料金は20GBで2480円。他社が、5分間の音声通話定額をセットにして2980円を打ち出すなか、音声通話を30秒20円の従量制にして、そのぶん500円安い金額を打ち出した格好だ。
5分間の音声通話定額は、「トッピング」と名付けられたオプションでつけることが可能。この料金は500円で、条件をそろえると他社と横並びになる。
あえて5分間の通話定額をつけなかったのは、povoのターゲットが20代を中心にした若年層だからだ。KDDIによると、若年層のユーザーは、6割程度が月に10分未満しか通話しないという。LINEなどのメッセージアプリで通話を済ませてしまうユーザーにとって、5分間の音声通話定額は“不要”なオプションになる。無駄を省いて、そのぶんを価格に還元するというのがKDDIの戦略だ。
5分間の音声通話定額は、トッピングで500円。このトッピングが、povoの特徴になる。2480円というのはいわば具の乗っていないピザのようなもの。その上に、自分が必要とするサービスをつけ、自由に料金プランをカスタマイズするというのがpovoのコンセプトだ。
開始時には、5分間の音声通話定額(500円)だけでなく、完全通話定額(1500円)や1GBのデータ容量(500円)、さらには200円で24時間データ通信が使い放題になるトッピングが用意される。
おもしろいのが、24時間のデータ容量無制限だ。これまでのスマホの料金は、月単位が基本。容量無制限のプランは用意されているが、24時間単位というのは珍しい。KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏は、動画サービスを思う存分楽しみたいときに使えるトッピングとして紹介したが、テレワークで急遽外出先からビデオ会議に接続する必要がある日や、写真などを大量にアップロードしたいときなど、ビジネスにも活用できそうだ。
トッピングでオンライン専用の新料金プランに独自の“味付け”をしたKDDIだが、第1弾だけだと、従来のスマホの料金にあるオプションと、大きな差はない。専用アプリで、あたかも設定を切り替えるような簡単さで申し込めるのは特徴だが、数やバリエーションが充実していてこそのトッピングと言えるだろう。povoが単なる廉価プランにならないためには、トッピングの拡充が必須だ。
KDDIが第一弾と評していたように、トッピングはサービス開始後も、追加していく予定だ。高橋氏は、「2時間あるドラマが見放題になったり、SNSが1日見放題になったりと、アイディアをいただきながらトッピングメニューをどんどん成長させていきたい」と語る。特定のサービスの通信をカウントから除外するゼロレーティングや、コンテンツそのものを組み合わせることも想定しているようだ。これが充実すれば、povoならではの特色になる。
トッピングが好評を博せば、1ユーザーからの平均収益(ARPU)が上がるため、KDDIは減収影響を抑えることができる。povoの開発にあたり、KDDIはシンガポールに拠点を構えるCircles Aisa社と提携した。Circles Aisaの運営するMVNOのCIRCLES.LIFEにもトッピングに近い追加オプションの仕組みがあり、MVNOでありながら、回線を提供するMNOより高い料金を払うユーザーもいるという。単なる値下げではなく、新たな収益源を模索している点で、他社のオンライン専用プランとは差別化を図ったと言えそうだ。
ただし、povoは、当初4Gのみでのスタートになり、5Gへの対応は夏以降になる。この点は、4G/5Gの両対応でスタートするドコモのahamoや、ソフトバンクのSoftBank on LINEにリードを許している点だ。5Gの対応が遅れるのは、開発に時間がかかっているため。当初、povoはauやUQ mobileに並ぶブランドとして、MVNOで参入する計画だったが、政府の要請や他社対抗の必要から、au自身で提供する方式に切り替えた。土壇場での変更になってしまい、5Gが間に合わなかったというわけだ。
こうした違いはある一方で、各社のオンライン専用プランの料金は、ほぼ一線に並んだ。従来の料金プランと比べると大幅に安いが、キャリア内での料金プラン変更が加速し、ユーザーの奪い合いは沈静化してしまうおそれもある。2980円や2480円は、同額でデータ容量使い放題を打ち出す楽天モバイルにも影響を与えそうだ。使えるデータ量は楽天モバイルのほうが多いが、エリアに大きな開きがある。低容量プランが主力のMNVOも、料金の見直しを迫られそうだ。
(文・石野純也)