シンガポール国立大学(NUS)らの研究チームは、こうした要望を満たす可能性のある超薄型材料を開発した。
従来のハードドライブのような「強磁性」のメモリデバイスは、データを格納に用いる磁極がすべて同じ方向に向いている。このパターンが処理速度の遅さや壊れやすさに関わっているという。対して研究チームが扱う「反強磁性体」の材料は、隣接する原子上の磁極が反対方向を向いたものだ。
高速でエネルギー効率が高い次世代メモリ
反強磁性体の中でも渦巻型をしたものは、特殊な磁性ナノパターンを形成することがわかっている。各パターンは中心領域に時計回り、または反時計回りに巻き付いた多くの磁極で構成されていて竜巻さながらだ。反強磁性の渦を組み合わせた場合、非常に安定した構造となり、毎秒数kmと、既存のメモリデバイスよりも大幅に高速な旋回を実現する可能性がある。さらにはエネルギー効率も高まり、情報を格納するだけでなく、演算処理もこなす次世代チップの開発を可能にするとのこと。
反強磁性材料は一見非磁性のように見えるため、パターンの構築と操作には工夫が必要だった。
ビックバンの相転移からインスパイア
研究チームは、反強磁性渦を実現するために、材料工学の高品質な膜合成、物理学の相転移、数学のトポロジーを組み合わせたアプローチを思いついた。材料を成長させるために、錆の主成分でもある酸化鉄にレーザーを発射。レーザーの超短パルスで原子粒子の高温蒸気を生成し、表面に酸化鉄の薄膜を形成する。この手法により原子レベルでの正確な制御が可能に。ビックバンの相転移に似た磁気遷移を起こす。
次のステップで研究チームは、旋回を電気的に制御できる回路を構築する計画だ。
参照元:Researchers from NUS create ‘whirling’ nano-structures in anti-ferromagnets/ NUS