国土交通省「令和2年度テレワーク人口実態調査」によると、「コミュニケーションのとりづらさや業務効率低下などにより仕事に支障が生じる」を課題としているケースが多く、その理由として「口頭で確認すれば簡単に済むことでも、メール等でやり取りしなければならない」が挙げられています。
この課題解決の一手となりそうなのが、株式会社OPSIONの提供する「CLOUD OFFICE RISA(以下RISA)」。今回は同社代表取締役の深野崇氏へのインタビューを通して、「RISA」というサービスについて解説します。
新しいテレワークを提唱する「RISA」
――まず御社がどういうサービスを提供しているのか教えてください。深野:テレワーク環境でも現実世界のようにオフィスに出社して、メンバーとの気軽なコミュニケーションを実現するバーチャルオフィス「RISA」というサービスを提供しています。
――コロナ禍によってテレワーク導入企業が増えています。サービス開発の背景にはコロナの影響もあったのでしょうか?
深野:実は「RISA」自体はコロナ前の2019年から提供しています。もともと会社として「理想的な仮想世界の実現」を目標として掲げており、その切り口のひとつが2020年の東京オリンピックでした。
世界中から人が集まるので、交通混雑緩和のために都内の企業はテレワークをしましょうという動きがあったんですね。実際、2012年のロンドンオリンピックのときも、それまで普及していなかったテレワークが一気に増えたという事例があります。
そこで、日本でも同じことが起こるのではないかと見込んでテレワーク向けにバーチャル空間を活用し、今の働き方よりも良いものを作ろうと模索した結果「RISA」が誕生しました。
――バーチャル空間でメンバーと気軽にコミュニケーションができるという発想はどこから生まれたのですか?
深野:2019年当時、すでにテレワークを導入されている企業に課題のヒアリングをしました。その中で「ビデオ会議やチャットを使えばフォーマルな話は問題なくできるが、ちょっとした雑談のようなコミュニケーションが埋もれてしまう」という課題が浮き彫りになってきたんですね。
そこでビデオ会議やチャットでは補うことのできないコミュニケーションをカバーできる第三のツールを作る、これがサービスの原型になっています。
最大の特長は3D空間による臨場感
――「RISA」のデモ動画を拝見するとゲーム画面のような印象を受けますね。具体的な使い方を教えて下さい。深野:まずブラウザ上でリンクをクリックするとバーチャル空間上のオフィスに出社できます。自分のアバターを操作して空間内を歩いたり、部屋に入って他のメンバーとコミュニケーションを取ったり……そのとき相手の状況がわからないと話しかけにくいですから、頭の上にアイコンが出ていて「話しかけて大丈夫です」「忙しいです」といった状態がひと目でわかるようになっています。
一番大事にしているのは直感的であることです。パッと見て相手がどこにいるか把握できて、そこに走っていくだけで話せる。ITが苦手な方でも迷うことなく操作できるので、高機能というよりは直感的、わかりやすさにこだわったインターフェイスにしました。
――さまざまなバーチャルオフィスのサービスがありますが、「RISA」独自の特長は何でしょうか?
深野:一番の特長は3D空間による臨場感ですね。相手がどこにいるか探して、近くにいる相手と話せるというのは現実世界の体験に近いんです。
また、3Dは情報量が多いので、アバターの距離や動きからいろいろとを察することができます。例えば新入社員のアバターがウロウロしていたら「何か困っているのかな」みたいな情報がつかみやすいのは大きなポイントです。
――わざわざ相手のところに移動して話すというプロセスは、現実世界に近いですね。実際に「RISA」を導入されている企業からはどんな反応がありますか?
深野:「オフィスに出社していたときと同じような距離感で業務ができるようになった」という声がメリットとしてお客様から寄せられています。
コミュニケーションを取るためにその都度ビデオ会議のリンクを発行したり、チャットで時間の調整をしたり、そういったコミュニケーションまでのステップが億劫でちょっとした情報共有ができていなかったが、「RISA」は空間内に社員がとどまっているので、自然な感じでコミュニケーションできるようになったとご評価いただいています。
他にも相手との関係性がまだできていない新入社員が、いきなり上司に電話するというのはなかなか難しいですが、「RISA」なら相手の状況がひと目でわかるので、「今大丈夫かな」と変に気を使って時間を無駄にすることなく相談できるという声もあります。
――ある意味バーチャル空間のほうが話しかけやすいケースがあるかもしれませんね。
深野:もう一つメリットを挙げるとすれば、会議前後のちょっとしたやり取りができる点です。現実世界だと会議前にすり合わせや会議後のフォローアップがあって、それが意外と重要だったりするんですが、ビデオ会議は要件が終わると「お疲れさまでした」とすぐに切断してしまいますよね。
「RISA」は空間がずっと開かれている状態なので、例えばこの部屋で会議が終わった後、隣の空き部屋でちょっと話そうみたいな、会議前後の会話が生まれるようになったという声もいただいています。
3D空間ならではの課題も
――ところで、これだけ3D空間でアバターがグリグリと動き回ると、PCや通信回線に負荷がかかりそうですが……。深野:実はそこはボトルネックの一つになっていて(笑)。できる限り軽く設計しているんですが、古いPCだったり大人数になったりするとどうしても動作が重くなってしまいます。
対応として「RISA」2Dバージョンのリリースに向けて準備を進めています。同じ空間に2Dでも3Dでも選んで入れるというイメージです。あとはフロアを分けることで1フロアの人数を減らし、負荷を軽減することも考えています。
PCやネットワーク環境に応じて切り替えができ、シームレスにコミュニケーションが取れる体制を作ることで、今後は500人1000人という大人数にも対応していこうと検討中です。
――現時点ではPCのブラウザからのみアクセスできるんですよね。今後ポストコロナの世界になったときに、例えば出先からメッセージをチェックしたいとか、メンバーとコミュニケーションを取りたいとか、そういうニーズも出てきそうです。
深野:そうですね、今後完全テレワークというよりは、出社する人とテレワークする人が共存する働き方がスタンダードになると思います。当然モバイルからのアクセスも重要になりますので、将来的にそこは対応していく予定です。
――御社ではメンバーが「RISA」に出社して、各自テレワークで作業しているんですよね。ちょっと性悪説的な質問ですが、「RISA」の空間にアバターはいるけど実は裏でインターネット見てるとか……その辺りの対応はされているんですか?
深野:一人ひとりのメンバーに対して期待する成果を明確にしているので、そこをクリアできていれば問題ないというのが当社のスタイルです。もちろん、日々のコミュニケーションの中で進捗や空き状況などは把握しています。
コロナ禍によるテレワーク導入で「従業員がちゃんと仕事をしているかわからない」という課題をよく耳にしますが、実はこれってコロナ前からあった課題だと思っています。「席にいるからちゃんと仕事をしている」という感覚的なものが、テレワークで見えなくなったから不安に感じているんですね。
この課題を本質的に解決するには、成果をベースに評価するジョブ型の働き方が一番理にかなっています。とは言え、これまでの日本人の働き方からいきなり完全ジョブ型にするのは難しい。
「RISA」はテレワーク下でもオフィスに出社していたときと同様のマネジメントを実現できるところにアプローチしていますが、今後はタスクを完了することでポイントが付与されような機能の追加も考えています。
例えばポイントを使ってアバターの見た目を変えられるようなゲーム的要素を取り入れることで、仕事のアウトプットをインセンティブに結びつける体験を作り、ジョブ型ベースの仕事にも適応していく、そんなことも検討しています。
(文・川口裕樹)