サービス開始からこれまで、一貫して中小店舗に対する手数料を無料にしてきたPayPayですが、その猶予期間が9月いっぱいで終わります。10月1日からの手数料は1.98%。ただし、月額1980円で利用できる「PayPayマイストア ライトプラン」に加入すると、手数料率は1.6%まで下がります。クレジットカードも含むキャッシュレス決済の手数料が3%前後であることを踏まえると、1.6%や1.98%は非常に割安と言えるでしょう。
とは言え、手数料無料でPayPayに飛びついた中小店舗にとっては、負担額が上がることも事実。単に決済手数料を取られるだけだと、PayPayを止めて現金決済のみに戻す選択肢も出てきてしまいます。そこでPayPayは、PayPayマイストアを用意。このプランに加入すると決済手数料が下がるだけでなく、店舗のマイページを作れたり、クーポンで販促できたりといった集客ツールを利用できるようになります。
PayPayの魅力は、やはりその規模感にあります。ユーザー数はすでに4100万人を超え、四半期ごとの決済取扱高も1兆円を超え、1.2兆円に達しました。多くのユーザーが現金の代わりに使っているキャッシュレスサービスであり、集客効果は高いと言えるでしょう。PayPayマイストアでしっかり宣伝ができるようであれば、他のキャッシュレス決済よりむしろ割安に見えるかもしれません。PayPay側も、このような決済に紐づいた事業を拡大し、収益化を図っていく構えです。
手数料の有料化に踏み切ったPayPayとは逆に、ドコモのd払いやKDDIのau PAY、楽天の楽天ペイは新たなキャンペーンを行います。いずれも、中小店舗の手数料を約1年間無料にするというもの。d払いやau PAYは現時点でもキャンペーンで手数料はかかりませんが、楽天ペイもここに続いたことで、PayPay以外のスマホ決済がそろって手数料の有料化を先延ばしにした格好です。背景には、やはり各サービスの規模感がありそうです。
d払い、au PAY、楽天ペイともに、強力なポイントプログラムに紐づいていて、集客効果は高い決済サービスです。利用者数はd払いが3735万(第1四半期終了時点)、au PAYが3300万(21年7月時点)。楽天ペイは非公開ですが、各種調査ではこの4強に並ぶ数値が出ているため、少なくとも数千万規模のユーザーを抱えていると見ていいでしょう。一方で、店舗数、特に中小規模の店舗に関しては、PayPayがリードしている状況。各社とも比率を公開していないため、厳密な比較はできませんが、PayPayしか利用できない個人経営のお店を見かけたことがある人は少なくないでしょう。
結果として、決済額にも差が出ています。例えばPayPayは、上記のように四半期の決済取扱高が1.2兆円に達していますが、d払いは2660万円と、1/4に満たない規模です。KDDIは決済・金融事業の取扱高が2.5兆円と大きな額になっていますが、ここにはauじぶん銀行やauカブコム証券、キャリア決済の数値も含まれているため、au PAYに限定すると規模感は限定的になります。これは、楽天ペイも同じです。
先行するPayPayが一足先に手数料の有料化に踏み切れたのは、ある程度中小個店の開拓がひと段落して、収益化のフェーズが近づいてきたからと言えるでしょう。逆に言えば、残りのスマホ決済事業者は、まだその段階には至っていないということです。他社に先駆けてPayPayを立ち上げ、大規模なキャンペーンでユーザーを集めつつ、ソフトバンクの営業部隊をフル活用して店舗をくまなく開拓したからこそ、手数料の有料化に踏み切れたというわけです。
とは言え、ビジネスモデル自体は4社とも、大きな違いはありません。決済手数料だけで稼ぐのは難しいため、金融事業をはじめとした周辺領域とのシナジー効果や、通信回線を契約するユーザーの引き留め効果も狙ったサービスと言えるでしょう。
現状、d払いとau PAYは2.6%、楽天ペイは3.24%の手数料を設定していますが、中小規模店舗向けのキャンペーンが終了する来年9月ごろには、この数値を改定してくる可能性も十分あります。手数料を巡る各社の対応を見ると、一足先に次のフェーズに入ったPayPayを他のスマホ事業者が追う構図が鮮明になってきたと言えそうです。
(文・石野純也)