レーザーで自己位置を推定
石炭運搬船には、高さ20mにもおよぶ船倉を有するものがあり、またハッチカバーを閉めると暗所となるため、人の目視による点検が困難なケースがあるといいます。そこで活用したいのがドローンですが、多くのドローンは全地球測位システム(GNSS)によって位置情報を把握しており、電波が届かない船倉内での自律飛行は不可。熟練したパイロットによる船上での手動操縦でしか飛行できないという課題がありました。今回の実験では、レーザー照射により自己位置推定を行うLiDAR SLAM(ライダースラム)技術と、従来より高解像度のカメラを実装した国産ドローン「ACSL-PF2」を活用。また、電波干渉が生じやすく、無線通信に適さない船倉内での安全な自律飛行を実現すべく、ドローンとパイロットのモニタリング端末を光ファイバーケーブルで有線接続したようです。
今後は、乗組員でも容易に運用可能なドローンの開発や、閉所・暗所を有するさまざまな船に適した飛行点検の開発に注力していくとのことです。
商船三井のICT戦略
商船三井は、「海上のICT」「攻めのICT」「守りのICT」「One MOL」「ガバナンス強化」という5つを軸としたICT戦略を策定しています。2016年に、国立大学法人横浜国立大学と「海運ビッグデータの分析と活用」に関する共同研究契約を締結。同大学の長尾智晴教授協力のもと、経済や海事に関するデータをAI解析し、海運市況や燃料油価格を高精度で予測するシステム開発を進めています。最近では、2020年12月に船舶の設計・運航支援のシステム開発を行う NAPA Ltd(本社 フィンランド)および一般財団法人日本海事協会と共に、座礁リスク監視システムの開発を開始。複数の船舶情報を一覧表示し、リスクの高い海域への侵入が予測される場合にリアルタイムで警告を発することで事故防止に貢献するといいます。同システムは、2021年に本格運用を予定しているようです。
また、古野電気株式会社および商船三井テクノトレード株式会社と共同開発した「AR航海情報表示システム」を2021年3月にアップデート。もともと、計画航路と自船周囲で航行する他船や浅瀬などの情報をタブレットやディスプレイ上にARを重ねて表示し、操船や見張りを視覚的にサポートするものでしたが、このアップデートにより、これまで手動設定だった安全水深の境界情報が自動表示されるようになっています。
このように、船倉点検や運行監視システムなどへの積極的なICT活用は、効率的かつ安全な海上輸送を実現するのかもしれません。
PR TIMES
(文・Higuchi)