新規参入したばかりということもあり、全国区でサービスを提供するのが難しいため、楽天モバイルはKDDIから26年までの時限措置としてローミングの提供を受けています。本格参入した20年4月当初の自社エリアは、東京都23区や大阪市、名古屋市といった大都市圏に限られており、それ以外のエリアでは、auのローミングにつながっていました。
既存のキャリアであるauが、時間をかけて構築してきたエリアを利用できることに加え、参入直後から全国でサービスを提供可能になるのがローミングのメリットです。一方で、ローミングは無償ではありません。ユーザーが使えば使うほど、楽天モバイルからKDDIへの支払いが発生します。約款を見ると、その金額は1GBで500円程度。楽天モバイルの料金は、3GB超20GB以下で2178円のため、ユーザーが4GB程度使うとほぼ利益はローミング費用に消えてしまいます。
こうした事情から、楽天モバイルの料金プランには、ローミング時の例外が設けられていました。auローミング時の5GBがそれです。料金プラン的には、20GBを超えると3278円で使い放題になる同社の「UN-LIMIT VI」ですが、ローミングエリアでのみ通信していると、5GBプランと変わらなくなってしまうというわけです。5GBプランとして見ると、料金には優位性がなく、常にローミング接続になる地域に住んでいるユーザーが契約するメリットは少なかったと言えるでしょう。
そのため、楽天モバイルは、ローミング費用を抑えると同時に、無制限の料金プランを提供するエリアを増やす必要がありました。ただし、そのエリアに基地局が建っていなければ、ローミングを打ち切っても圏外になってしまうだけ。ローミングを打ち切るためには、自社回線のエリアの拡大もセットで進めていかなければなりません。
ローミング頼みから脱却すべく、楽天モバイルはエリアの拡大を加速。楽天市場の出店社や楽天トラベルの加盟社、資本提携を結んだ日本郵政などをフル活用しつつ、工事会社との関係も見直し、エリア化のスピードを上げていきました。結果として、新規参入時に総務省に提出していた開設計画を前倒しする形で、9月には基地局数が3万を突破。20年4月時点では23.4%だった人口カバー率も、約1年半で94.3%にまで拡大しました。
世界的な半導体不足のあおりを受け、21年夏に達成を予定していた人口カバー率96%にはまだ届いていませが、1年半で一部の都市から全国区にエリアを拡大できたことは事実。これを受け、冒頭で述べたようにauローミングを一気に縮小し始めています。自社回線のエリアが広がれば、収益性が上がり、ユーザーにもデータ容量無制限の料金プランをアピールしやすくなります。加入者獲得のアクセルを踏む準備がついに整ったと言えるでしょう。
楽天モバイルによると、ローミングから自社エリアへの切り替えにあたっては、対象となるユーザーに事前連絡をするなど、細心の注意を払っているといいます。また、切り替え後に圏外となり、楽天モバイル回線が使えなくなってしまった場合、MVNOのSIMカードを入れた端末を貸し出したり、超小型基地局を設置したりといった対策を講じています。
一方で、人口カバー率はあくまで指標のひとつ。全国を500m四方のメッシュに切り、半分以上をカバーした際にそのエリアをカバーしたと見なしています。そのため、実際に数値が上がっても、エリア化されていない場所が存在することに。また、“高さ”も数値には出ないため、例えばビルの高層階や地下街などのエリア化状況は、人口カバー率だけでは推し量ることができません。
auローミングで使用していた周波数帯は、いわゆるプラチナバンドの800MHz帯。これに対し、楽天モバイルが持つ周波数帯は1.7GHz帯と高く、速度が出る半面、電波の広がり方は800MHz帯に見劣りします。ローミングを終了することで、数字には見えない“エリアの穴”ができてしまうおそれがあるというわけです。
そのため、思わぬ場所でつながらなくなったり、電波が弱くなったりする可能性があることは、否定できません。また、ビル内や地下街も楽天モバイルの弱点のひとつ。地権者との交渉にはどうしても時間がかかり、短期集中でエリアを広げるのが難しいからです。
ローミングの早期終了が吉と出るか、凶と出るかは、まだわかりませんが、少なくとも今後は、従来以上にきめ細やなエリア作りが求められるようになりそうです。
(文・石野純也)