまざまな障壁があり取引が難しかったのですが、こうした現状を「民主化」して打破するためのサービスだと思っています。
おかげさまで、2021年12月に打ち出した第一弾の「Genesis Cask」は9分で完売しました。業界内でも注目していただいているプロジェクトのひとつです。
ーーUniCaskの創業・開発の経緯を教えてください。
クリス:弊社は、株式会社ジャパンインポートシステムさんと株式会社レシカのジョイントベンチャーです。前者はお酒の卸売りなどを行う会社で、後者はブロックチェーン領域の会社。レシカはUniCaskと同じく私が代表を務めています。
私たちレシカは、2019年頃からNFTに興味を持っていましたが、 “普通に” やるよりも面白いビジネスモデルは無いだろうかと考えた結果、世の中にインパクトを与える「有形物のNFT」に挑戦することにしました。
そうしたなか、ジャパンインポートシステムさんとお話をする機会があり、飲酒体験やコレクションの場をデジタルに移行することに興味を持っていただき、「ウイスキーのNFT」という今のような形が出来上がりました。
ーー「資産」という意味でもウイスキーは相性が良さそうですね。
クリス:はい。他の飲み物やコレクションアイテムと違って蒸留酒は必ずと言っていいほど時間と共に価値が上がっていきますから、所有・保有することに意義のあるコレクションです。
ウイスキーをNFTで分割販売するメリットとは?
ーー厳密には有形のモノですが、小売りされるまでは不可触・不可分である「樽のウイスキー」という限りなく無形のモノをNFTで販売する仕組みに面白味を感じます!
クリス:ありがとうございます。実はウイスキーをNFTで販売することは生産者にもメリットがあって、流動性の低いキャッシュフローを活性化させる役割も果たしています。
ーーというと?
クリス:ウイスキーなどの蒸留酒は、熟成に何年も時間がかかります。蒸留した原酒を樽の中で熟成させて初めて琥珀色のウイスキーが生まれます。高級なモノだと30年や50年も寝かせますよね。
ウイスキーは、瓶詰めして流通させるまでには大変な時間がかかるわけです。
ーー着金までに時間がかかり過ぎるということですね。
クリス:はい。樽をまるまる売りたくても、取引自体に仲介業者のコストがかかりますし、樽ひとつを買えるほどの資金力を持つ人も限られています。
コレクターとしても、まだ市場に出回っていない樽には手が届かない。海外の蒸留所とは言語の壁もありますし、樽の所有は並大抵のことではありません。
樽のまま所有しておくからこそ意味がある
ーーつまり従来までは、貴重な蒸留酒は供給側にとっても需要側にとってもチャンスの少ない商品ということですね。クリス:はい。これを「民主化」したのがUniCaskのNFTです。また、樽のままでの売買・所有にはもうひとつ利点があります。
それは「熟成」です。実は、瓶に入ったお酒は熟成しないんですよ。「バランタイン17年」や「山崎35年」などのウイスキーを保有し続けていたとしても、瓶に入っている以上はそのままです。
10年モノのウイスキーを普通に購入して大事に7年寝かせたとしても、その瓶の中のお酒が17年モノの味に成長することはありません。
ーーそうなんですか。知らなかったです……。
クリス:ウイスキーの資産価値は落ちづらいですが、一般に流通する瓶のお酒を保有し続けることによって資産価値が上がることはほとんどないんですよ。
しかし、これを樽で保有するとなると話が変わります。
たとえば「山崎12年」を樽の中で10年間保有すると、「山崎22年」になります。値段にすればゼロの数がひとつ増えるレベルです。もちろん味にも深みがでます。
コレクターや愛好家からしてみれば樽で保有するのがベストなんです。しかし、先述のように樽での所有は経済的な都合などから叶いませんでした。この課題を解決するのが、樽の小口のNFT販売です。
一部の人に限られていた蒸留酒の保有を民主化して開放しつつ、蒸留酒の保有に新たな面白みを加えたのが弊社の事業になります。
熟成時間を所有して「一緒に育てる」感覚を
ーーすでに所有しているので、「これは何年物のお酒だ……」という高級酒のロマンがより自分ごとになりますね。クリス:そうですね。一緒にお酒を育てるようなイメージでしょうか。
昨年末に発売して9分で完売した「Genesis Cask」(スプリングバンク 1991年)は、小口のNFTを保有している方に対して、20年後にボトリングすることを約束しています。2041年の12月からボトリングがはじまるということです。
20年経てば実物に会える高揚感と、20年物のウイスキーを熟成前の現在の価値での価格で購入できる投資が同時に成立する場となります。
ーー投資目的での購入のみならず、コレクターにとっても絶好のチャンスですね。
クリス:ほとんど手に入らないような希少価値のあるお酒を事前に手に入れることができます。スプリングバンクは91年なので、すでに30年モノ。20年後には50年熟成した価値あるお酒になります。
時間が改ざんできないこともNFTの強みです。唯一性の証明や過去の権利者が誰であったかという情報以外に、NFTでは時間情報も記録できます。蒸留酒にとって「そのお酒が何年物か」の証明はお酒の価値の証明と直結します。これは蒸留酒にNFTを発行する新たな利点ですね。
NFTに関してはまだ手探りな企業も多く「それをNFTで発行する理由って?」と指摘されるアイテムも少なくありませんが、ウイスキーなどの蒸留酒はNFT化することでさらに可能性が広がるように思います。
ーーたとえば「これは80年代の味だ」という郷愁が、“2040年代” といった未来の方向に伸びるのが面白いですね。
クリス:単なる資産としてではなくコレクションとして保有する感覚を楽しんでもらいたいので、現在はNFTのデータとそれに紐づいたデジタル上のカードを提供したり、ウイスキーファン同士が交流できるディスコードコミュニティを運営したりしています。
やはり無形のものなので、価値を実感しやすい工夫をしています。
デジタル移行することで、お酒との距離が変わる
ーー今後の御社の展望について教えてください。クリス:ひとつはマーケットを安定させることです。現在はウイスキーを小口で提供しているため、供給量が多く異常な価格の高騰などは見受けられませんが、さらなる安定を追求して、マーケットを拡大していきたいと思います。
一次流通はまだまだ伸びるでしょうし、OpenSeaでの売買などの二次流通ももうすぐ解禁する予定です。今後もさまざまなウイスキーを提供できればと思います。
また、私たちの販売システム自体の提供も計画中です。ありがたいことに、企業さんや酒造会社さんなどから多くの問い合わせをいただいています。
ーーコミュニティ運営についての動きはありますか?
クリス:はい。こちらも「所有」を実感するのに欠かせない要素ですから、おっしゃる通り重要です。
ほかのコミュニティをすでに持っているサービスと共同で何かできないかと考えた結果、NFTプロジェクト「Metaani」さんのメタバース上でコラボ樽を作って販売するプロジェクトが進行中です。
ちなみにウイスキーは羽生蒸溜所が手がける一級品です。
クリス:コミュニティの運営・NFTカードを用いた交流は事業の設計段階から用意していました。デジタル上で自分の購入したウイスキーの存在を実感できる取り組みは、今後も創意工夫して取り組んでいきたいと思います。
(文・川合裕之)