その名は「合理的シンプル290」。“290”という名称が示しているとおり、料金は1GBでわずか290円です。しかもデータ通信だけでなく、音声通話まで利用できるのがこのプランの特徴です。
データ容量は最大10GBまで上限を設定でき、1GBを超えた際の料金は1GBあたり220円。5GB使っても、1170円で済む計算になります。
低容量で安さが際立つ「合理的シンプル290」
2021年は、MVNO各社が料金を大幅に値下げしていますが、それらと比べても合理的シンプル290は、特に低容量の部分が割安です。たとえば、ドコモのエコノミーMVNOに参画するにあたって500MBコースを新設したNTTコミュニケーションズのOCNモバイルONEは、同コースが550円。月10分までの音声通話がついているため、一概には比較できませんが、日本通信の合理的シンプル290は、データ容量が倍にも関わらず料金は半額近くまで安くなります。
また、IIJmioは2GBプランからで最低料金は858円です。日本通信の合理的シンプル290を2GB上限に設定して使った場合の料金は510円。ここでも、日本通信の新料金プランの安さが際立っています。
また、料金の安さで定評のあるソニーネットワークコミュニケーションズのNUROモバイルの「バリュープラス」は、3GBからで最低料金は792円。この比較でも、日本通信の合理的シンプル290に優位性があります。
ただし、データ容量が多いときには、日本通信の他のプランも含めた別の選択肢があります。
たとえば、合理的シンプル290は10GBで2270円になりますが、先に挙げたMVNOでは、OCNモバイルONEが10GB、1760円、IIJmioが15GB、1848円、NUROモバイルが10GB、1485円で提供しています。
日本通信自身も2178円の「合理的20GBプラン」を用意しており、こちらのプランには20GBのデータ容量に加えて、月70分の無料通話もつきます。その意味で、合理的シンプル290は低容量に特化した料金プランと言えるでしょう。
安さの秘密はドコモとの関係に
日本通信がここまで安価な料金で合理的シンプル290を提供できている背景には、音声通話が関係しています。1GBあたりの単価の安さを考えると、データ通信に何らかの秘密があると思われがちですが、実は音声通話を安く仕入れていることで、トータルでの料金を抑えられているというわけです。同社が音声定額プランを他社に先立ち導入できていたのも、そのためです。
さかのぼること、約2年3か月前、日本通信は、19年11月にドコモとの音声通信料金に関する交渉が不調に終わったとして、総務大臣に裁定の申し入れを行います。その結論が出たのが20年6月のこと。音声通話に定額プランを設けるという日本通信の主張は通りませんでしたが、料金を原価に適正利潤を加えた金額まで下げる裁定が通りました。
これにより、日本通信は音声通話に対応した回線をドコモから借りる際の料金を大幅に落とすことに成功しています。音声通話の料金はその後、ドコモが「音声接続」という方式を導入し、それを採用した他のMVNOも料金を値下げしていますが、卸価格自体そのものを下げた日本通信の方が、回線を借りる際の負担が少ないと言われています。
日本通信によると、合理的シンプル290のような安価な料金プランを投入できたのは、そのためだといいます。
業績回復の日本通信、そのときMVNOは
音声卸料金の値下げ以降、日本通信は「合理的」を冠にした料金プランを立て続けに投入しており、契約者数を順調に伸ばしています。結果として、2月に発表された第3四半期までの売上高は39.9%と大幅に伸び、前年同期には赤字だった営業利益も、1億9900万円の黒字になっています。この業績の回復は、音声通話の卸価格を下げることに成功した成果と言えます。
一方で、大手通信事業者の料金値下げに伴い、元々低料金を打ち出していたMVNOは、その生存領域が狭くなっていると言われています。実際、KDDIのpovo2.0や、ソフトバンクのLINEMOは3GBで990円を打ち出しており、大手キャリアでありながら、3GB前後での価格はMVNOに肉薄しています。こうした状況のなか、日本通信はさらなる値下げで大手キャリアに対抗してきたと言えるでしょう。
ただ、同じ3GBで比較しても、料金差は月々260円ほど。確かに価格差はありますが、ユーザーが手間をかけてまでキャリアを変えるほどの金額かというと、そこには疑問符もつきます。各社の料金値下げがひと段落した今、MVNOには単に安いだけではなく、その会社ならではの独自性のあるサービスが求められそうです。
(文・石野純也)