結果として、以前のように元々の価格が高いハイエンドモデルが0円や1円で販売されるシーンを見かける場面は減っています。各社とも、本体価格が2万円台のエントリーモデルを投入しているため、ほぼ無料で入手できる端末はありますが、端末の性能に応じて、価格に幅が出てきています。
破格な安さのiPhone
ところが、21年秋ごろから、iPhoneを破格な安さで販売するショップが徐々に増えてきています。とくに、よく見かけるのが第2世代のiPhone SE。コンパクトモデルで、シリーズの中で比較的リーズナブルなiPhone 12 miniや、iPhone 13 miniを低価格で販売するケースも見受けられます。番号ポータビリティなどで回線契約を移すと、1円や10円といった無料に近い価格まで下がるのが、低価格販売の共通点です。
iPhone SEは、元々の価格がアップル直販で4万9800円(64GB版の場合)。iPhone 12 miniは6万9800円(64GB版の場合)で、どちらも価格は割引の上限である2万2000円を大きく上回っています。
そのため、1円に近い価格で販売すると、端末値引きの上限を超えてしまうことになります。値引きの上限超えは指導の対象になりますが、昨年から今に至るまで、続けられています。
なぜ、このようなことが可能なのでしょうか。
iPhone SEを1円で販売できるワケ
その理由は、割引の内訳にあります。低価格販売しているショップで価格表示を見るとわかりますが、番号ポータビリティや新規契約などで受けられる割引は、2万2000円を超えていません。代わりに、残りの金額を本体から直接割り引くなどの方法で、低価格を実現しています。
上記に掲載した写真にあるiPhone SEの場合、番号ポータビリティの2万2000円とは別に、3万5599円の割引が設定されています。
後者の3万5599円の割引は、iPhone SEを購入する人なら誰でも受けられる割引。そのキャリアの回線を契約していようがいまいが関係なく、商品単体が割り引かれます。電気通信事業法で定められている2万2000円の割引上限は、あくまで回線契約に紐づいた場合の話です。
単体で販売されている端末を等しく値引くのは、小売りとして当たり前の商習慣のため、禁止ができません。2つの割引を組み合わせることで、1円販売を実現しているというわけです。
各キャリアのアップグレードプログラムとは
割引販売のもう1つのパターンが、キャリアの用意したアップグレードプログラムです。4年で割賦を組み、約2年後に端末を返却することで割安に端末を使えるアップグレードプログラムですが、これに端末への直接割引を組み合わせて超低価格での販売を可能にしています。こちらは、元々の価格が高めのiPhone 12 miniや13 miniなどに適用されるケースが多く、表示の価格に収めようと思った場合、2年後の端末返却が必要になります。
いずれも合法的な仕組みで、裏もないため、割引対象になっている端末が欲しかったユーザーは飛びついても問題ありません。後から高額な請求が来ることもなく、安心して購入できます。
キャリアが端末を割引販売する理由は、割り引いても端末を使ってもらえれば、通信料である程度回収することができるからです。これに対し、上記のような低価格販売は端末そのものを割り引いてしまうため、販売しているキャリアのユーザーが買うとは限りません。
極端な話、番号ポータビリティに伴う2万2000円分の割引だけをあきらめれば、ドコモのユーザーがソフトバンクで、auのユーザーがドコモで、端末だけを買うこともできてしまいます。そうなると、端末分の割引を通信費で回収するというビジネスモデルが回らなくなってしまいます。
とはいえ、現時点では端末を単体で購入するユーザーは非常に限定的です。ユーザーが訪れるのは、自身が契約しているキャリアのショップや売り場が一般的で、わざわざ契約していないキャリアから端末だけを購入するのはかなりレアケースです。
法律上は、回線契約を伴わず、端末だけを購入することを拒否できないことになっていますが、実態としてそのような購入の仕方をする人は少数派と言えるでしょう。
しかし、ユーザーの行動が変わり、キャリアから端末を単体で購入する人の比率が上がってくれば、割引の原資が出せなくなってしまう可能性があります。つまり、各社のアップグレードプログラムは、「端末を自分の契約しているキャリアで買う」という習慣が根付いているからこそ取れる販売手法とというわけです。
春は携帯電話の契約がもっとも増える商戦期のため、しばらくこのプログラムは続くと思われます。一方で、割引で契約が取れなければ、キャリアにとってうまみがありません。その意味で、今後も同じような販売が続くかどうかは未知数と言えるでしょう。
(文・石野純也)