昨年、ドコモが持株会社のNTTにより完全子会社化されたのを受け、NTTグループの再編が始まっています。NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの子会社化も、その一環。ドコモにさまざまな事業を集約することで、グループ間のシナジー効果を発揮するのが目的です。
法人事業を統合
2社をドコモの子会社にする大きな狙いは、法人事業の強化にあります。コンシューマー向けではトップシェアのドコモですが、対法人となると話は別。会社用の携帯電話が主力だった一方で、大企業や中小企業に提供するソリューションは手薄だったのが事実です。これに対し、NTTコミュニケーションズは対法人が強い会社。個人向けには、プロバイダーのOCNや、MVNOのOCNモバイルONEを提供していますが、ドコモほどの規模ではありません。回線の視点で見ても、両社には補完関係があることが分かります。ドコモはモバイル、NTTコミュニケーションズは固定回線と、得意分野が異なります。固定とモバイルを融合させるサービスを提供できるようになる点で、NTTコミュニケーションズの子会社化は大きなメリットがあると言えるでしょう。場所を問わない一方で容量に限界のある5Gや4Gと、場所は固定されるものの、容量の大きな固定回線を組み合わせれば、弱点を補えるからです。
特に法人向けのソリューションでは、回線がどちらか一方だと提供できるサービスの幅が狭まってしまいます。こうした観点から、NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアをドコモの下につけるのは合理的と言えます。ドコモは、3社を統合した新ブランドとして「ドコモビジネス」を立ち上げ、ワンストップでモバイルやクラウドのサービスを提供してく予定です。
子会社化を見据えていた?「エコノミーMVNO」
これだけを聞くと、法人限定の話かと思われるかもしれませんが、実は一般のユーザーが使うスマートフォンやサービスにも大きな影響があります。統合に伴い、NTTコミュニケーションズが提供しているコンシューマー向けのサービスを、同じくドコモの子会社になる予定のNTTレゾナントに移管する予定があるからです。この移管は統合の第2ステップになり、22年中に実施される予定ですが、すでにいくつかの動きも顕在化しています。10月にスタートしたドコモの「エコノミーMVNO」も、NTTコミュニケーションズの子会社化を見据えたサービスと言えます。エコノミーMVNOは、ドコモが複数のMVNOのサービスをドコモショップで扱う仕組みのこと。
現在、この枠組みに参画が決定しているのは、NTTコミュニケーションズのOCNモバイルONEと、フリービット傘下のトーンモバイルの2社になります。ドコモ本体より安い料金のMVNOをドコモショップの店頭で契約でき、サポートなども受けられるのがこのサービスの魅力です。
エコノミーMVNOは、ドコモにとっては“他社”をお勧めすることになるため、普通であれば、導入を躊躇するはずです。これが実現できたのは、OCNモバイルONEが最終的にドコモの子会社になるからでしょう。子会社であれば、ドコモから移ったとしても、収益をグループ内部に残すことができるからです。
NTTやドコモとは無関係のフリービットが参画したのは、MVNO間の公平性を保つため。本命は、NTTレゾナントに運営が移管されるOCNモバイルONEと見てよさそうです。
実際、OCNモバイルONEはドコモ本体と料金を住み分けられるよう、4月の料金改定で10GB超のプランを廃止。さらに、エコノミーMVNOへの参画に伴い、ドコモが手薄だった500MBの超小容量プランを開始しています。この500MBプランには、月間10分の無料音声通話がつき、音声通話重視派にも最適なサービスと言えるでしょう。このように連携を深めることができるのが、ドコモとNTTコミュニケーションズが統合するメリットです。
XRなどサービス拡大も
ほかにも、サービス面で両社の統合がシナジー効果を発揮するようなことが考えられます。例えば、d払いやdカードが中心の金融・決済分野では、統合を機に「融資」サービスを強化していくことが挙げられています。映像・エンタメに関しても、ドコモとNTTぷららの事業を統合することで、サービスを拡大。さらに、22年には電力サービスにも進出する予定で、コンシューマーが受けられる恩恵は少なくありません。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などのXRを強化していくことも、統合後の方針として明らかになっています。その一環として、ドコモはNreal社の新型スマートグラスである「Nreal Air」の取り扱いを表明しています。競合他社には、“強すぎるNTT”になることを警戒する向きもありますが、ユーザーにとっては広い意味で、ドコモのサービスが強化される点は歓迎すべき動きと言えるかもしれません。
(文・石野純也)