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Start Up コロナハッカソンブームに意味はあったのか? エストニアの有識者が徹底解説

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コロナハッカソンブームに意味はあったのか? エストニアの有識者が徹底解説

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2020年、世界はコロナウイルスの脅威に見舞われ、オンラインハッカソンブームに火がついた。「三密」を回避してコロナがもたらした社会課題を解決するためには、オンラインハッカソンがぴったりだったからだ。

しかしこのブームに意味はあったのだろうか? エストニア発のコロナ対策ハッカソンシリーズ「HackTheCrisis」主催組織の1つ、Garage 48のCEO Mari Hanikat氏と、エストニア最古のタルト大学准教授で、米国カーネギーメロン大学非常勤准教授でもあり、ハッカソン研究を専門とするAlexander Nolte氏に話を聞いた。

今や「ハッカソン」は誰でも参加できるもの

ーーハッカソンという言葉も新しくなくなりました。今の「ハッカソン」と昔の「ハッカソン」は同じと考えて良いのでしょうか?

タルト大学准教授
米国カーネギーメロン大学非常勤准教授
Alexander Nolte氏

ノルテ氏:同じではないですね。今も昔も変わらないのは、「限られた時間」で「限られた人数の参加者」が「チームを組んでアイデアを生み出し、発展させていく」ということです。

一方で、近年ではハッカソン参加者の間口が格段に広がりました。

ハッカソン黎明期の参加者は、35歳から40歳くらいの白人のエンジニア男性ばかりでした。しかし今では、エンジニアだけに限らず、マーケティングのプロ、金融のプロなど、さまざまなバックグランドの人たちがそれぞれの専門性を持ち寄って1つのアイデアを発展させていきます。

この流れに拍車をかけたのがコロナ禍によるオンラインハッカソンブームでした。

Garage 48 CEO Mari Hanikat氏

ハニカット氏:最近では、ハッカソンのテーマも多様化しています。

黎明期にはプログラミングを中心としたプロダクト開発が中心でしたが、今では政策に関するもの、科学に関するもの、サイバーセキュリティに関するもの、観光に関するものなど、多岐にわたります。

ーー世界的なコロナ禍で三密回避が必須となり、ハッカソンのオンライン化が急速に進みました。この動きをどう捉えていますか?

ハニカット氏:この1年のコロナ禍で、オンラインとオフラインそれぞれの強さ、弱さ、そして対応の違いがはっきりと見えました。

オフラインでは、当日その場に集まった参加者同士でアイデアをプレゼンしてチームを組んだり、意見交換したりすることが容易です。こうした「その場」の出会いこそがオフラインの醍醐味です。

しかしデメリットもあります。オフラインでは「その日、その場」にいることが必須です。つまり、仕事や家庭、金銭的な事情などでどうしても来れない人は参加できません。

オンラインでは誰もが気楽にどこからでも参加できます。昨年、Garage 48はアフガニスタンでもオンラインハッカソンを開催しました。アフガニスタン国内の20以上の地域から600人以上が参加しました。オフラインではこうはいかなかったと思います。

ただ、オンラインは手軽に参加できるため、登録するだけして、実際に参加しない人も出てきます。オンラインハッカソンでアクティブなのは全登録者の5分の1ほど。これはオフラインハッカソンでも起きる問題ですが、オンラインになるとこうしたドタキャンがオフラインよりもかなり多く発生します。こうなると運営の舵取りも難しくなります。

なので、オンラインでは、チーム編成を事前に行ったり、事前選考を実施して、きちんとコミットする参加者を絞ることも重要です。

ノルテ氏:オンラインハッカソンでは「ドロップアウト」も問題になります。

オフラインでは、参加者全員がひとつの場所に集まっているため、途中で荷物をまとめて帰る、なんてことはしづらいですよね。でも、オンラインなら、パソコンを閉じてしまえばそれでおしまいです。こうした参加者側の姿勢も今後問われるかもしれません。

オンラインとオフラインに違いはない?

ーーノルテ教授はハッカソンの研究をなさっています。データから見て取れるオンラインとオフラインの違いはどんなものでしょうか?

