そんな中VIE STYLE株式会社と東京大学は、VIE STYLEが開発するイヤホン型脳波計「VIE ZONE」を活用し、フロー状態を推定する技術開発に成功。IEEEの運営するプレプリントサーバーTechRxivにて、論文を公開しました。
耳からでも脳波記録が可能
両者はまず、医療用などで使われる一般的な脳波計(Brain Amp DC)と「VIE ZONE」の信号の相同性を評価する予備実験を実施。20代男性のワーキングメモリ課題中の脳波を脳波計および「VIE ZONE」で計測し、ほぼ全ての周波数帯で高い相関を確認しました。加えて、イヤホン型脳波計に影響があると言われる心電などの首リファレンスの電位をAverage reference処理で除去し、外耳道より取得された脳波成分のみの相同性を評価したところ、α帯域で高い相関を確認。外耳道から特にα帯域の脳波が取得できていることがわかったといいます。
この予備実験を踏まえ、20代男性9名の安静状態と合計6回のワーキングメモリタスク中の脳波を脳波計および「VIE ZONE」で計測。結果、外耳道の電極からでも、頭皮上脳波信号と完璧な一致はしないものの、ある程度の相同性があるデータを記録できることが示されました。
また、多重比較における保守的手法であるBonferroni法で補正をかけたところ、α波帯では20%程度のデータで外耳道と頭皮上脳波の有意な相関を確認。この結果は、外耳道電極でも脳波成分を記録できることを示しています。
フロー状態の解析
イヤホン型脳波計での計測で脳波成分を記録できることがわかったところで、「VIE ZONE」から取得した脳波を活用し、課題を行っている際の主観的なフロー状態の解析を試みました。実験参加者(20代男性9名)は、報酬付きの比較的難易度が低いワーキングメモリ課題であるユーストレス課題と、罰則付きの難易度が高いワーキングメモリ課題であるディストレス課題に取り組み、タスク終了後に主観評価として作業課題版Flow尺度(Yoshida et al., 2013)に回答。そこから、flow尺度得点はディストレス課題時よりユーストレス課題時のほうが高いことがわかり、ユーストレス課題のほうがフロー状態を誘発しやすいことを確認しました。
この実験に際し、「VIE ZONE」で取得した信号からフロー状態を予測するlassoモデルを構築。脳波よりフロー尺度から求めた主観的なフロー状態の予測を行ったところ、外耳道の脳波だけを活用して予測したモデルの精度はr=0.77となりました。多電極脳波計から取得したデータからの予測精度がr=0.91のため、外耳道の脳波からでもある程度実用可能な予測精度を実現したといえるでしょう。
ちなみに、VIE STYLEとNTTデータ経営研究所が共同開発した、外耳道より頭皮上脳波を復号化するEar2Brainモデルを活用すると、予測精度が全被験者平均で0.80となり、オリジナル信号だけを利用した場合より高精度となることもわかっています。
今回の結果から、イヤホン型脳波計による信号からでもフロー状態を解読できる可能性が示されました。今後は、デバイスの性能評価などの基盤的な研究から状態推定などの応用研究を進め、フロー状態の他、感情・疲労・眠気など人間の内的な状態推定も実現していきたいとのこと。また、映像・音声などの刺激により人の能力を向上するシステムの開発も視野に入れているようです。
PR TIMES
(文・Higuchi)