5G対応のPCは、各社が取り扱いを強化しています。最近では、ソフトバンクが同じレノボのフォルダブルPC「ThinkPad X1 Fold」を採用し、話題を集めました。これまで、大手キャリアは法人向けのソリューションとしてPCの販売を行っていましたが、21年に入ってからは、徐々にコンシューマー向けのPCを取り扱うようになりました。背景には、コロナ禍があります。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークや遠隔授業などが一般的になりました。オフィスに通う習慣が完全になくなったわけではありませんが、リアルとオンラインのハイブリッド型を取り入れている企業や学校は少なくありません。Zoomなどのビデオ会議ツールを使って家からミーティングに参加したり、出先で資料を作成したりといった利用シーンはコロナ禍前と比べれば、確実に増えています。
こうしたときに活用されるのは、やはり生産性の高いツールとして定評のあるPC。コンテンツやサービスを消費することに主眼が置かれているスマートフォンやタブレットだけでは、ユーザーのニーズを満たすことができなくなってきたというわけです。元々大手キャリアには、PCで利用できるデータプランが用意されていたため、端末そのものを取り扱うのはある意味必然と言えます。
5Gのサービス拡大も、こうした動きを後押ししています。モバイルネットワークに対応したPCは、4G時代から徐々にラインナップを増やしていましたが、Wi-Fi版と比べて価格が上がってしまうこともあり、まだまだ市民権を得たとは言えません。
通信規格としても、4Gまではどちらかと言えば、スマートフォンやタブレットのように、ある程度用途が限定されたデバイスが想定されていました。これに対して5Gは、PCでの通信も初期のころからターゲットに入っています。固定回線の代替としても活用されるほどの帯域の広さがあるため、通信量が大きくなりがちなPCにもマッチした通信方式と言えるでしょう。
各社の料金プランも、PCで使いやすいものが出そろってきました。例えばドコモでは、「5Gデータプラス」という料金があり、これを利用すると月額1100円(税込)で、最大30GBのデータ通信が利用できるようになります。5Gデータプラスは、「5Gギガホ」や「5Gギガライト」といった料金プランと組み合わせて使うオプション的な料金になるため、別途スマホの契約をしている必要はありますが、PCのためだけに数千円支払う必要がなく、気軽に利用できます。こうした通信をセットで提供できるのが、大手キャリアの強みです。
また、大手キャリアは販路としても強力です。ドコモショップは全国に2600店舗ほどあり、北は北海道から南は沖縄まで、幅広い地域に展開されています。大都市圏に集中している家電量販店と比べ、店舗数はケタ違い。こうしたショップで販売できるインパクトは、PCメーカーにとって大きいと言えるでしょう。しかも、スマホで培った、アップグレードプログラムなどの買いやすい仕組みまで整えています。
例えばドコモは、iPhone 13シリーズの発売に合わせて、「いつでもカエドキプログラム」を導入しています。これは、あらかじめドコモ側が設定した24カ月目の残価を引いた形で分割払いできる仕組みのこと。24カ月目の支払いが高額になりますが、端末を下取りに出して相殺したり、その後も使い続けるときには再度残価を分割払いにすることもできます。手元に端末は残らなくなりますが、2年ごとに機種変更していけば、半額に近い金額でPCを購入でき、負担感が和らぎます。
ThinkPad X1 Nanoの場合、先に挙げたように本体価格は23万9976円とお高めですが、24カ月目の残価が9万6360円に設定されているため、23カ月間利用した後に端末をドコモに返却すれば、実質14万3616円になります。23回目までの月々の支払額は6000円強で、手に届きやすい価格で購入することが可能。負担感を抑えつつ、高性能な5G対応PCを利用できるのは、大手キャリアならではの仕組みです。
大手キャリアにとっては、価格の高いPCを販売することで利益が出せるうえに、通信費も1100円ですが、上乗せできるチャンスになります。料金値下げで利用者1人あたりからの収入が伸び悩む中、5Gのネットワークとも相性のいいPCは打ってつけの製品というわけです。コロナ禍という背景もあり、大手キャリアがPCの販売を始めたのは必然だったと言えるでしょう。まだ1機種目の取り扱いを開始するところですが、今後も徐々に拡大していく可能性は高そうです。
(文・石野純也)