「コロナ前と同じ生活には戻らない」ということは想像できるけれど、果たしてどんな生活が待っているのか……。
その手がかりになりそうなのが「オンラインの世界」。
バーチャルオフィスを始めとし、大学やイベントなどにも活用されている「oVice」を提供しているoVice株式会社。代表のジョン・セーヒョン氏に実際にoViceのオフィスに招いていただきお話を伺いました。
オンラインとオフラインは断絶!? リモートワークの今後
ーー新型コロナウイルスが流行し始めて1年半近くが経ちました。バーチャルオフィスを導入している企業からは、「コミュニケーションが取りづらい」「操作がいまいちわからない」「監視されているような感じがする」などの声が聞こえてきますが、現在oViceが課題や問題としているところはありますか。ジョン:正直、今のところoViceに課題はないと思っています(笑)。
テレワーク中は、ちょっとした雑談が減ったり、チームの一体感が薄まってきたりしますよね。これに対しoViceは、物理的な空間、実際に出社しているときと同じように会話ができます。
例えば、近寄って声をかけてくる人と話したり、自分から声をかけに行ったり、何人かで話しているグループがあれば近寄って聞き耳を立てたり、近くにいる人たちとは顔を見て話したりなど。これによって、テレワーク中のコミュニケーションの問題解決をしています。
先ほど「監視されているような感じがするという声もある」とお話しされていたように、バーチャルスオフィスは監視されるツールでもあります。
今のバーチャルオフィス系のサービスを見ると、大きくふたつに分かれていて……。
ひとつは、監視機能にフォーカスするサービス。例えば、仕事をしていたらパソコンのカメラで勝手に顔を撮られ、「この人いないよ」という報告をされるようなもの。
もうひとつは、私たちみたいにコミュニケーションの活性化を重視しているサービス。oViceは、監視をするために作ったツールではないし、私自身も監視されるのは嫌なんです。「監視機能をつけてください」というフィードバックがあったとしてもつけません。「監視機能がないと導入しません」と言われたら、「導入しないでください」と、お返事するくらいで(笑)。
どちらかというと私たちは、管理する人の立場からではなく、実際に利用する現場の人たちが楽しく使えるようなツールの開発を進めています。
ーーなるほど。出社したときとあまり変わらないコミュニケーションがとれるんですね。しかも、楽しく使えるのはいいですね。
ジョン:そうですね。現状の課題はありませんが、新しく出てくる課題はあります。
今後、ワクチンの接種率があがって、コロナ前のようにみんなで集まることができるようになったとき、オンラインの一部がオフラインに戻っていきます。そして最終的には、オフラインとオンラインが半分ずつくらいになるのではないかとイメージしていて、その時に課題が発生すると考えています。
というのもオフラインとオンラインでは、「ちょっとした会話」がしづらいんですよね。そこで、コミュニケーションの断絶が起きてしまうんです。
今まではオフライン、もしくはオンラインが多数を占めていたので、数の少ないほうは、それほど気にしなくても良かったんです。
しかしこれが半分半分になると、会社がふたつに割れてしまいます。つまり、コミュニケーションの断絶が起こってしまうんです。そうなったときに企業が選択できるのは「オフラインに移行するか」「オンラインに移行するか」の二択になってきます。「オンラインに移行する」というのは経営側の判断をあおぐことになってくるので、オフラインに戻っちゃうんですよ。
そこでoViceとしては、「オフラインとオンラインの共存」を提案したいと考えていています。ポストコロナに備えメーカーさんと提携して、オフラインの人とオンラインの人がシームレスに話せるような技術もすでに開発しています。年内にはテストリリースされる予定で、来年までには商用化できるようなスケジュールを組んで、今後の課題の解決に向けて取り組んでいます。
ーーなるほど。コミュニケーションを大切にし、楽しくバーチャルオフィスを利用していただきたいという思いが、オフラインとオンラインもつないでいくんですね。
コミュニケーションだけでなく、同じ空間に「一緒に居る」という価値を提供
ーーoViceを導入していれば場所の制限がなくなるので、国境を越えて外国の人や海外在住の人を採用したり、外国の企業にも応募ができたりしますよね。ジョン:弊社はすでに、日本全国・世界各国から採用しています。
弊社だけでなく、支社をたくさん抱えている企業さまからは特にご好評をいただいています。支社が多いと、支社ごとに業務が独立してしまいますよね。これがoViceだと、関西の営業のリーダーが忙しくて捕まらないとき、気軽に関東のリーダーに相談に行くことができます。
しかしリアルだと、自分が所属していない関東のオフィスに電話をして相談するのは敷居が高い。けれどoViceで同じ空間にいれば、近くに寄って行って「ちょっといいですか」って話しかけることも可能になるんです。
あと、学会などでも喜ばれていると聞きました。教授には年配の方も多く、腰が痛いとか膝が痛いなどで座りっぱなしのこともよくあるようで。それがoViceだとマウスをクリックするだけで動けるので足腰に負担がかからないし、ポスターセッションも同時に行っている場合は、あれを聞いてそれを聞いてと移動したり、知り合いの教授を見つけて声をかけに行ったりと、アクティブに動けますからね。
ーーなるほど。距離だけでなく、身体機能も越えて動くことが可能になっているんですね。これはリアルにはないメリットですね! 企業だけでなく学校などにもoViceを導入すれば、海外の大学や高校に進学することもできますよね。
ジョン:そうですね。oViceを導入している大学はすでにあり、そこでは授業やゼミはもちろんですが、学生が交流するためのラウンジとしても活用されています。グループワークや授業の合間の雑談、帰国してしまった留学生との交流など、oViceを使えばアバターで動き回って話したい人のところに寄っていくことができるので、そうした自由な交流ができるんです。
先日、oViceを導入している大学の学生が、Twitterで「片思いのあの人が近寄ってくれて嬉しい」とつぶやいていて、ハッとしました。「片思いのあの人」とは話をしたわけではないのに「嬉しい」気持ちになる。ここにはコミュニケーション以上のことがあると思います。
例えば、オフィスでもあまり話したことはないけれど、いつも近くに座っている人っていますよね。その人のことを普段からよく見かけるので、いつも一緒にいる感じがして親近感を持ってしまう。それと同じで、oViceの中に一緒にいるというだけで、関係が築けるんです。このようになったのは、「オフラインのような感覚をバーチャルで再現しよう」としたからではないか、と思っています。
oViceはコミュニケーションツールですが、oViceが提供している価値は、実はコミュニケーションだけじゃありません。サービスを開始し、数万人が利用するようになって「一緒にいること」を価値として提供しているということがわかってきんです。
ーーなるほど。実際に私もoViceを体験してみて、「おお、誰かが近くに来た! 」という感覚や、近くに人がいる「気配」をリアルのように感じることができて驚いています。オンラインで会議をしても、ビデオ通話をしてもこのような感覚になることはなかったので!