ノルテ氏:私は最近、オンラインとオフライン、合わせて30-40くらいのハッカソンを調査しました。その結果わかったのは、チームとプロジェクトの観点では、大差がないということでした。つまり、どちらにしても参加者はコミュニケーションを取ってプロダクトを作ることができるのです。

この調査で面白い発見がありました。オンラインハッカソンの参加者は、ゴールの設定や、誰が何をやるのか、何をすべきなのか、ということをオフラインハッカソンの参加者よりも明確に理解していたのです。

オンラインではチームメンバーと一緒にいないからこそ、自分が何をするのか、相手が何をするのかを把握していないと作業が進みません。だからこそ、参加者はより綿密なコミュニケーションを心がけるのでしょう。

ーーその他、コロナ禍で変わったことはありますか?

ノルテ氏:ハッカソンの参加者が変わりました。これまではエンジニアと意識の高い人や、時間的に余裕のある人だけがハッカソンに参加できました。しかし、コロナ禍を経て、多くの人が「もう家で座っているのは嫌なんだ。こうしている間にも自分にできることがあるはず」と考えてハッカソンに参加するようになりました。

実際、コロナ禍をきっかけに初めてハッカソンに参加した人が数多くいます。これまでの「ハッカソンの民主化」がコロナ禍でさらに進んだのです。

ハニカット氏:参加者だけではありません。2020年に始まったコロナ関連ハッカソンブームを見て、公的機関や大企業など、より大きな組織がハッカソンに興味を持つようになり、大きな予算で主催しようとしています。

公的機関の関係者が参加者としてハッカソンに来ることも増えました。今までになかったことです。ただ、こうした組織のハッカソンに対する期待は至って安易で非現実的です。

Garage 48もこの1年で公的機関からハッカソン開催を依頼されることが増えました。彼らの多くが実用可能なサービスとプロダクトがハッカソンですぐに生まれ、ビジネスとして軌道に乗ると考えています。しかし、そうではないのです。

ハッカソンはあくまでアイデアを形にする場所で、ビジネスとしての成否はその後の継続的な努力にかかっているのです。

ポストコロナのハッカソンはどうなる?

ーー公的機関が非現実的な期待をハッカソンに寄せるのは問題ですが、公的機関からの期待やサポート自体はハッカソンの参加者にもポジティブに働くところもあると思います。ハッカソンの主催者はどうやって公的機関と付き合っていけば良いのでしょうか?

ハニカット氏:まずは啓蒙活動ですね。ハッカソンは本来どんな場所で、何ができるのか、何ができないのかを公的機関に知ってもらう必要があります。

ノルテ氏:ハッカソンによって「得られるかもしれないもの」はたくさんあります。新しいコミュニティ、優れた人材、新規事業などがわかりやすい例です。ですが、これらが全て手に入らなかったり、両立できないこともあります。

「ハッカソンによって何を得たいのか」。これをしっかり念頭に入れて主催しないと、せっかくのハッカソンも意味がなくなります。大切なのは、ハッカソンはあくまで課題解決の1つの手段だということです。

以前、こんなことがありました。ある企業がどうしようもないソフトウェアを持っていたんです。その企業の関係者が私のところに来て、「このソフトウェアをどうにかするためのハッカソンを開催してもらえないか?」と言ってきたのです。

そんなどうしようもないソフトウェアを誰が直したいと言うのでしょうか? また、既存のソフトウェアを改善するのにハッカソンは必要でしょうか? むしろ、ベンダーに相談して改善してもらったほうが良いのではないでしょうか?

もちろん、ハッカソンで改善するという方法もあります。でも、ハッカソンは何にでも効く万能薬ではありません。イノベーションが必要ならハッカソンもアリです。でも、課題解決の最善の方法がハッカソンとは限りません。

ハニカット氏:Garage 48が運営した2020年以降のハッカソンの90-92%が政府やチャリティなどの公的機関の資金によって運営されています。国や政府が「ハッカソンで課題解決が可能だ」と学んだからです。

だからこそ、アフターコロナに向けてGarage 48のようなスタートアップが「ハッカソンで目的を達成することはできる」ということを公的機関に見せながら、同時に「ハッカソンがどんな課題も解決する」という期待は現実的ではないのだと伝える必要があります。

(文・佐藤友理)

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