同モデル最大の特徴は、その価格にある。5Gに対応しながら、本体価格はわずか1万9637円(税込み2万1600円)。番号ポータビリティ(MNP)で他社から移って新規契約すると割引を受けることができ、実質価格は1円まで下がる。5G端末がタダ同然で配られるというわけだ。
MNPで1円と、5G端末最安をつけたRedmi Note 9Tだが、機能的には必要十分を満たしている。
19年12月に参入したばかりのシャオミだが、わずか1年強で日本独自仕様のおサイフケータイに対応。モバイルSuicaやiD、QUICPayといった電子マネーを利用でき、キャッシュレス需要にこたえる。
おサイフケータイは、一度使うと手放せない機能の代表格なだけに、乗り換えのための障壁が取り除かれたと言えそうだ。
パフォーマンスも価格以上に高い。チップセットにはメディアテック製の「Dimensity 800U」を採用。
クアルコムのSnapdragonで言えば、7シリーズに相当する性能で、ゲームなどのパフォーマンスを必要とするアプリも十分動く。シャオミによると、ベンチマークでのスコアもミドルレンジ上位のモデルに相当するスコアをたたき出しているという。
同様のスペックを備えた端末は、5万円以上で販売されている。メモリ(RAM)は4GB、ストレージ(ROM)は64GBと少々少ないものの、この点を勘案してもお値段以上の端末と評価できそうだ。背面に搭載されたカメラもトリプルカメラ(ただし、内1つは深度測定用)で、メインの広角カメラは画素数が4800万画素と高い。4つの画素を1つに結合して、暗所性能も高いと見られる。
Redmi Note 9Tは、5Gの契約者数を伸ばしたいソフトバンクと、日本市場での存在感を高めたいシャオミ、双方の思惑が合致した戦略的モデルだ。参入直後から、2社は同モデルの投入を協議してきたといい、時間をかけ、仕様を詰めてきたことがうかがえる。Redmi Note 9Tはグローバルで販売されるスマートフォンだが、日本市場向けのカスタマイズが加わっていながら、価格は日本版のほうが安い。ソフトバンクが一定のコミットすることで、価格を抑えられた格好だ。
2月から、ソフトバンクは4Gから5Gへの周波数転用を開始する。転用する周波数の1つには、屋内浸透がしやすい700MHz帯もあり、スタート直後とは5Gのつながりやすさが激変する可能性が高い。このタイミングに合わせ、価格の安いシャオミのRedmi Note 9Tを投入することで、5Gの普及に弾みをつけるのがソフトバンクの狙いと見ていいだろう。
一方のシャオミは、鳴り物入りで参入したものの、まだ販売実績は1年余りで、日本での認知度はまだまだ低い。スマートフォンの動向やガジェットに詳しいユーザーには知られているものの、一般のユーザーとっては“無名のメーカー”。知名度を上げていくには、ほかのメーカー以上にインパクトのある端末を投入しなければならない。
日本では、19年に改正された電気通信事業法で、端末購入補助の上限が2万円に制限された。そのため、かつてのように実質1円や実質0円の端末は、姿を消してしまった。このルールを守りつつ、タダに近い価格を実現しようとすると、本体価格は約2万円に抑えなければならない。価格の安さはシャオミの得意とするところだが、ソフトバンクとタッグを組むことで、コストパフォーマンスの高さを一段推し進めたというわけだ。
ほぼ無料で手に入る端末は、バリエーションが少なくなったこともあり、人気が高い。楽天モバイルが12月に導入した「Rakuten Hand」も、キャンペーンで実質0円を打ち出してから、販売が加速している。楽天モバイルが新料金プラン「UN-LIMIT VI」の導入を発表して以降、売れ行きがさらに伸び、本稿執筆時点では品切れが続いている。シャオミのRedmi Note 9Tも、こうしたトレンドを踏まえたモデルと言えそうだ。
(文・石野純也)