ジョン:そうですね。oViceで一緒に仕事をしていた人と初めて直接会っても違和感はないんですよ。他のオンラインツールだと「見たことある人ですね」という感じになってしまうけれど(笑)。oViceで唯一、違和感があるのは背の高さですね。思ったより小柄だとか、思ったより背が高いとかそれくらいで、まったく違和感なく会話を始めることがでるんです。
ーーなるほど。人の存在感がリアルと近いんですね。
オンラインとオフラインが共存する未来へ
ジョン:oViceはバーチャル空間をレンタルしているので、「バーチャルの不動産屋です」という言い方をしています。オフィス以外にも物販や蚤の市、マジックショーなど、すでにいろいろな使われ方をされていて。「現実世界でこういうことをやりたかった。でもコロナでできないからオンラインでやってみよう」と思ったときに、どのツールよりもoViceが一番しっくりくるんですよね。それは、私たちがオフィスのための空間を作っているというよりは、現実世界のような空間を作っているからだと思います。
今後、私たちが力を入れようとしているのは「プラグイン」です。
何かを販売したいときの決済方法でいうと、oVice自体に決済方法を組み込むというよりは、外部のサービスとoViceと連携できるようにする、という世界観を持っています。
新しい家に引っ越しをしたとき、なにもない状態で物件を渡されますよね。そこに家電や家具を購入し小物を揃えて自分の空間にしていくように、私たちはバーチャル空間を提供するのでそこに必要なプラグインを入れて、自分に適した空間にカスタマイズしていく方向へと向かっています。
ーーすごいですね! 可能性が無限大という感じがしてワクワクしてきます! プラグインが充実し始めて、oViceを使ったバーチャル空間が多くの人にとって日常的になったとします。そのとき、私たちの生活はどのように変化していくとイメージされていますか。
ジョン:まず、すべてがバーチャルに移行することはないと思います。
3年後や、ポストコロナの時代をイメージすると、物理的なイベントを開催するときに、ハイブリッドなかたち、要するに、オンラインでもすぐ配信できるような工夫が継続してされていくと思います。
展示会や発表会、コンサートなどのイベントもハイブリッドになります。
例えば、東京でイベントが開催されるとして、大阪在住の人がそのイベントに参加しようと思ったとき、オンラインでの参加も、東京に行って現地での参加もどちらでも選択ができる。
会社も同じように、テレワークをしたいときはテレワークをすればいいし、出勤したいときは出勤すればいいし。参加者やユーザーがどちらも自由に選べるようになると考えています。
バーチャルのメリットは、移動がない、時間がかからない、コストが抑えられるなどがあります。それでもやはり、物理的に移動する必要がでてくることもあるので、オフラインが完全になくなるわけではなく、ハイブリッドになっていくとイメージしています。
ーーなるほど。oViceを通じでオンラインの良さについてお話しを伺ってきましたが、最後に、オフラインにはあるけれどオンラインにはないものは、なんでしょうか。
ジョン:ぬくもりと匂いじゃないですか。
私たちがoViceというサービスを通して、人は話をしなくても同じ空間にいるだけで関係を築けるということに気づいたんですね。これと同じで、オフラインが当たり前になりすぎて、見逃していることはたくさんあると思います。実は私もオフラインが好きなんです(笑)。
私はオフィスに行くのが好きなんですよ。自宅よりもオフィスが好きで、いいオフィスを借りてそこで仕事をしていました。そんな私でも今はoViceを使っていますし、oViceを使い始めてから出社することはもう考えられないんです。つまり、私がオフィスで満たされていたものが、oViceにもあると感じています。
とはいえ、年に1回くらいはみんなで集まりたいという気持ちあるので、そこは多分、ぬくもりや匂いということだと思います。
ーーありがとうございます。オンラインとオフラインのそれぞれの良さがわかりました。
オフラインが好きで、オフラインの良さを取り入れて開発されているので、無機質なバーチャル空間ではなく、同じ空間にいる人の存在感を感じられるようなリアルに近いバーチャル空間が出来上がってくるんですね。今後が楽しみです。
oVice
(インタビュー・安室和代)